11話 折れた心
作業のように走り、ライフルを拾う。
そしてホワイターの元に転移して撃つ。
しかしホワイターはそれを容易く処理してきてすぐに弓矢で追撃してくる。
俺はそれから逃げようと転移して街に行く。
街で適当に食べ物を拾って人形兵を作る。
毎回その繰り返しだ。
次こそは勝てると思ってた。
でも勝てない。
「ブラック・リリー……」
「黒姫か。ある程度、人形兵も揃ったし一気に攻めに行く」
「はい」
諦め半分の特攻をしようかと考える。
せめて人形兵の攻撃が一発でも入らないかと神に祈るけど、ホワイターのHPは微塵も削れない。
「黒姫……俺、もう疲れたよ」
「はい?」
「何度も何度もホワイターと戦った。その度に呆気なくやられて……どんなに策を組んでも読まれて対処される……負けても、すぐにホワイターとの戦いが繰り返される。もう、疲れたよ……」
「何を言ってるんですか?」
「信じないかもしれないけど俺は時間をループしてるんだよ……もう何度やり直したかなんて途中から数えるのがバカバカしくなってカウントしてない。そして勝たないとループは終わらない……」
『攻守交替の時間です。 ホワイター様に攻撃権が移ります』
あぁ……一つだけ手があった。
逃げよう。どこまでも逃げてしまおう。
俺が勝負を諦めて、ひたすらホワイターから逃げてれば、その時だけは楽になれる。
勝とうとしたから疲れたんだ……
もう勝とうとしなければいいんだ。
俺はマップを開き、適当な場所に転移する。
転移した先は場所は遺跡だった。
「ちょ、ちょっとそこに敵は……」
「もう戦わねぇよ……逃げるんだよ……」
「は?」
「逃げてる間だけは頭も使わねぇし楽になれる。もう疲れたんだよ」
そして近くの柱に腰掛ける。
ゲーム内なのに空が青くて綺麗だ。
嘲笑うかのように雨でも降ってくれたら少しは楽になれるというのに……
「……あの、ブラック・リリー?」
「どうした?」
「あなたはなんでTEQをしてるんですか?」
そんなの決まってる。
雫を他の男に渡さないためだ。
俺は雫が大好きで、誰にも渡したくない。
でも雫は人工知能で世界大会優勝者との結婚が約束されている。
だから俺はきゃぴきゃぴカップを勝って日本大会にも出て、そこでも勝って世界大会に行き優勝しなければならない……
「勝つためだよ」
でも勝てない。
勝たなきゃいけないのに勝てない!!
もう全てが嫌になる!!
こんな弱い自分も勝てない現実も!!
ダメな俺に文句一つ言わない雫にも!
「……よーく分かりました。私はあなたが嫌いです」
「は?」
「何があるか知りませんけど私達、人工知能はプレイヤーの皆様に楽しんでもらうためにTEQを運営してるんです!! ゲームをやって苦しいならやらければいいじゃないですか!」
「そういうわけにもいかないから俺は苦しんでるんだろうが! 辞められるもんなら辞めてぇよ! こんなクソゲー!」
クソゲーだよ。
TEQはクソゲーだ。
それなのにやめられない。
無理矢理、勝つまでやらされ続ける。
もうそれが嫌なんだよ!!
「クソゲー?」
「あぁクソゲーだよ!! 勝てねぇゲームをクソゲーと言ってなにが悪い!」
「戦う前から勝負を諦めてクソゲーと叫ぶ。あなたの方がよっぽどクソですね」
「戦う前から? ちげぇよ!! 俺は何度も戦ったよ! それでもあいつには勝てねぇんだよ!!」
「勝てないって決めつける辺りがクソなんですよ!! いいですか? TEQはどんな弱者で不利な状況でも絶対に逆転の鍵があるように私達がバランス調整をしています!! 自分の弱さを理由にその私達の努力を否定するな!」
黒姫がそう叫んだ。
しかし、その瞬間に黒姫が倒れる。
彼女の心臓には矢が突き刺さっていた。
「ジ・エンド……かな?」
「ホ、ホワイター……」
『勝者。ホワイター』
また負けた……
いつも通り負けた。
目覚めると雫がいて、俺の元に駆け寄る。
また、やり直しか……
「司君!」
「もう俺の知ったことか!」
俺は気付いた時には雫の顔を手で払っていた。そして、そのまま外へと走る。
外は雨が降っていて俺の体を濡らす。
しかし俺はそんな事にお構いなく走る。
どこてもいい……どこか遠くへ……
それから何時間走っただろう。
雨は未だに降っていて、気付いたら俺はどこかの高台で休憩していた。
その高台からは晴れてれば街が一望出来る。
昔、よく雫と一緒に来た高台だ。
「……こんなところにいた」
「……赤……薔薇姫?」
何故、こんなところに……
「会場からいきなり走り出したら誰だって気になるから少し歩いて探したらいた」
それから缶コーヒーを投げる。
俺はそれを手で受け止める。
「こんなに雨に濡れて風邪引くわよ。せめてこれでも飲みなさい……」
「あぁ……」
「それで、どうしたの?」
赤薔薇姫が俺に問いかける。
言えないし言っても信じてもらえない。
それでも俺はもう耐えられなくて話していた。ループして何度もホワイターに負けて、終わりの見えない戦いに全てが嫌になった事。雫の事を除いて全て話した。
「……もう諦めて負ければいいじゃない」
「それは出来ない……」
「そっか」
それでも赤薔薇姫は何も言わず俺の話を聞いてくれた。彼女の言う通り逃げてしまえばいいのは分かってる。
でも、それだけは出来ない。
「ブラック・リリーの目は完全に死んでない」
「……え?」
「あなたはTEQにきっと戻ってくる。だってあなたは逃げる自分を恥じてるもの。あと二時間もしたらきっと戦うわ」
それから赤薔薇姫は立ち上がって、その場を去ろうとした。しかし俺は赤薔薇姫を呼び止める。
「赤薔薇姫!!」
「ブラック・リリー。決勝で会えるの楽しみにしてるわ」
「俺は……」
「これだけは忘れないで。負けが確定した勝負なんてありえない。どこかに必ず勝ち筋はあるから、それを見つけなさい」
勝ち筋はある……?
あの状況からホワイターに勝てるのか?
「それと悩む君に一つだけヒントね。赤薔薇姫は赤が好きよ」
「……は?」
「じゃあね。そろそろ君のお姫様が来る頃だろうしね」
そうして赤薔薇姫はその場を後にした。
『赤薔薇姫は赤が好き』。
それはどういう意味だろうか。
でも、もう一度だけ戦おう。
気付いた時には雨が止んでいた。
目の前に大きな虹が架かる。
「……司君! ここにいた!」
雫がやってくる。
俺の最愛のお姫様がここに来る。
やっぱりお姫様を他の誰にも渡したくない。
雫は俺の女だ。
「雫。心配かけたな」
その一言で雫が笑顔になる。
彼女を見てると無限に力が湧いてくる。
今なら負ける気がしねぇ。
「こんな俺にもう少し付き合ってくれるか?」
「うん!」
俺は雫に駆け寄って雫にキスをする。
雫もそれを嫌な顔一つしないで受け入れる。
攻略方法も何も思い付いてない。
それでも俺は絶対に――勝つ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます