第34話 逮捕

 翌朝、何者かが扉をノックする音で目覚める。


「んん……。何事?」


 相賀は眠そうな目をこすりながら、扉へと向かう。

 そして扉を開けた。

 するとそこには、甲冑を着た重装備な男が3人いるではないか。


「冒険者のアイガマサヤだな?」

「え、えぇ、そうですが……」


 あまりの迫力に、相賀は思わず萎縮する。


「もう一人冒険者がいるはずだが?」

「そ、それなら、ベッドの上で寝ていますが……」


 相賀は素直に、ルナのいるベッドを指さす。


「よろしい。貴様ら二人には、公文書偽造の罪に問われている」

「な、なんですって?」

「悪いことは言わん。おとなしく我々に捕縛されろ」

「偽造だなんて、一体何を偽造したっていうんです?」

「詳しい話は詰所で聞く。いいから黙ってついてこい」


 そう言われて、相賀は身柄を拘束される。

 もちろん、寝ていたルナにも容赦ない。


「ふにゃ……。あれ、これは……」

「貴様も公文書偽造の疑いがかけられている。我々に身柄を拘束されろ」

「な、何が起きてるんですかー!」


 相賀とルナは抵抗する間もなく、そのまま宿の外に連行される。

 荷物などはすべて回収され、そのまま別の男に持っていかれた。

 裏口に通ずる通路を通って、横づけされていた馬車に強制的に乗り込まされる。

 そのまま男が数人乗り込んで、馬車は出発した。


「あ、マサヤさん!これどうなってるんですか!?」

「僕に聞かれても分かりませんよ……。とにかく、今は彼らの言う通りにした方がいいかもしれません」


 そのまま馬車はどこかへと向かっていく。

 馬車に揺られること十数分。

 どうやら目的地に到着したようだ。


「降りろ」


 相賀たちは、ただ単純に指示を受ける。

 現状、それに従う他に方法がないため、仕方なく相賀たちはそれに従う。

 馬車を降りると、そこはどこかの城壁のような場所の中だった。


「ここって……」

「心当たりあるんですか?」

「おそらくですけど、もしかしたら王立騎士団レイレス詰所かもしれません」

「王立騎士団?」

「そうよ」


 相賀たちの会話に、何者かが割って入る。

 周りの騎士と思われる男たちが一斉に敬礼のようなしぐさをした。

 それを見た相賀は、この人はそれなりの地位にいる人間であることに勘付く。


「よくここが王立騎士団の詰所だと分かったわね」


 そこにいたのは、甲冑を着た背の高い女性であった。


「まぁ、この街にいる人間だったら、誰でも分かるようなことでしょうけど」

「僕たちに何の用事ですか?」

「あなたたちは確か、公文書偽造の罪で逮捕された二人?」

「僕たち、そんなことをした覚えはありません!」

「そうですよ!」

「ここで弁明されても困るわ。ちゃんと事情は聞いてあげるから、おとなしくしていることね」


 そういって、女性はどこかへと行ってしまう。

 相賀たちは、そのままどこか牢屋のような場所に入れられてしまった。


「困ったことになりましたね……」

「えぇ、本当ですよ。まさかこんな事態になるなんて……」


 隣同士の檻に入れられた二人は、なんとも言えない失望感に襲われていた。


「公文書偽造って、一体何を偽造したっていうんですかね?」

「公文書……。もしかして」

「心当たりあります?」

「はい。もしかしたら依頼書のことかもしれません」

「依頼書?」

「えぇ。依頼書って、実は依頼達成されたあとは、一定期間保管しておかないといけない公文書扱いになるんですよ」

「なんたってそれが僕たちの逮捕につながるんですか?」

「おそらく昨日の依頼書、あれが公文書偽造に値すると判断したからではないでしょうか?」

「……まさか」

「いいえ、可能性はあると思います」

「それじゃあ、僕たちは無実の罪でも着せられてたっていうんですか?」

「その辺はまだわかりません。ですが、私たちはしっかりと仕事をこなして、サインも貰った事実を突きつければいいんですよ」


 そんなことを言っているうちに、牢屋の前に先ほどの女性がやってくる。


「さて、楽しい尋問のお時間よ」


 尋問。彼女は確かにそう言った。

 しかし、特に牢屋から二人を出すわけでもなく、ただ持ってきた椅子に座る。

 相賀は、それを見てポカンとする。


「……何よ、そんな物珍しそうな顔でこっちを見て」

「いえ、尋問なんでてっきり爪をはがすとかするのかと……」

「そんなことする訳ないでしょ?それやったら尋問取扱法に引っかかるからやらないわよ」


 よく分からないが、とりあえず拷問されるわけではないようだ。

 その後は、ただの質疑応答のような感じであった。


「それじゃあ、あのオークの群れを倒したのは間違いないのね?」

「はい。僕たちが依頼に沿って、オークのコロニーを破壊したわけです」

「その際に、私の魔法を使ってマサヤさんに倒してもらったんです」

「それで、依頼者の男性にキチンとコンタクトを取ったのかしら?」

「それはもちろんです」

「そう。それで、依頼達成の際に現場を見てもらおうとした所、依頼者がそれを拒否したというわけね」

「そうです」

「分かりました。今回の所はこれで終了とするわ。ほかに何か言っておくこととかない?」

「そういえば、オークのコロニーを討伐した証拠に、オークの頭を地面に埋めておいたんです。ちょっと土が盛ってある所です」

「分かったわ。これは持ち帰って検討するわ。とりあえず、事実確認するために、数日は時間を見てちょうだい」


 そういって、女性は牢屋を出ていった。


「何とかなりそうですね」

「えぇ」


 とにかく、今は吉報が来るのを待つしかないのであった。

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