2話 VS赤薔薇姫
『先行『ブラックリリー』、後攻『赤薔薇姫』に決定しました。次に異能力の設定を行います』
俺は赤薔薇姫とTEQでゲームをすることになった。そして俺の目の前にカードが並べられる。これで異能力を決めるのだ。
ぶっちゃけどれを選んでも同じだ。
恐らくカードを引いてから能力が決まるような仕掛けだろうしな。
俺はそれを適当に一枚拾って掲げる。
『ブラック・リリー様の異能力が確定しました』
その音声と共にカードに文字が浮かぶ。
俺の今回の異能力は『雷』か。
攻撃時に限り自分の半径一キロ以内に雷を落とせる。また一度打ったら10秒のクールタイムがあると……
『続いて追加ルールの設定を行います』
問題はそこだな。
赤薔薇姫は近距離戦が得意だ。
それなら出来るだけ距離を取れるルールを入れたいところ……
「そうだな……“半径1m以内に近づいたら敗北”でどうだ」
『かしこまりました。基本的にそのルールは守り側に適用され“守り側の半径1m以内に入ったら攻撃側は敗北する”という型にルール変換されて適用されますがよろしいでしょうか?』
なるほどな。
少し人工知能にルール改変された原因としては……
「はい! 1m以内に入ったからお前の負けな」
「いやいや、あんたも私の1m以内に入ってるから! 負けよ!」
といった勝敗の判別が曖昧になる展開を防ぐための処置だろうな。
まぁそれなら問題無しか。
「OKだ」
『では、続いて赤薔薇姫様からの追加ルールを連絡します。赤薔薇姫様が追加したルールは“剣以外の武器の湧きの禁止”です』
これは厄介だな……
つまり銃が使えないから近距離戦を余儀なくされるわけだ。
そして俺のルールで近距離は無理に近い。
そうなるとこの勝負では、相手のHPを削る以外の勝ち筋。すなわち、もう一つの勝ち筋である赤色の魔物を三十体先に倒す。
恐らく、それが普通なら重要になるだろう。
しかし俺の異能力は遠距離攻撃可能な雷。
もう勝ったも同然だな。
しかし赤色の魔物は舞台に四十体しか存在していない。
これは下手したら六時間後のリセットによる再湧きを待つ必要も出てくるかもしれないな。
「……めんどいな」
『では最後にスタート地点を決めてください』
俺の目の前に四角いマップが表示される。
ここで押した場所からゲームが開始されるわけだ。
「ここだな」
『では良いゲームをお楽しみください』
俺が選択したのは左下の方だ。
どのステージになるか、それは転移してからのお楽しみというわけだ。
そして押した瞬間にワープして辺り一面の砂漠に移動させられた。
『5、4、3、2、1……スタートォォォ!!』
すぐに雑なカウントダウンがされてゲームが開始される。俺はとりあえず周りを見渡した。すると近くには民家があった。
俺は走って民家に入り、剣を拾う。
「悪くねぇ剣だな」
それから辺り一面を走り回る。
基本的にTEQはVRゲーム。
体力という概念は存在しないので常に全力疾走だって可能である。
「グエーグエー!」
「青色の魔物か!」
俺は剣を構えて青色のダチョウみたいな魔物に近づいていく。ダチョウは俺に気付いて逃げようとするも既に遅い。
俺は剣を振り上げてダチョウの首を落とす。
するとダチョウは青色の粒子となって消えていった。
「……グエーグエー」
「ラッキー! もう一体か!」
俺は再び走ってダチョウを倒した。
そして足元を見ると緑色のスライムみたいな魔物が一体いたので、ついでにそれも倒しておく。
スライムを倒して辺りに魔物をいないことを確認して俺は叫ぶ。
「ステータスオープン!!」
TEQでは「ステータスオープン」と叫ぶことで自分のステータスを確認する事が可能。
また、基本的に魔物を倒しすとパラメータが伸びて、パラメータは倒す魔物の種類によって変わるため今のダチョウとスライムがどのくらいの配分か知っておきたい。
【ブラック・リリー】
HP104/104 瞬発力120
赤色の魔物0 転移30/30
「スライム一体でHP+4、あの青いダチョウ一体で瞬発力+10か……ペースとしては悪くねぇ」
そしてステータスを確認してすぐにマップを展開する。それから数秒後にマップが青く点滅したので俺はその少し上を高速でタップ。
今、青く光った場所が赤薔薇姫の現在位置。すなわち五分ルールによって分かる相手の現在位置。
転移はマップを開いてタップした場所に飛ぶように出来ている。
俺は今回の転移で赤薔薇姫の500m上くらいに転移した。
転移した場所は草原で俺は赤薔薇姫を視認して、指を鳴らした。
次の瞬間ズドンと雷が落ちた。
これが俺の能力『雷』である。
俺は指を鳴らすことで赤薔薇姫に向かって異能力を使って雷を落としたのだ。
しかし、この高威力をたった10秒で撃ててしまうとは……
これは間違いなく当たり能力、いやチート能力としか言い様がないな。
「やったか?」
「……これが君の能力なのね」
そう思ってた矢先だった。
何故か赤薔薇姫の声だけが聞こえた。
どこから喋っている!?
俺は辺りをキョロキョロと見渡す。
しかし理解が追いつく前に冷たいアナウンスが鳴り響いた。
『勝者。赤薔薇姫』
俺はその瞬間、負けていたのだ。
おかしい! おかしい! おかしい!
今のは間違いなくこちらの攻撃ターンのはずなのになぜ負けた!
俺はすぐにログアウトとして隣でプレイしていた赤薔薇姫に近寄った。
赤薔薇姫は起き上がると俺が聞く前に俺が欲しい回答を告げた。
「追加ルール。『守り側の半径1m以内に入ったら攻撃側は敗北する』を忘れた? 君が設定したルールだよ」
それは分かってる。
だが、赤薔薇姫は近くにいなかった。
一体どんならカラクリで……
「私の異能力は『透明化』だった。だからバレないようにあなたに近づいた」
「ま、待て……俺が確認した時にお前はたしかに……」
距離にして約500mだ。
そんな距離を一瞬で移動出来るわけがない。
それこそ赤薔薇姫が攻撃側なら転移とかで説明が出来るが今回、赤薔薇姫は守り側。
転移は使用出来ない……
「それはラッキーとしか言い様が無いわね。たしかに私はあなたが雷を落とす0.13秒まであそこにいたわ」
「だったら……」
「近くに10秒だけ俊敏性を100倍にする薬が落ちていた。それを飲んであなたの元まで近づいたのよ」
そういうカラクリか……
たしかに、それなら説明がつく。
だが、そんなの完全に運ゲーじゃねぇか!
つまり俺は運に負けたって言うのか!!
「いいかしら? 運も実力のうちなのよ。あなたがゲーマーを名乗るなら覚えておきなさい。それに運を敗北の理由にするんじゃないわよ」
クソっ……正論過ぎる……
たしかに赤薔薇姫の言う通りだ……
しかし、いくらなんでも今回の展開は……
「あなたは雷を落として勝利のアナウンスが流れなかった時点で転移して逃げるべきだった。勝ち筋はゼロじゃなかった。でも、あなたはそれを見抜けなかった。それだけよ」
いや、待てよ……
よく考えろ……
彼女は『0.13秒』前まではあそこにいたと言っていた……
もしかして彼女は雷を視認してから薬を飲んで移動したのか!?
そうだとしたら反応速度が化け物過ぎる!
これが赤薔薇姫という存在なのか……?
俺は唖然とせざるおえなかった。
彼女はあまりに化け物過ぎる……
「赤薔薇姫……もう一戦だ!」
「期待外れだわ」
「おい!」
「嫌よ。雑魚とやる趣味はないから」
あぁ……化け物だ……
彼女は間違いなく化け物。
でも俺は同時にワクワクしていた。
こんな化け物が存在している!
その事実に何故かワクワクしている。
「だったら……いつかお前がまた挑戦したくなるくらいの大物になってやるから待っとけ!」
「……期待してるわ。新人君」
俺はボロ負けした。
だが、これは意味のある敗北だった。
俺はこの時に決意した。
いつか、もう一度赤薔薇姫に挑んで勝つと。
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