8話 黒と白の戦い

 きゃぴきゃぴカップ 一回戦


『ホワイターVSブラック・リリー』


 目の前に表示される大々的な文字。

 それがいつものTEQと違うという証明にもなっていて更に気が引き締まっていく。

 遂にやってきた、この時だ。


『先行『ブラックリリー』、後攻『ホワイター』に決定しました。次に異能力の設定を行います』


 今回は先行か。

 一気に攻撃して勝負をかけにいくのもあり。

 そしてステ振りに専念するのもあり。

 とりあえず俺は適当にカードを引いて異能力の選定を行っていく。


『ブラック・リリー様の異能力が確定しました』


 今回の異能力は『人形使い』だ。

 HPを100消費して自分のイメージした人形を作り出すことが出来て、その人形を自由自在に操れるというもの。

 操った人形とは視覚や聴覚の共有が出来て偵察にも使える。

 また、人形が倒した魔物は自分のステータスにもなるらしい。

 今回はそこそこの当たり能力っぽいが……


『続いて追加ルールの設定を行います』


 そしてTEQの局面を大きく変える大事な場面へと入る。

 問題はこれでどんなルールを加えるか。

 いつもなら相手の特異を潰す手を打つが今回に限っていえば相手の情報が足りていないからそれが出来ない……

 いや、ここはいっその事かなり嫌らしいルールを付け加えてやろう。


「“異能力を使用していない攻撃はプレイヤーにダメージを与えられない”で頼む」

『かしこまりました』


 このまま通るか。

 もしもホワイターが前の店長戦の時のような空を飛ぶや赤薔薇姫が使った透明化みたいな攻撃性能が無い能力ならその瞬間に詰みになるルール。


『では、続いてホワイター様からの追加ルールを連絡します。ホワイター様が追加したルールは“姫の配置”です』


 それから姫について説明が入った。

 姫はプレイヤーに常に半径100m以内にいる美少女NPCで、その姫がやられると問答無用でゲームオーバーとなるらしい。

 また簡単な指示にも従ってくれるとか。

 ちなみに姫の初期HPは100で上がることは無い。ぶっちゃけ姫のHPはとても低く軽い攻撃を受けた瞬間に散るだろう。

 ちなみに守りのターンでも姫にダメージを与えることは可能だそうだ。


『では最後にスタート地点を決めてください』


 スタート地点は適当に決めてしまおう。

 そして俺は右下の方をタップした。


『では良いゲームをお楽しみください』


 そうしてきゃぴきゃぴカップ一回戦が開幕した。始めると俺は森にいた。

 それも木漏れ日が入るような明るい森ではなくて雰囲気が全体的に暗く、霧が蔓延してる如何にもなにか出てきそうな森だ。

 それと俺の目の前には黒いロリータ服に身を包む美少女がいた。対戦相手以外の人がいるなど絶対に普通のTEQではありえない光景だ。


「君が姫なのか?」

「はい」


 なるほどな。

 彼女を守るのが今回のTEQってわけか。

 しかも敢えて美少女にしてくるところが性格が悪いというかなんていうか……


「名前は?」

「ありません」

「おっけ。それじゃあ相手の姫を白姫でお前は黒姫と呼ぶか」

「分かりました」


 さて、まずは方針を決めねぇとな。

 今回の俺が制定した追加ルール“異能力を使用していない攻撃は『プレイヤー』にダメージを与えられない”となっている。

 つまりプレイヤー以外のモンスターや姫には通常の攻撃でもダメージを与えられるのだ。

 そして姫ルールにより俺の意図が完全に潰されているのが一番厄介か。


「とりあえず人形を作らねぇと……しかし人形を作るのにHP100消費する。つまり緑の魔物を倒してHPのステータスを上げないとならないんだよなぁ」


 そしてそのためには武器か。

 とりあえず魔物狩りなら剣が理想だが……


「そういえば魔物と言ったりモンスターと言ったり呼び名を統一しないのですか?」

「……まぁどっちも意味は同じだし別にいいだろ。ぶっちゃけ気分次第って感じだな」


 ……ん?

 今、黒姫は俺に話しかけたよな?

 間違いなく話しかけたよな?


「ん? 私の顔をまじまじと見てどうしましたか?」

「いや、なんでもねぇ……」


 つまりこいつは受け答えするだけのNPCじゃないってことか……

 下手したら自我がある可能性すらある……

 それはTEQ運営は人工知能をNPCに使えるくらい余らせてることになるな。


「黒姫。お前は何者なのだ?」

「それはどういう意味でしょうか?」


 また人工知能を余らせてるということは人工知能を作る手段が確立されてるということ。

 そして俺はその意味が分からねぇほどバカではないつもりだ。


「お前は人工知能なのか?」

「はい。一応TEQを管理する一般人工知能でありシズクのような肉体は持ちませんけど、ちゃんと自我のあるAIでございますよ」


 しかしNPCでもゲームには問題ないはず。

 何故、こんな一ゲームに人工知能を使用したのだろうか?


「……黒姫! しゃがめ!!」


 俺の叫び声と共に黒姫がしゃがむ。

 その瞬間、彼女の頭上を弓矢が飛んだ。

 間違いなくホワイターの攻撃!

 まだ五分も経ってねぇから位置割れはありえないし、なにより向こうサイドは守りのターンだから転移は不可のはず……


「ラッキー。いきなり敵と会えるなんてね」

「逃げるぞ! 黒姫!」

「はい!」


 人形を出そうにもHPが足りない。

 それに何より攻撃するための武器もない。

 逃げながら武器を探すしか……


「弓はボクの得意武器なんだよ」

「きゃーーーーーー!!」


 黒姫の足が弓矢で貫かれる。

 だがTEQはゲームだ。

 足が射抜かれようが移動には支障はない。

 そう、HPが全損しない限りは……


「おい、黒姫!」

「私達はプレイヤーじゃなくて、姫です! 姫の場合は元々こちらの世界の住人という設定で肉体損傷が反映されます」

「またまたラッキーだね」


 クソっ!

 それなら姫を背負って逃げるか?

 いや、無理だ。

 姫を背負って逃げたら重くて逃げ切れなくなるのが目に見えて分かってる。

 それなら……転移して……!


「黒姫! 残りHPは!?」

「12です!」

「相談は終わったかい? それじゃあジ・エンドだよ」


 弓矢が再び姫に向かって放たれた。

 俺は姫とホワイターの間に入り矢を身体で受けた。


「おや?」

「今回の追加ルールは『異能力を使用していない攻撃はプレイヤーにダメージを与えられない』だ……」

「ボクの言葉聞こえなかった? 君はジ・エンドなんだよ」



『勝者。ホワイター』


「…………は?」


 何故か、その瞬間に俺は負けていた。

 間違いなく俺は姫を守った。

 そしてルールで俺にダメージが入るということもありえない。

 だが、俺は事実として負けた。

 俺は現状を全く理解出来なかった。

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