9話 開戦
「司君!」
「……雫。いくぞ!」
「うん!」
俺は負けた。
それから、すぐに雫の元に行き雫とキスをする。雫の小さい唇と俺の唇が重なり合い、会場の視線が一斉に俺達に集まる。
「……ん……頑張って……」
「あぁ」
それから意識が飛んで、目を開くと前にいた暗い森で目の前には黒ロリの美少女。
時間が無い。まずはここから離れねぇと!
「お前の事は黒姫と呼ぶ! すぐに走ってこの場を離れるぞ!」
「は、はい!」
前回はすぐに襲撃に来た。
恐らく運悪くホワイターの開始位置が俺の近くだったのだろう。
だから、すぐにこの場を離れないとならないのだ。
「黒姫は近くに宝箱が見えたら教えろ」
「分かりました!」
そして森エリアは所々に宝箱が散らばっていて、その中に武器やアイテムが入っている。
とりあえず武器が無いと戦うことも出来ねぇで弓で嬲り殺される。
「右の方に宝箱ありました!」
「サンキュー!」
俺は宝箱に近寄って宝箱を開ける。
中身はライフルだった。
それもかなり当たりのライフルだ。
「でかした!」
「えへへ」
このライフルはTEQにある特殊武器。
簡単に言うなら5秒に一発発射出来て弾切れすることがないという優れものだ。
威力は一発20ダメージくらいとお世辞にも強いとは言えないが無いよりマシだ。
「とりあえずこれでホワイターと戦えるが問題はホワイターの能力だ」
前回は俺が弓に貫かれて負けた。
もしかしたら弓そのものが能力で『弓でプレイヤーを貫いたら無条件勝利』というものなのかもしれない。
他にも幾つか可能性は考えられるが、そう考えるのだ妥当だろう。
あくまで守り側はダメージを与えられないだねで攻撃事態は可能。
そして勝利条件がダメージじゃなくね弓矢を刺すなら……
「ねぇ……ブラック・リリー」
「黒姫。どうした?」
「そんな深刻に考えなくてもいいんだよ。TEQはHPとか追加ルールとか能力とかあるけど簡単に言っちゃうなら鬼ごっこなんだよ。相手をタッチ……まぁTEQの場合はHPの全損だけどそれをすれば勝ち」
「そっか……たしかにそう考えればTEQは鬼ごっこなんだよな」
攻撃側が鬼で守り側は逃げ。
つまり俺が今は鬼だ。
鬼ごっこではまず鬼側が負けるなんて事はありえない。
それこそ制限時間が来ない限り……
あっても引き分けが良いところ。
だって逃げ側に勝ちの条件が用意されてないのが鬼ごっこなのだから。
「それで無理矢理、逃げ側が勝ちの条件を作ったのが今回のTEQ。裏を返せばこちらはホワイターを倒す、白姫を倒すと二つの勝ち筋があるのに相手側は黒姫を倒すという一つの勝ち筋しかない」
そして鬼側になっても能力によっては絶対に俺を倒す事が出来なくなっている。
つまり黒姫を守ってさえいれば勝ちなんだ。
もっと言うなら黒姫を絶対に倒せなくすればチェックメイトになる。
「もうそろそろ五分か。一気に仕掛けるか。黒姫は絶対に攻撃を喰らわないでくれ」
「はい!」
ホワイターの位置が俺に伝わってくる。
位置は予想通り、かなり近くだった。
俺はすぐに転移してホワイターの元へ行く。
すると、そこではありえない光景が起きていた。
「……いや♡ いや♡」
「自分の立場が分かってる?」
なんとホワイターは白いロリータ服の美少女とエッチをしていたのだった。いや、ホワイターが無理矢理ヤっていると言った方が正しいかもしれない。
「さて、そろそろ五分でブラック・リリーが来る時かな」
「ホワイタァァァァーー!! なにをしている!!」
「は? だってTEQって――エロゲだよ?」
ライフルを出してホワイターを撃ち抜くがダメージは俺の設定した追加ルールのせいでゼロ。ホワイターはのんびりと服を着て近くにあった弓を拾って俺に撃つ。
俺はそれを回避してホワイターを睨む。
「そう。怒るなよ……こんな見た目が女子中学生の女の子とエッチ出来るなんて本当にTEQは神ゲーだよ。リアルでやったらお巡りさん案件だけど、ここはゲーム。 ていうか、君は黒い姫とヤらないの?」
「お前はTEQをなんだと思ってやがる!」
こいつら姫は人工知能で意思がある。
そんな人工知能を無理矢理犯すなどやってるのはただの犯罪じゃねぇか!!
そんなことをしても良いと思ってるのか、この腐され外道!!
「ていうか、走って逃げたんだからそのまま逃げたらよかったのに。そうすれば君も黒い姫と三十分程度ならエッチ出来たのにね」
「は?」
「だってボクは君の10m後ろにある木の影からゲームを開始したんだ。君だってボクの存在に気付いたから逃げたんだろ?」
「まさか……!」
「優れたゲーマーっていうのは未来予知にも等しい読み能力を持つ。君がどこからスタートするかなんて手に取るように分かる」
言わせておけ。
しかし、これはチャンスだ。
今の白姫は無防備で簡単に倒せる。
「そして君はそのライフルで白姫を狙う」
俺は銃を撃った。
銃弾は白姫にクリーンヒットする。
しかしホワイターは焦る素振りすらない。
「そのライフルはたしか16~24のダメージを与える。つまりHP100ある姫を殺すには最高乱数を引いたとしても最低でも5発当てなければ倒せない。一発程度どうってことはない」
「もしも俺の能力が……」
「それは無いね。君はあんな追加ルールを設定したんだ。君の能力は武器改造とかそういうのじゃなくて直接攻撃系……そして、今この瞬間で炎とか雷を出さなかった。それどころか君は能力を使わなかった」
俺は嫌でも思い知らされた。
ホワイターはこんな性格でも一流プレイヤーであり、天才なのだと。
「つまり君は能力を使えなかったんじゃないか? 言うならばなにか条件付きの能力。例えば自分のHPを100消費する能力で君はまだ魔物を見つけていない」
「…………」
「そしてTEQってゲームではHPを消費する能力は殆ど創造系だ。もしも銃生成とかならHPは間に合うはず……よって君の能力は『人形を作る』能力じゃないか?」
「な!?」
「図星か。ダメだよ? 当てられても平常を装わないとね?」
クソっ!
しかし考えるのは後だ!
能力が割られた!!
「さて、それじゃあそろそろボクも動こうかな」
ホワイターが弓を手に取り、こちらに向けてくる。あの未知の弓だ非常にまずい。
しかも能力まで割られるしなにをされるか分かったもんじゃねぇ!
「黒姫! 逃げるぞ!」
「は、はい」
俺は転移を使って遠くに移動する。
なるべく遠くにだ。
「あー逃げちゃった。そこそこ頭が回るじゃん。それじゃあ続きしよっか?」
「た、た……助けて」
それから森の中には喘ぎ声が響いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「クソっ!」
逃げた先は街だった。
しかし街と言っても魔物がそこそこいて俺は怒りを晴らすかのように魔物を撃ち抜いていく。
「しかし、間一髪でしたね」
「ちげぇよ……完全に舐められて逃がされたんだよ」
もしも対戦相手だと認識してたら、性交なんて間違いなくしないだろう。
ホワイターは完全に――こっちを舐め腐ってる。
「本来ならここで食べ物を食べながら、のんびりと人形を作りたいが恐らく向こうだってその対策はしてくるはずだ」
「ブラック・リリー……」
「どうした?」
「私、アイツ許せない! あんなやつにブラック・リリーが負けてほしくない!」
「負ける気はねぇよ」
その時の俺は知らない。
ホワイターの実力を。
ホワイターが俺を舐めてるように俺もホワイターを舐めていたのだ。
ホワイターは腐ってもトッププレイヤー。
その事を俺はこれから嫌という程味わうことになる。
「とりあえず今は人形を作らねぇとな。読まれてるし対策もされてるだろうが他にやることもねぇ。黒姫は食べ物を探してくれ」
「はい!」
今のHPは憂さ晴らしで倒した魔物もいて108となって言って人形を作って回復して……というのを繰り返せば人形もそこそこ出来る。
「リンゴが8つ程ありました!」
リンゴか。
一つにつきHPが20回復する。
つまりこれでHP160だから人形一つか。
少し戦力としては物足りないか。
ただ、このペースでいけば時間的にはもう少し用意出来るだろうな。
三十分後にホワイターが攻めてくると考えて、それまでに作れる人形の数はこのペースだと8つくらいだろうか?
「とりあえず人形を一つ作るか」
頭の中で人形の形をイメージ、それを具現化していく。すると光が集まってきて人形が出来ていく……
「一体作るのに10秒くらいか……」
そして手のひらサイズの人形……というよりおもちゃの兵隊が落ちてきた。
しかもご丁寧に銃まで付属だ。
「丁度いい。魔物を探して見つけ次第撃て」
おもちゃの兵隊はピシッと敬礼すると外に出て魔物を探しに行った。
どうやらある程度は勝手に動くらしい。
それに遠隔操作も可能か。
これはかなり良い能力だな。
「なぁ黒姫。能力で出した人形が魔物を倒すと俺のステータスが上がるんだよな?」
「はい。その能力の使用者のものとなります。つまり先程の兵隊さんが魔物を倒したらブラック・リリーのステータスが上昇しますね」
つまり安全にステータスを上げられるということか。普通なら俺は何も考えないで人形を作ってさえいればいいというわけか。
「なるほど。とりあえずもう一体作るか」
俺はリンゴを頬張りながら再び作りたい人形をイメージする。今度は黒姫と瓜二つの容姿をした人形だ。
「ブラック・リリー?」
「お前と同じ容姿にすることでダミーの役割を果たしてもらう。とりあえず時間稼ぎ程度にはなるはずだ」
「なるほど!」
しかし黒姫は俺から100m以上、離れられない以上は気休めにしかならないが……
「まぁ、まずはアイテムも武器も必要だ。そういったものを探しに外に出よう」
ステータスは人形に任せて能力を上げられるが、やっぱり人手は多い方が良い。
効率が段違いだしな。
今はリスクを背負ってでもアイテムや武器を揃えておきたい。
「なぁ黒姫」
「なんですか?」
「シズクって知ってるか?」
俺は街中を散策しながら黒姫と会話する。
黒姫は人工知能なのだ。
そして、その人工知能の始祖と言っても過言ではないのがシズク。
もしかしたらなんか知ってるかもしれない。
「はい! たしか世界初の人工知能で私達のベースとなっている存在ですよね」
「あぁ……」
「シズク様は私達の目標でございます。私達、人工知能は活躍が認められてシズク様と同じスペックがあると確認出来ればシズク様のような肉体が与えるとお父様に言われていて、そのために日々頑張っているのです」
「おかしな話だな」
「はい?」
黒姫は黒姫だ。
人工知能だろうが感情もある。
ホワイターのあのような行いを見て黒姫が怒りに震えたのを俺は忘れない。
もう既に黒姫というのは完成形でシズクになれるわけがないのだ。
それこそ俺が赤薔薇姫になれないように。
「お前はどう頑張ってもお前でしかないんだよ。黒姫」
「それでも……私は肉体が欲しい!! そのために私はシズク様にならないと……!」
肉体が欲しいか。
俺は人工知能でもないし、それはどの程度の欲求なのか分からない。
だから俺が、なにか出来るわけでもない。
でも、これだけは言える。
「なぁ……お前ら人工知能は肉体が欲しいって誰かに願ったことはあるのか? 俺以外の誰かにその感情を出したことがあるのか?」
「そ、それは……」
「言わなきゃ何も変わんねぇよ。願うだけじゃなくてまずは一歩を踏み出そうぜ。こんな無力な俺でも出来る限り頑張ってやるからさ」
今は無力だ。
だけど正式に雫の夫となれば、間違いなくシズクの製作者……すなわちこいつら人工知能に肉体を与えられる立場の人と話す機会もやってくるだろう。
「でも、今は一緒に勝とうぜ。黒姫」
「はい!」
もうTEQは遊びではない。
人工知能達の権利を賭けた戦争だ。
そして、意見を聞き入れてもらうためにはTEQの大会で勝ち進むしかねぇ。
どうすればいいか分かってる。
とにかく勝てばいい。
「さぁゲームしようぜ? ホワイター」
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