7話 君のために

「なるほどな」


 俺はベッドに寝転んで一人呟く。

 隣では無防備に雫が寝ている。


 あれから雫に全て聞いた。

 最初の始まりはシズクという人工知能が出来たことである。

 そのシズクは高い計算能力と処理能力を誇ることが判明したが人の考えを読むのに欠けていた。

 そこで科学者達は考えた。

 人の考えを読むのに長けた人物とシズクが子供を作れば計算も出来て、相手の考えも全て読める最強の人間が出来るのではないだろうかと。


 少し前なら笑い話で済んだのだが最近の研究で子供というのは父親の能力56%+母親の能力44%で構成されているというのが判明している。

 そのため科学者達の言うことは理論上は間違っていないのだ。まぁ人工知能の能力も遺伝するかどうかなんて定かではないが科学者達からしたらそれも実験感覚なんだろう。

 そして人の考えを読むのに長けた人物を発掘するためにTEQが開発された。

 つまりTEQはシズクのために存在しているのだ。


「そして、ある程度人類がTEQに馴れたところで開催される世界大会。別名“雫の結婚相手決定戦”か」

「……司君」

「わりぃ。起こしたか」

「別にいい」


 そして雫のお願い。

 雫は見ず知らずの人の妻になりたくない。

 つまり俺に雫の夫になるために世界大会まで行って優勝してほしいだそうだ。


「雫。お前の時間逆行能力はなんなんだ?」

「分からない……科学でも解析不可能」


 そして突然発生した雫の『キスした相手をTEQに最後にログインした時まで戻す』

 なんでそんなことが出来るのか。

 そもそも、どうしてTEQに最後にログインした時なのか。

 全てが謎のままだ。


「そっか……」

「私、司君以外の人と結婚なんかしたくない」

「安心しろ……絶対に優勝してやるから」


 もちろん雫の能力ありきだが……

 しかしふざけてやがる。

 雫の気持ちを全て無視してこんな事を……


「雫の親もグルなのか?」

「ううん……赤子の段階ですり替えられてるから私が人工知能だって知らない」

「そっか」


 人工知能シズク。

 全ての始まりにして人類初の人工知能。

 それが人間の肉体に移植されたのが雨宮雫。また、高い計算能力を誇りTEQ開催の発端となった人物でもある。

 そしてキスした相手をTEQに最後までログインした時までタイムリープさせるという謎の能力を持っている。


「もしもTEQの世界大会で女性が優勝したらどうするんだ? 雫の身体は女性だから子供が作れねぇじゃん」

「もう……デリカシーないよ」

「わりぃ」

「その場合はこの肉体は捨てられて、私の意識だけが男の子の身体に移植されるの。だから問題ないらしい」

「なるほどな」


 しかし読みの能力を高めたいだけなら人狼ゲームの世界大会優勝者でも連れてくればよいだろ。ぶっちゃけTEQは読みだけで勝てるゲームでもないからなぁ……


「相手が男性なら子供の56%は父親依存。読みだけじゃなくて他の能力も求められる。それを全て踏まえた上で計算されたのがTEQなの」

「雫って昔から俺の考えてることがテレパシーのように分かるよな。それも能力か?」

「ううん。それは司君の事が好きだからだよ」


 好きだからか……

 改まってそんなことを言われると照れるな。


「この際だから言うけど私は昔から司君の事が大好きだよ。もちろん恋愛対象としてね」

「薄々勘づいてたが、今ここで言うか」

「今だから言うんだよ。司君は私のことは嫌い?」

「いいや。俺もお前と同じ気持ちだよ」


 本当なら、ここでキスをして答えてやりたいところだけどそれをすると時間逆行してしまうんだよな……


「雫。大好きだ。俺がお前をちゃんと嫁に貰ってやるから安心しろ」

「うん!」


 これは負けられない理由が出来たな。

 仕方ねぇは……ちょっと世界一になってくるか!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 遂に始まった“きゃぴきゃぴカップ”。

 きゃぴきゃぴカップは一日目1回戦、二日目2回戦、三日目準々決勝、四日目準決勝、五日目休憩、六日目決勝と計六日に分けて行われる少し大きな大会だ。

 そして俺達はきゃぴきゃぴカップに参加すべく会場に移動した。

 会場に着くといつか見た赤髪、赤ワンピースの美少女が俺に話しかけてきた。


「あら、あなたもこの場にいたのね」

「……赤薔薇姫」

「まさか、きゃぴきゃぴカップに出場出来る実力を付けてくるのは予想外だったわ」

「待ってろよ……俺はお前に勝つからな」

「期待してるわ。そういえばさっきトーナメント表が公開されたわ。私とあなたじゃブロックが違うから戦うとしたら決勝ね」


 それだけ言い残して赤薔薇姫はその場を去っていった。

 どっちにしろ優勝しなくちゃダメなんだ。

 どこでぶつかろうがそんなのは関係ない。


「……司君」

「雫。ちゃんと優勝してやるから安心しとけ」

「うん!」


 俺はそれからトーナメント表を確認しに行った。俺の初戦の相手の名前は『ホワイター』という有名な相手だった。


「もしかして君がブラック・リリーかな」

「……はい」

「ハッハッハ!! こんな無名の雑魚が相手で助かった!! ボクの前に散ってもらうよ」


 それだけ言うとホワイターは去っていった。かなり嫌な奴だな……


「ホワイター。性格はクソだけどTEQの実力は間違いなくピカイチでこの大会だと赤薔薇姫の次に強いという人が多いわ」

「あの、君は……」

「メガネちゃんとでも呼んで。ただ参加者について解説するだけよ」


 そう言ってメガネロリはボソボソと呟く。

 しかし赤薔薇姫の次に強いか……

 一体どんな戦い方をするんだろうな……


「ちなみにホワイターは一途な紳士よ」

「そんなことはどうでもいいよ」


 まぁ勝つだけだ。

 気を引き締めていこう!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 きゃぴきゃぴカップ一回戦のとある試合開始28分経過


「はぁ……はぁ……クソ! 当たらねぇ!」


 赤髪の女性が短剣一つで銃弾を裁くという異常な動きを見せていた。

 距離は約10m程度しかない。


「……動きが単調」


 そんなチート芸を約10分も行っていたのが赤薔薇姫というTEQ最強のプレイヤー。


「くそっ! 撤退だ!」


 男はそう呟き転移する。

 それからアナウンス音が流れた。


『攻守交替の時間です。 赤薔薇姫様に攻撃権が移ります』


「逃がさない」

「クソっ! 追加ルール『互いに常に位置が分かるようにする』か!」


 赤薔薇姫はすぐに転移して背後から男の心臓を一突きして、後にもう一つ剣を出して何度も連続して斬って最後は指を鳴らして燃え上がらさせた。


「私はTEQの闇を暴いてみせる……」


 そうして勝利のアナウンスが鳴り響く。


『勝者。赤薔薇姫』



 彼女の戦いは既に人外の領域に片足を踏み込んでいた。そして、そんな戦いを外からモニターで観戦していた二人組が少しやりとりする。


「赤薔薇姫。あの反応速度は強い……」

「少し本来の思惑からズレますがシズクと組み合わされば人外の計算能力と反応速度を誇る子供が出来ますね。下手したらそれは戦術兵器級の武器となるかもしれません」

「はっはっはっ。それも一興ですが私は期待してるんですよ……ああいう人外を知略で撃ち破るプレイヤーが現れることにね」

「それはそれで見てみたいですね……しかしこの大会の目玉はなんと言ってもシズクのお気に入りの“天草司”……プレイヤー名はブラック・リリーですよね」

「シズクが惚れた男か……」

「さて、もうすぐそんなブラック・リリーの試合も動き出しますよ。シズクが選んだ男の実力がどの程度なのか見せてもらいましょう」


 男達はニヤリと笑ってモニターを見た。


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