第30話 パーティ再結成

 翌日、あまり気分が優れなかった。

 それは、昨晩にアルコールを摂取したことに加え、ローランたちに嵌められていたことが関係していた。


「依頼、やりに行かないとなぁ」


 相賀は重い体を起こし、着替えて宿を出る。

 すると、宿の入口にルナが待っていた。


「おはようございます、マサヤさん」

「ルナさん、どうしたんですか?」

「実はですね、大学の研究を副業にして、冒険者業に専念することにしました」

「そんなことしていいんですか?」

「あんまり良くはないです。けど私、研究は進んでいる方の人間なので、教授からは許可もらいました。1年くらいなら問題はないそうです」

「そうなんですか……。でもいいんですか?僕なんかの事情に合わせちゃって」

「良いんです。これは私が好んでやっていることなんで」

「そうですか……」

「それじゃ、冒険者ギルドに行きましょう。早速パーティ結成の申請してこないといけませんからね」

「それもそうですね。じゃあ冒険者ギルドに行きますか」


 そういって、二人はそろって冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者ギルドに入ると、朝なのにも関わらず多くの冒険者でにぎわっていた。

 ギルドに入ってきた相賀たちを見て、冒険者の多くがその姿を目撃する。


「あいつ、女を侍らせてやがるぜ」

「どうせゲスい方法でも使って付きまとわせているんだろ?」

「やだ、気持ち悪い」

「ああいうモテないヤツがあんなことしてるから冒険者の格が下がるんだよ」


 根も葉もない言われようであるが、相賀はこの言葉に惑わされない。

 それは、己のやっていることは問題がないという、強い意思によるものであるからだ。

 そのまま相賀は、堂々とした面持ちで受付に向かう。


「すみません、パーティの結成をしたいんですけど」

「分かりました。ではこちらに、結成するパーティのメンバーの名前を記入してください」


 相賀は所定の記入欄に、名前を書いていく。

 ルナも紙に名前を書き、書類は完成する。


「お願いします」

「確認します。……はい、問題はありません。パーティ結成おめでとうございます」


 こうして二人は晴れてパーティとなった。

 早速依頼をこなしにいく。


「今回の依頼はオークの群れの討伐ですか?」

「そうですね。ここからそこそこ遠そうではありますけど」

「大丈夫です。移動用にあるものを持ってきていますから」


 そういって、ルナはバッグから何かを取り出す。


「これがあります」


 そういって取り出したのは、なにやら金属のキューブのようなものであった。


「なんですか、これ?」

「ふっふっふ、これは私がいる大学で開発された、持ち運びできる自走式馬車なんです!」


 そういって、ルナはそれを地面に置く。


「ここからどうするんですか?」

「まぁ、見ててくださいよ」


 そういって、ルナは杖を一振りする。

 すると、金属がぶつかるような音を立てて、キューブは展開を始める。

 そして、それは明らかに質量保存の法則を超えて、馬車のキャビンのような物を形成した。


「なっ!」

「びっくりしたでしょう?これが最新の魔法工学で作られた未来の乗り物なんです!」

「確かにびっくりはしましたけど、これってそもそもどうやって手に入れたんですか?」

「いやぁ。実は、知り合いの先輩に冒険者業に専念することを伝えたら、これを持っていくように言われたんですよ」

「それもまたなんでです?」

「さっきも言った通り、これは最新の魔法工学で作られた物なんです。そのため、まだ詳しい性能チェックとかしてなくてですね。そこで、ちょうどよく私が現れたものですから、一つ頼まれてくれって言われたんです」

「要するに、実地での試験をして、性能チェックをするように言われたってことですか?」

「そういうことです」


 相賀は少し考えたあと、その場で回れ右をする。


「歩いて行きましょう」

「なんでですかぁ!いいじゃないですか自走式馬車!」

「嫌です!なんで自ら進んで生贄にならなくちゃいけないんですか!」

「科学の進歩には時には犠牲が必要なんです!」


 そんな押し問答を続けること数分。

 相賀の方が折れた。


「仕方ないですね……。分かりましたから、服を離してください」

「良かったぁ、このまま拒否されたらどうしようかと思いましたよ」

「とにかく、馬車の様子をみましょう。荷物が置けるとか確認したいですし」


 そういって、相賀は中を確認する。

 荷台部分に相当する場所は、なかなかの広さを持っているようだった。荷物もある程度は置けるようだ。

 そのまま前の方に回って、運転席の様子を確認する。

 運転席は簡単な屋根と前についている仕切りのようなものを除いて、素晴らしく風通しの良い感じになっている。

 前にある手すりがなければ、簡単に外に投げ出されることだろう。


(シートベルトに似たものがないのがちょっと厳しいな)


 それと、座席に目を移すと、椅子も簡単な金属製の物になっている。

 居住性とか、そういうものは一切考えていないようだ。


「ルナさん、これってどのくらいスピード出せるとか聞いてます?」

「えっと、最高で時速34.4kmくらいとは聞いてます」


 その程度なら許容範囲だろう。

 とにかく、移動するならこれで物足りるだろう。


「ところで、これ誰が運転するんです?」

「私ですね。初めてですけど」


 それを聞いた相賀は再び回れ右をする。


「やっぱり歩いていきましょう」

「待ってくださいよー!さっき乗るって言ったじゃないですかー!」

「それとこれとは話が別です!初心者の運転する車なんか乗れないじゃないですか!」

「ちゃんと練習はしましたから!大丈夫ですから!」


 パーティ結成早々、なんとも前途多難な二人であった。

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