第36話 遭遇する
翌日、休憩を取った相賀たちは早速依頼主のもとへと向かう。
依頼主は、同じくレイレスにいた。
「君たちが今回の冒険者だね。よろしく頼むよ」
そういったのは、ニコニコとした男性であった。
「早速だけど、君たちに運んでもらいたい荷物を見てもらおう。さぁ、こっちだ」
そういって、相賀たちを案内する。
建物の裏手に回ると、そこには山積みにされた麻袋があった。
「この袋をローリャの村まで届けてほしいんだ」
「ローリャの村っていうと、未到達地のすぐそばじゃないですか」
「そうだね。ここ最近、ローリャの村周辺で王立騎士団の活動が活発になっている噂を聞いてね、もしかしたら大規模な未到達地への探索が行われるんじゃないかって睨んでいるんだ」
実際その通りである。
(しかし、察知するにも早くないか?)
相賀はそんな疑問を思い浮かべた。
そんなことをお構いなしに、男性は説明を続ける。
「もしローリャの村までの行き方がわからないなら、こっちで地図を用意できるよ。それで、ローリャの村に到着したら、村唯一の商店に向かってくれ。そこの店主に話を通せば分かってくれるはずだから」
「分かりました。すぐに出発します」
「あぁ、そんなに焦んなくても大丈夫だから。ゆっくり行くといいよ」
「はぁ……」
そんなわけで、自走式馬車に麻袋を載せていく。
一袋だけでも結構重いのだが、それが何袋もあると、重労働になる。
「ルナさん。この馬車、耐荷重どのくらいですか?」
「そうですね……。189kgくらいって所でしょうか」
「これ、明らかに超過しそうなんですが」
「どうします、相談します?」
ちょっとした話し合いの結果、依頼主と相談することになった。
「僕たち、馬車がこれしかなくて、申し訳ないんですけど、全部載せるのは無理だと思うんです」
「そうか……。それは困ったね。どうしてもこれ全部持って行ってもらいたかったんだけど……」
「お力になれず、残念です」
「うん、分かった。どうしても、これとこれを持って行ってもらいたいから、それでよろしく頼むよ」
ありがたいことに、量を減らして持っていくことを許してもらえた。
相賀たちは指示されたものを馬車に積み込む。
「全てではありませんが、荷物は預からせてもらいました。丁重に運ばせていただきます」
「よろしく頼むよ。残りはこっちでどうにかするよ」
「分かりました。では」
そういって、相賀たちは自走式馬車に乗り込む。
そして、レイレスの街を出発した。
ルナの持っていた地図によると、ローリャの村までは馬車で2~3日程度かかるようだ。
食料は必要最低限の状態であるため、道中食料を調達しないといけない。
そんなことを考えるものの、その思考は途中中途半端に放棄される。
それは、自走式馬車の振動がひどいことにある。
「せめてシートベルトがあればなぁ……」
「え、今なんか言いましたか?」
相賀のボヤキが、ルナの耳に届いていたようだ。
「あぁ、いや。なんか振動がひどいから、こう、体を固定できるようなベルトがあったら便利だなぁって」
「あぁ、確かにそれは言えてるかもしれません。私もほとんどしがみついて運転しているようなものですし」
「……降りていいですか?」
「ダメです」
そう言いつつも、道のりは順調である。
速度はそこまで出ていないため、安全は確保されているのかもしれない。
約15km移動した所で、この日は休憩を取ることにした。
ここは街からも離れた場所にあるため、人気のようなものはない。
そのため、野営という形になる。
暗くなる前に、相賀たちは焚火の準備を始めた。
「なるべく乾いた枝を集めてください」
「はい」
ルナの指示に、相賀は動く。
そして焚き火を焚き、一休みしているときだった。
「ん?」
「どうかしましたか?」
相賀の耳に、周辺の草木がガサッと動いたような音が聞こえたのである。
相賀は静かにグローブを手にはめる。
ルナも相賀の行動を察したのか、杖を構えた。
しばらく様子を見ていると、草木を倒すような音は周囲全体に回ってきているのを感じる。
「取り囲まれましたね」
「どうします?」
「お互い、後ろを預けあうのはどうですか?」
「分かりました。僕は馬車側をなんとかします」
「お願いします」
そういって、ルナは杖を一振りした。
すると、周囲に炎のようなものが巻きあがる。
それと同時に、あちこちから悲鳴が上がってきた。
それを合図に、草むらから山賊が飛び出てくる。
「荷物を寄越せー!」
相賀は山賊たちと相対した。
相賀のこの惑星での強味は、速度が上がると顕著に現れる。
それは、この惑星ではつくことがない筋肉が発達していることにある。
一見して相賀のからだは一般的な体のそれをしているが、それは地球での話だ。
重力の低いこの惑星では、相賀の体は強化された人間のそれに匹敵する筋肉を有していることになる。
すなわち、相賀はこの惑星においては瞬発力や俊敏性、また動体視力が相対的に発達していると言える。
そのため、馬車の周りを縦横無尽に駆け回る相賀の目には、山賊の姿はスローモーションのように見えているのだ。
「な、なんだこのすばしっこいヤツは!」
「いいから荷物を取り囲め!話はそれからだ!」
「だが、行こうにもソイツが……!」
そういっている間にも、相賀は山賊を撃退し続ける。
馬車に手をかけようとしていた山賊に対して、相賀は助走をつけて思いっきりドロップキックをかます。
ドロップキックをした反動で、相賀は宙に浮かび、状況を確認する。
全方位から山賊が一斉に迫り来る様子が確認された。
数は4。
素の状態では完全に遅れを取ることだろう。
相賀は、着地と同時にグローブを握りしめる。
すると、グローブにはめてある魔石が光り輝いた。
身体強化の魔石の効果で、相賀の身体はかなり強化される。
そのまま、相賀は地面を蹴った。
すると、地面に穴を開けながら、まるで瞬間移動のように移動を繰り返す。
そのまま馬車の周りを一周するように攻撃を加えていく。
今の相賀の姿は、まるで残像を見ているかのような感じである。
そのまま何周か馬車の周りを回った。
その状態だと、もう山賊は攻撃を加えられて吹っ飛ばされる。
そして、馬車の周りにいる山賊を倒し切った。
ちょうどそのタイミングで、ルナもやってくる。
「こっちも片付きました。どうですか?」
「問題ないです。山賊は全部片付きました」
「この人たち、どうします?」
「そうですね。ロープありましたっけ?それで縛っておきたいのですが」
「ありますよ。けどそこまであったかな……?」
そんな感じで夜が更けるまで山賊を拘束する作業が続いたのだった。
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