10話 格差

「撃て!!」


 現在、俺はホワイターと交戦中だった。

 アイテムもかなり揃えてきた。

 人形兵も16と申し分のない数だ。


「ふーん」


 しかしホワイターは人形兵の攻撃を意図も容易く避けていく。

 まるで弾の飛んでくる位置が分かってるかのようだ。


「ていうか現在はボクの攻撃ターンなんだけど? そもそも基礎ルールてボクが攻撃受けても守りターンの君の攻撃のダメージは喰らわないの理解してる?」

「当たり前だろ!」

「なら、この弾丸は囮なのかな?」


 やっぱり読まれるか……

 弾丸に気を取られて、その間に白姫を見つけられればと思っていたのだが……


「まぁいいや。ボクは強者だし」

「なにを!?」


 そう言うとホワイターは弓を構えて、放った。弓矢は見事に直線距離で隠していたはずの黒姫に当たる。


「……それはダミーだ」

「いいや、それでいいんだよ。折角だし格の違いを教えてやるよ」

「は?」

「ボクは君の人形を全て破壊した上で、この場を突破してあげる……そして君の心を折ってあげるよ」


 その瞬間、ホワイターの目が変わった。

 ホワイターは的確に弓矢で僕の親指程しかない人形兵を撃ち抜いていく。


「なんて狙撃力だ! 撤退しろ!」

「逃がさないよ」


 弓屋は外すことなく見事に人形兵を破壊していく。しかし忍ばせた人形兵と黒姫がそろそろ相手側の姫を見つけるはずだ。

 そして、白姫を倒せば俺の勝ち……


「ねぇ……ブラック・リリーは姫が人工知能って理解してる?」

「当たり前だろ」

「それならさ、君は姫だって戦えるって考えなかったのかな?」


 その瞬間、相手側の姫に向かわせてた人形兵が全て一斉に破壊された。

 俺は思わず唖然とする。

 姫のステータスはそこまで高くないはず……


「チェスで最強の駒はなんだと思う? そう、クイーンさ」

「何故、強姦したお前の指示に従っている!」


 だが、おかしい!

 ホワイターは姫を無理矢理、犯している。

 姫からしたら殺したい相手のはず。

 それなのに、何故ホワイターに従う?


「人工知能もボクのテクニックに勝てなかったみたい。やっぱり快楽の前で生物は無力だからね」

「……は?」

「簡単な話だよ。『続きをしてほしかったら働け』って言ったのさ。ほら、エロ同人でも快楽堕ちとかあるでしょ? あれと同じだよ」


 な、なんだと!!

 そんなことが現実にありえるのか!?


「まぁボクは天才だからね」


 そう言って弓を構えて俺の最後の人形兵をホワイターは破壊した。

 16もいた俺の人形は見事に全て破壊された。


「お前、まさか姫を犯してたのかって……」

「この追加ルールのあるTEQはエロゲーだよ。上手いエッチをして無理矢理にでも姫を屈服させて従順な駒にするゲームさ」

「そんなの!!」

「悪いけどボクは真面目に勝つためにゲームをしてるんだよ。そもそも人工知能は本気を出せばかなり凄腕のプレイヤーと同じくらい実力を誇ってるって君は気付かなかったのかい?」


 こいつは一度も遊んでいなかった。

 常に勝つために真面目にプレイしていたというわけなのか?

 ただ、勝つための手段がエッチだった。

 それだけの話だったといいたいのか?


「姫は武器を持たせれば赤薔薇姫クラスとは言えないけど、このきゃぴきゃぴカップに参加するプレイヤーと同程度の実力はある。それを使わない方が馬鹿だろ」


 それからホワイトロリータ服に身を包む少女が黒姫を縛って連れてくる。

 彼女は黒姫をホワイターの前に投げて、ホワイターに頭を下げる。

 それにホワイターは満足したように喉仏を鳴らしてナイフを出す。


「本当なら黒い方の姫も食べたいけど、遊んでて負けたら笑えないね。だってTEQは遊びじゃないしね」


 そして黒姫の心臓にナイフが突き刺さった。

 俺はそれを見てることしか出来なった。


『勝者。ホワイター』


 俺は二度目のホワイターとの戦いで、この上ない大敗をしてしまったのだ。

 そうして嫌という程、思い知らされた。

 ホワイターの実力は本物だと。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「司君!」

「雫。わりぃ……負けちまった」


 すぐに雫が駆け寄ってくる。

 だが、俺は雫に見せる顔が無かった。

 勝負は完敗で、あまりに情けなくて……


「なに言ってるの! まだ二周目でしょ!」

「あいつには勝てねぇよ……」


 どうやっても勝てるビジョンが浮かばない。

 それほどまでに実力差は圧倒的で……


「……馬鹿!」


 しかし、その瞬間に雫に頬を叩かれた。

 雫は目に涙を浮かべながら俺を見る。


「私は何があっても諦めない司君が好きなの!! ずっと私の好きな司君でいてよ!」

「雫……」

「それに言ったでしょ!! 私は司君が大好きで司君以外と結婚なんてしたくない!」


 あー、なにを弱気になっていたのだろう。

 そうだよ。俺は戦うしかないんだろ。

 ていうか勝てない相手だというのはゲーム開始前から分かっていたことだ。

 それでも俺は勝たなくちゃならないんだ。


「雫。悪い。みっともないところを見せたな」

「ううん……そのくらい別に良いよ」


 もしもホワイターが優勝したら雫はホワイターと結婚することになる。

 考えただけで反吐が出そうだ。

 俺は雫が好きだ。

 雫は誰にも渡したくない。


「……雫。いくぞ!」

「うん!」


 俺は雫を抱き寄せてキスをする。

 その瞬間、再び意識が飛ぶ。

 そして目を覚ますと再び森の中だ。

 目の前には黒姫がいる。

 俺はまたループした。

 次こそは勝つと心に誓って……


「……お前のことを黒姫と呼んでいいか?」

「はい」

「走るぞ!」


 後ろにはホワイターがいる。

 しかしホワイターに時間を与えたら向こうの姫が調教されて最強の駒になってしまう。

 つまり勝負はこの三十分で決めるしかない。

 考えろ……どうやったら勝てる?

 いや、考えるより先に動け。

 俺は先程と同じ場所で同じライフルを拾って構えてホワイターの位置を確認した場所へと転移する。

 するとホワイターはズボンを降ろして姫を犯す五秒前だった。


「白姫。続きは後だ」

「そんな〜」


 ホワイターはズボンを上げて弓を構える。

 あの姫の表情に甘い声。

 見た感じ、姫と同意の上か?

 だったら先程のは……


「君には死んでもらうよ」

「来い!」


 ホワイターが弓を放つ。

 俺はそれを飛んで回避して、ホワイターにライフルを一発叩き込む。

 しかしホワイターは軌道を読んだかのようにそれを回避していく。


「お前とその姫の関係はなんだ!!」

「君には関係ないことさ」


 それから予想外の事に相手側の姫が矢を力任せに黒姫に投げつけてきた。

 その弓矢は黒姫に掠ってHPを軽く削る。

 まずい! それじゃあ最初と同じ殺られ方だ。


「ジ・エンドだね」

「黒姫! 逃げるぞ!」

「はい!」


 俺はすぐに転移して、その場を離れた。

 しかし相手の姫とホワイターが親密だった。

 それこそ初対面じゃないかのように……


「ブラック・リリー……」

「どうした?」

「身体が……熱いです……」


 体が熱い?

 俺は少し気になって黒姫のHPを確認する。

 すると、驚くことに黒姫のHPが1秒に1ずつ減っていたのだ!


「まさか……ホワイターの異能力は毒か!」

「すみません……」


 まずは毒を止めねば……

 俺は必死に考えるが、何も思い浮かばないまま時間だけが経っていった。

 そして、時が経ちアナウンス音が響く。


『勝者。ホワイター』


 俺はまた負けたのだ。

 恐らく最初の敗北も黒姫に毒が回ってHPが0になったのが原因だろう。

 毒なら異能力扱いで俺にもダメージがある。

 そして不幸なことに解毒方法は不明だ。


「……司君。逃げさせないよ」

「逃げる気なんてねぇよ。雫」


 雫が駆け寄ってきて俺に抱き着いて、唇を奪っていく。俺はそれを優しく受け止めた。

 何度も何度も行った雫とのキス。

 今度はちゃんとした形でやりたいな。


『勝者。ホワイター』


『勝者。ホワイター』


『勝者。ホワイター』


『勝者。ホワイター』


 それから何度もループして、何度もホワイターの勝利を称えるアナウンスを聞く。

 その度に俺は雫とキスをする。

 しかし聞く音声は変わらない。


『勝者。ホワイター』


『勝者。ホワイター』


 耳にタコが出来るくらい聞いた。

 人形兵60近くの大軍で攻めても返り討ちで、背後からの奇襲も容易く対処される。

 どうやっても勝てない。

 異能力が毒という情報以外に何も掴めないし解毒方法も分からない。

 ループする度に何度も黒姫が目の前で殺されていく。


「……司君」

「もう…一回だ……」

「うん!」


 そして雫もそれに付き合う。

 何度も何度もやってるのに文句一つ言わずに俺にキスをする。

 タイムリープするのは俺だけではなく雫も同じだ。

 それでも雫は付き合ってくれる。

 本当に雫に頭が上がらなくなる。


「……クソっ!!」

『勝者。ホワイター』


 しかし次の試合も俺の敗北。

 もう、どうやったらホワイターに勝てるのか分からなくなってきた……

 そう、俺の心は折れかけていたのだ……


 そして再び雫が俺にキスをする。



 もう、俺は疲れたよ……

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