第31話 難しいこと

 どうにかルナは相賀のことを説得し、自走式馬車に乗り込む。

 そして、そのまま目的地である村まで移動するのであった。

 移動時はかなり車体が揺れるものの、道がよく整備されているのか、そこまで気になるものではなかった。


(それでも雨ざらしのような運転席はあまり気分が良いとは言えないけどな)


 おまけにシートベルトもない。

 相賀は掴まれるところをしっかりと掴み、身を投げ出されないようにした。


「そんなに緊張しなくても、私は安全に運転しますから」


 そうルナが言ってくるものの、相賀はそれを無視した。

 徒歩よりも早いものの、それでも少しは時間がかかった。

 道中休憩をはさみつつ、半日以上をかけて移動する。

 到着した時は、すでに夕方であった。

 相賀たちは早速依頼主に会いに行く。


「おめぇさんらが冒険者なんか?」

「はい」

「ま、なんでも良いけどワシらに傷がつかんような仕事をしてくれよ」


 そういって依頼主は相賀たちについてくるよう促す。

 しばらく歩いていくと、村の裏にある山に入っていく。

 そしてある場所から谷間を見下ろせるような場所に出る。


「ほれ、見な」


 それにつられ、相賀とルナは谷間を見下ろす。

 そこには、何か塊のようなものが見える。


「あれがオークのコロニーだ。個体数は数百にもなる。今回の依頼はオークのコロニーを壊滅させることだな」

「壊滅ということは、オーク自体はすべて殺さなくてもいいということですね?」

「ま、そういうことだな」

「分かりました。ルナは何か聞くことあります?」

「いえ、私からはありません」

「それなら、オークの特性と言いますか、特徴みたいなのがあったら教えてもらいたいんですが」

「特徴?んなもん強くなった醜い人みたいなもんだ。これといった特徴なんてねぇぞ」

「そうですか。分かりました」


 そういって、二人は自走式馬車まで戻ってくる。


「今回はどう攻略しましょうか……」

「あの数だったら、ごり押しってのも難しいですよね」


 ここで相賀たちは詰まってしまう。

 それは、相賀たちに対してオークの数が多すぎるということにある。

 相手は数百にもなる人間を強化したような生き物だ。いくら相賀の身体的余裕があるとは言っても、不利な部分が多すぎる。


「どうしたもんですかねぇ」

「けどこのまま引き下がる訳にも行きませんし……」


 八方ふさがりである。

 とにかく、ここは無理やりにでも意見を出し合うことにした。


「この間魔石を使ってゴブリンの死体を処分しましたよね?あれと同じ要領でオークの群れに魔石を撒くというのはどうですか?」

「それは非効率というものです。確実に魔石が足りなくなる上に、得られる効果も少ないと考えられます」

「そうなると、片っ端から殴るしかなくなりますよ」

「でもそれも非効率なんですよね……」

「そのほかに方法あります?」

「魔石を大量に消費して使う魔法を駆使すれば、可能性としてはなくはないんですが……」

「しかし、魔石なんて今持っているもので足りるんですか?」

「正直足りませんね」

「うーむ……」


 完全に手詰まり状態である。

 これ以上何か意見が出るわけでもない。

 そういう空気が流れているときだった。


「仕方ありませんね。秘技を使うことにしましょう」

「秘技、ですか?」

「はい。今回はあの秘技を使うことにします」

「その秘技というのは?」

「ズバリ、霊体化です」

「霊体化?」


 今の相賀の頭には、クエスチョンマークがついていることだろう。


「霊体化というのは、文字通り対象の体を霊体にすることを意味しています。霊体も、私と対象の魔力によって、その大きさや強さを変更できるんです」

「……つまり、僕が霊体になるってことですか?」

「そういうことです」


 相賀はこの秘技に、一抹の不安を感じた。


「その、霊体ってことは僕は一回死ぬってことになりませんか?」

「大丈夫です。この秘技を使っている間は、気絶ってことになりますから」

「それでいいんですか……」

「とにかく、これを使ってオークの群れをやっつけちゃいましょう」

「大丈夫かな……」


 相賀の小声は、ルナの耳には届かなかった。

 さて、時刻は夜。

 今日のところはもうやることがないため、さっさと就寝したいところだった。


「今日はどこで寝ますか?僕は運転席で寝ますけど」

「え、あそこで寝るんですか?」

「え?他にどこで寝ろと?」

「一緒に荷台で寝れますよね?」

「いや、さすがに男女が同じ寝床で寝るのは問題だと思うんですけど」

「マサヤさんはそんなことする人じゃないですから」


 ルナの純粋な目。

 それには、さすがの相賀も折れるしかなかった。


「そ、それじゃあ、僕はこっちのほうで寝ますので……」


 そういって、相賀は荷台の端の方に行く。


「ルナさん、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 そういって、二人は微妙な距離感を保って、就寝する。

 正直に言って、相賀はこの状況に心臓がバクバクいっている状態だが。


(女の子と同じ屋根の下で二人っきりなんてなったことないよ!)


 今にも心臓が破裂しそうな相賀であった。

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