第35話 釈放
それからどれだけ時間が経っただろうか。
窓のようなものがないため、感覚で感じるほかないのだが、それでも2日程度は経ったかもしれない。
相賀がそんなことをぼんやり考えていると、牢屋につながる通路の扉が開いた。
そこから、この間の女性がやってきたのだ。
「待たせたわね。あれから事実確認をしてたから時間かかっちゃったわ。結果からいうと、あなたたちは釈放よ」
「本当ですか?」
「よかったぁ」
「どうやら通報してきた依頼者の男が、でっち上げの嘘を言ってたみたいね」
「あの人ですか」
「規則に従わなかったのは、そういうことをするためだったんですね」
「どうやら、過去にも似たような手口を使っていたようね。本人曰く、冒険者が憎くてやったと言っているわ」
「迷惑にも程があるもんでしょう」
「とにかく、あなたたちは釈放だから、もう出ていいわよ」
そういって女性は、従えていた騎士に指示を出す。
その騎士が、牢屋の鍵を開けた。
相賀たちは数日ぶりに牢屋から出る。
そのまま、相賀たちは詰所の入口まで案内された。
「これ、あなたたちの所持品だったわね。返しておくわ」
「あぁ、良かった」
「これがないと、私何もできませんからね」
「それと、あなたたちは冒険者でしょ?これ、興味ない?」
そういって、女性は依頼書のようなものを取り出す。
そこには、「異界の地へいざ征かん」という文字が並んでいた。
「今度冒険者も交えた未到達地への外地調査があるの。もし良かったら参加してみないかしら」
「へぇ……」
「未到達地に行くんですか!?」
相賀の淡泊な反応に対して、ルナは大いに興奮している様子だった。
「もちろん、この調査に参加してくれたら報酬は高くつくはずよ」
「これっていつ行くんですか!?」
「今から数えて約1か月後ね。それまで準備を進めておいてね」
「はーい!」
食い気味のルナの様子に、相賀はなんとなく置いて行かれてる感が否めなかった。
「私はジェシカ。もし縁があったときはよろしくね」
そういってレイレス詰所を出る。
詰所を出た後に、相賀は疑問に思っていることを聞く。
「ルナさん、疑問に思ったんですけど」
「なんでしょう?」
「その、未到達地ってどういうことですか?」
「え!あの未到達地をご存じないんですか!?」
「ご存じないです……」
「あ、そっか。マサヤさん今記憶なくしてるんですもんね」
そういうと、ルナは丁寧に教えてくれた。
「王国がある地域は、現在一番北にある国なんです。南には王国以外に5つの国がありまして、それぞれと交流をしている感じなんですね。しかし、王国のさらに北は、深い森と高い山々が存在していて、そこから先は立ち入ることができないんです。そこを未到達地と呼んでいるんです」
「そんな場所があるんですか……」
地球のすべてを見通せる時代に生まれた相賀にとっては新鮮な視線だと感じた。
「その未到達地に向かうことが今回の目標なんだと思います。現在王立騎士団が少しずつ調査をしているものの、全貌を解明するに至ってません」
「そうなんですか」
「今回の調査は冒険者も交えてとのことなので、相当大規模に行うと思われます」
「では、僕たちはそれに備えるということなんですか?」
「そうですね」
「というか、ルナさん勝手に話進めすぎでは?」
「……てへっ」
「まぁいいですけど、それに合わせてこちらもいろいろ準備していかないといけないですね……」
「そうですね。魔石集めに、食料確保に、一度自走式馬車の整備も頼んでおかないと……」
「魔石の確保が最優先ですか?」
そんなことを言いつつも、二人は冒険者ギルドへと歩いていく。
冒険者ギルドに到着すると、入口である人物に止められる。
「ちょっと、そこの二人」
「僕たちですか?」
「あんたら、マサヤとルナっていうのかい?」
「はい、そうですけど」
「なら良かった。これ、請求書」
そう突き出してきたのは、宿の請求書であった。
この人、宿の管理人である。
請求書の内容によると、通常の宿泊料金に加え、騎士に部屋を物色された特別料金としていくらか上乗せされていた。
「きっちり払ってもらうからね」
「あっははは……」
払えない金額ではあるものの、苦笑いする他ないものであった。
きっちりと料金を払ったあと、相賀たちは依頼ボードを見に行く。
今のさっきで、金銭的は余裕を持たせておきたいからだ。
「何か高額な依頼とかあったりしませんかねぇ」
「あんまり高額だと、もしものことがあるので、気が進みませんけどね」
「なんでですか?」
「そういう場合、大半は『騙して悪いな』ってことになるんですよ」
「ん?言ってる意味が分かりません」
「まぁとにかく、妙に報酬が良い依頼は積極的に受けないほうがいいってことです」
相賀の言葉に、ルナは疑問が募るばかりである。
「そういえば、オークの討伐の依頼はどうでした?」
「依頼内容に対して、報酬が良かったような気がします」
「そういうことですよ」
「んー、いまいちよく分からないです」
「さいですか」
そういって、相賀は何か良い依頼はないものか探す。
「これはどうです?ワイバーンの討伐なんかは?」
「うーん、私たち飛び道具使ってませんし、難しいのではないですか?」
「となると……、これはどうです?荷物を運ぶだけのようですし」
「これならいけますね」
「ではこれを受けましょう」
そういって、二人は受付へと向かうのであった。
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