1話 さぁ、ゲームを始めよう

 俺は必死に森の中を走る。

 そんな俺を背後から銃弾が襲う。

 俺は右に曲がり、それを回避するも銃弾も追跡するかのように追ってくる。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

「クソっ!」

「この武器は追跡銃と言って、この武器から発射された弾は対象を地獄の果てまで追い詰めるんだぜ☆」


 ゲーム開始から現在2時間58分。

 あと2分耐え凌げば俺の攻撃ターンとなるがその2分がとても長くて険しい。


「……仕方ねぇな! 『加速』!」


 言葉を発した、瞬間に俺は選考のように早くなり銃弾の追跡から免れる。

 これは俺がゲーム開始時に付け加えた特殊ルール『守り側は30回だけ“加速”と言えば直線方向にめちゃくちゃ速く動ける』というやつだ。


 このTEQは最初にルール付け足しが出来て、どんなルールを追加するかで大きくゲーム性が変動する。


 今回、俺は『加速ルールの追加』を加えて相手は『互いに常に位置が分かるようにする』というルールを加えたのだ。


 そのため俺達は互いに五分ルールに関わらず位置が割られてるわけだ。

 つまりこうやって振り切ったところで……


『転移!』

「やっぱり……そう来るよな!」

「お前の『加速』は残り二回。もう絶体絶命だな」


 そして、このTEQに置いて絶対に忘れてはいけないのが異能力の存在。

 異能力は両者にランダムに配られる超能力の事であり、それが大きく勝敗が変わる。


「お前まさか時間が見れないのか?」

「しまった!」


『攻守交代の時間です。 ブラック・リリー様に攻撃権が移ります』


「じゃあな。散れ!」


 俺がそう言って指を鳴らした瞬間、空虚から六枚の刃が現れて対戦相手を刻み始めた。

 それにより、相手のHPはゼロになり俺の勝ちへとなる。


『勝者。ブラック・リリー』


 今回の俺の能力は剣の召喚。

 HPを消費して自由自在に自分の周り100m以内に剣を呼び出すというもので、今回はそれをひたすら隠して不意を突いて絶対に勝てる局面で使って勝ち確に持ち込んだ。

 ちなみに相手の能力はHPの自動回復だった。だから俺は過剰な火力で回復が追いつかないようにぶち殺した。


「流石だよ……ブラック・リリーさん」

「お前も強かったよ。特に互いの位置が常に割れてることでいくら逃げても追われるのが辛くて武器を殆ど拾えなかった」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 そうして俺は名も知れない対戦相手と固い握手をした。

 俺はそれからログアウトする。

 目を覚ますとそこはカプセルの中。

 俺はそのカプセルの中から出る。

 出るとそこはゲームセンターだ。


「司くん! 今日もカッコよかったよ!」


 俺がTEQを終えると美少女の幼なじみである雨宮雫あまみやしずくが抱き着いてくる。俺はそれを受け止めて頭を撫でる。

 すると雫は幸せそうな顔をした。


「お前も来てたのか」

「途中からだけどね」


 雫とはかなり長い付き合いで気付いたら一緒にいることが多い。

 それこそ周りから付き合ってるとか茶化される程度には……


「しかし毎回ゲームセンターに来て、やるのもなんかあれだよね〜。まぁモニターで司くんの勇姿が見れるから良いんだけどね」

「勇姿とか言うな。照れるだろ。それに誤解される」

「誤解されても良くってよ?」

「いや、俺が困るから」


 そして雫は付き合ってるという事実に満更でもないのが実に困ったところだ。

 まぁそういう俺も別に雫と付き合ってるということでも良いが……


「ていうかTEQが家で出来れば良いのに」

「そうだな」


 俺がゲームセンターでTEQをやる理由。

 それは単純にTEQは大型機で民営化は出来ていないからだ。

 最近VRゲームの開発には成功したのは良いがまだ家庭ゲーム機としては普及してない。

 しかし、TEQが家からでも出来るようになったら廃人が続出するだろうな。


「しかし1回のゲーム時間が長いのがやっぱり課題だよな。うん」


 TEQは戦略性が高くて面白いのだが一回のゲームに時間がかかりすぎるのが問題だな。

 おかげで学校がある日は一日一回か二回くらいしかプレイが出来ない。


「しかし急なルール追加にも対応出来るTEQって本当にすごいよね」

「そうだよな。TEQは超高性能な人工知能を内蔵してるとか言うけど、そんな簡単に人工知能が使えるのがすげぇよな」

「なるほどね……」


 まぁ人工知能を採用してるせいで価格が跳ね上がり、機体も大きくなり一般に採用されにくくなっているという話もあるが

 一応数ヶ月後にルール追加と異能力の要素を排除された一般用のTEQが発売されるみたいだが、そんなただのVRサバゲーはやる気は出ねぇな。


「そういえば知ってる?」

「どうした? 雫」

「もうそろそろ、ここでTEQの日本大会の参加券を賭けた地区大会『きゃぴきゃぴカップ』が開かれるそうだよ」

「興味無い。俺はTEQで遊べればそれでいい」

「もう〜こんな強いのにもったいないんだから! 司君も出てよ!」


 しかし俺が強いか……

 俺はまだ素人に毛が生えた程度の実力だよ。特に彼女の前では……


「雫。あれを見ても同じ事が言えるか?」


 俺はモニターを指差す。

 そこにはウェーブのかかった赤髪の女性が果敢に剣を振り回していた。

 弾丸を飛ばすも全て切り落としていく。

 そして気付いた時には距離を詰めて剣で真っ二つに切っていた。


 彼女の名前は赤薔薇姫。

 ネットでも話題になっててTEQ最強という人もいるくらいの有名人だ。


「彼女が追加した特殊ルールは『守り側でも攻撃を可能にする』というもの。それにより彼女は休むことなく攻撃を続けた。しかも彼女はこの試合で能力を一切使っていないそうだ」


 彼女は正真正銘のチート。

 そもそも弾丸に対応出来る反応速度がどうかしてると言っても過言ではない。


「その彼女のハンドルネームは知っての通り『赤薔薇姫』で今じゃネットでも話題の人だ。強いっていうのはああいう人のための言葉なんだ」


 このゲームに唯一持ち込めるリアルの要素。それが反応速度である。

 彼女はその反応速度が人外と言っても過言ではないレベルに達していた。


「恐らく彼女は肉体さえ耐えられたらリアルでも同じ事が出来るだろうな。まぁリアルで同じ事をしようとしたら肉体が付いてこれないから無理だと思うけどね」

「なるほどね。VRの体だからこそ出来たところか」

「そういう事だ」


 そして彼女がゲームを終えてカプセルから出てくる。

 赤薔薇姫は驚くことに地元がこの街なのだ。

 そして彼女の服装は赤薔薇の名を冠するに相応しい赤いワンピースにアバターと同じ赤髪。まぁTEQのアバターはリアルでの容姿がそのまま反映されるから当然と言えば当然となのだが……


「しかし赤薔薇姫さんって美人だよね〜」

「容姿はどうでもいい。問題は彼女の実力だろ……でも、まぁ反射速度頼みの脳筋プレイヤーって言う人もいるからなぁ」

「つまり反射速度が無い赤薔薇姫は弱いってこと?」

「かもな」


 そんなことを話してると赤薔薇姫が何故か俺の方へと近づいてきた。

 もしかして怒らせてしまったか?


「……なんだよ?」


 そして細い指で俺を指す。

 そのあとに彼女は驚きの一言を発した。


「……似てる」

「は?」

「もしかして……あなたって……」

「なんだよ」

「私と勝負して」


 おいおいマジかよ……

 俺と彼女は間違いなくレベルが違う。

 そんな彼女が俺に挑戦だと?


「……司君」


 でも俺も彼女とは一度戦ってみたかった。

 彼女は反射速度が人外だが、それだけだ。

 それに意外と勝てたりするかもしれねぇ。


「いいぜ。勝負しようぜ? 赤薔薇姫さん」

「あなたの実力を見せてもらうわ。ブラック・リリーさん」


 そうして、俺と赤薔薇姫との戦いが始まろうとしていた。

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