5話 死神攻略

 死神のリーチはありえないくらい長い。

 だが同時に死神にタゲを取られるにはかなり近づかなかければならないのだ。

 しかしどんなに離れても背後に突然現れるのが今の現状。

 そして俺は一つの仮定をしていた。


 それは『テンチョーの能力が魔物調教である』という事だ。


 恐らくあの死神はテンチョーが使役してるというのは間違いないだろう。

 それで見た感じ指示出来るのは動きだけ。

 それで死神を俺の背後に持ってきて、そこで能力を解除して俺にタゲを取らせる。

 そういうカラクリだろう。


 つまり、裏を返せばテンチョーに見つからなければどうにでもなるのだ。


 だが、普通ならどうやっても『守り側は五分毎に現在位置が攻撃側にバレてしまう』という基礎ルールで見つかる。

 そう、普通ならだ。

 実は分かると言うがそれはX軸とY軸しか分からないのだ。

 つまり縦横は分かるが高さまでは不可。

 なら、俺が遥か空まで飛べばテンチョーはマップには表示されてるのにいないという現象を引き起こす事が出来る。


 また、仮に分かったとしても店長にはどうする手段もないのだ。

 それならやる事は一つ。


「……いねぇな。表示だとここにブラック・リリーか がいるはずなんだがな」


 空高く飛んで三十分待機。

 ぶっちゃけそれしか攻略方法が思いつかねぇというのが本音だ。

 それでこっちの攻撃ターンになったら店長から遠くに転移してステータスを上げて、次の店長が攻撃してくる時は再び飛んで逃げる。

 まぁそんな感じでやるのが理想だろう。


「つまり上空か地中か……」


 店長が上を見上げる。

 俺と店長の目が合う。


「答えは上だったな。でも攻撃手段は無いはずだ」

「まぁな。それならこのターンはステ上げするか」


 店長の目の前にオークロードが現れるが死神を使ってオークロードを蹴散らす。

 そしてオークロードから落ちた剣を拾って辺りを歩き回り手当り次第にゾンビを蹴散らしていく。

 もちろん店長のステータスはどんどん上がっていく。

 本来なら俺も他の場所に行ってステ上げをしたいがそんなのしようものなら転移で店長に追われて死神に狩られるのがオチだ。

 それに今回は負けようが俺には次がある。

 俺は店長がステータスを上げていくのをただただ見ている事しか出来なかった。

 それから三十分経ち、俺に攻撃ターンが回ってきてすぐに転移を行う。


「ここは平原か……」


 俺は転移して、すぐに適当な民家に入って武器を整える。それからモンスターをひたすら狩っていった。

 しかし、それと同時に行わなければならない事がある。それはアイテム回収。

 TEQにおいてアイテムは勝敗を分ける。

 赤薔薇姫にやられた瞬発力を100倍にする薬とか良い例だろう。

 しかし、まず最初に探すの道具は“無限ポーチ”だ。

 この道具は中が異空間になっており、それがあればいくらでも道具を持ち歩ける。

 ただ出すまでに、メニューを開いて出したい道具をタップすると少し時間がかかるのが難点なのだが……


『攻守交替の時間です。 テンチョー様に攻撃権が移ります』


 おや、もうこんな時間か。

 ちなみに俺のステータスは


 ブラック・リリー

 HP316/328 瞬発力423

 赤色の魔物6 転移29/30


 と、まぁ悪くない感じである。

 ただ店長はこの時間もひたすら狩りをしていたはずで約三十分多く狩りをしている。

 この三十分の差は大きく何処までステータスが離されてるか怖いところだ。

 俺は転移で店長が攻撃をしてくるのを恐れて一時的に空を飛ぶ。

 だが、しかし店長は俺の方には来ない。

 10分くらい経ち、俺は店長の真意に気付いてしまった。


「……しまった!!」


 完全にしてやられた!!

 考えてみたら店長がいる場所は墓地。

 そして追加ルールは『1秒につき1mずつステージが小さくなる』というもの。

 つまり俺は最終的に墓地に行かなければならないのだ。

 それに今回攻撃してくるのは店長ではなく死神という魔物だ。

 つまり、それが意味することは店長じゃなくて魔物が攻撃してくるということ。

 ようするに守りのターンでもこちらにダメージを与える手段があるから関係ないのだ!


 俺はすぐに降りて再びステ振りを再開する。

 それから三十分が経ち、再び攻防交代。

 その瞬間に俺はすぐに店長の目の前に転移して剣を振る。


 ――キンっ!


 しかしそれは意図も容易く店長に剣で受け止められてしまった。俺はそのまま後ろに下がり体制を整える。


「きたか……」

「俺はお前に勝ってきゃぴきゃぴカップに出る!!」

「言うだけなら簡単だ。実際にやってみろ」


 背後から死神が現れて鎌を振る。

 しかし鎌は前よりも遅い。

 いや、俺の俊敏性が上がって遅くみえる。

 体を捻って回避して再び店長に向かって剣を振っていく。

 しかし店長も短剣で俺の剣を受け止める。


「悪くねぇな。だが死神にタゲられてる時点でお前の負けだ」

「くそっ!」


 死神がまた鎌を振り下ろす。

 俺はその前に転移して撤退した。

 1回攻略を練り直さなければならないな。


(店長は俺の攻撃に容易く反応してきた。つまりそれは店長と俺との間に俊敏性にかなりの差がある事の証明でもある……または赤薔薇姫と同じで反応速度が高いのか……だが、恐らく前者だ。約40分も店長の方がステ振りに長く費やしている)


 俺は全部の持ってる道具を整理する。

 なんとなく勝ち筋は見えている。

 狩りの途中に偶然拾えた『即死の刃』という武器。これは一度攻撃すると壊れるが、その代わり攻撃力99万9999という文字通りのどんなプレイヤーや魔物でも即死させる性能を誇っている。


 これを死神もしくは店長に突き刺す。

 恐らくそれが攻略の道だ。

 そんなことを考えながら俺は赤薔薇姫の言葉を思い出す。


『運を敗北の理由にするんじゃない』


 店長の能力は運が良かった。

 それに死神をテイムしたのも運が良かった。

 だが、それは負ける要因にはならねぇ。


 少なくとも赤薔薇姫ならこの程度は容易く乗り越えてくる。


 俺は赤薔薇姫ともう一度戦うと誓った。


 こんなところで止まってられるか。


「憧れは超えるためにあるんだ」


 再び転移をして店長の元にいく。

 しかし、それは読まれていて死神が俺に鎌を振り下ろしてくる。

 俺はそれを剣で弾く……が、剣は青いエフェクトを放って消滅してしまう。

 死神の攻撃に剣が耐えられなかったのだ。

 不思議に思うことじゃない。

 本来なら守り側は武器破壊すら許されないが、相手はプレイヤーじゃなくて魔物。

 つまり魔物は時を選ばずダメージを与えられるから本来不可の武器破壊が出来る。

 そんなことを考えながら俺は手に『即死の刃』を握る。


「じゃあな。死神」


 そうして全速力で走った。

 死神が鎌を振り下ろしてくるがそれを体を捻って回避して、そのまま死神の懐に入って即死の刃を突き刺す。


「じゃあな」

「ワレ、サイキョウナリィィィィィ!!」


 俺は最大の難敵である死神を撃破した。

 それを見た店長が唖然とする。

 死神はたしか青色の魔物だ。

 ステータスもかなり上がっただろう。

 だが、それよりもこの鎌が大きな戦果か。


 死神の鎌

 ・これで攻撃した相手のHPを無条件で0になるまで削り取る


 TEQにおいて最強と言っても過言ではない武器の一つ。

 このTEQには死神のような強力なモンスターが何体かいるが、それらは倒せば莫大なステータスと勝負を決定付ける性能を誇る武器を落とす。


「……このブラック・リリー。きゃぴきゃぴカップに参加させてもらう!!」

「なぁ――ブラック・リリー。俺の能力は一度も『魔物調教』だと言ってねぇぜ?」


 その瞬間、俺が持ってたはずの死神の鎌は何故か店長の手元にあった。

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