第29話 真実
その後、2日ほどかけて冒険者ギルドのある街へと戻ってくる。
「そういえば、この街に名前ってあるんですか?」
「それはもちろんありますよ。レイレスっていうんです」
「レイレス……」
「はいっ」
そういって、ルナは一歩前に出る。
「ようこそレイレスの街へ!そして、おかえりなさい」
それは、単なる挨拶のようにも感じたが、相賀はどこか心安らぐような感覚を覚えた。
「それじゃ、行きましょうか」
そういって、ルナは相賀のことを誘うように、後ろに回って相賀の背中を押す。
今の二人の様子は、初々しいカップルのようである。
相賀は、そのまま冒険者ギルドに寄っていくことにした。
ルナは外で待たせ、依頼達成の報告をしに行こうと考えたのだ。
そのまま相賀は冒険者ギルドの扉に手をかけた。
その時である。
中から声が聞こえてきた。
それはローランたちの声である。
「それでよー、あいつクスリで眠らせてやったんだよ」
「アッという間にコロンだったぜ」
「教科書みたいに引っかかるんだから、笑っちゃったわ」
笑い声が混じりながら、ローランたちが話しているのが分かる。
(もしかして……)
相賀は扉から手を離し、聞き耳を立てる。
「それであいつを宿に送っていったんだ。そして朝方になって叩き起こしたんだよ」
「俺があいつのことをまくし立てて、容疑者ということにしたんだ」
「私、隣で聞いてたんだけど、結構上手だったわ」
「そりゃ、何度かやってるからな。上手くなるさ」
「それで、いつも通りに強姦と強盗の容疑をかけて、そのまま手持ちの金全部頂いたってわけさ」
「ほんと、傑作だったわ」
「あそこまで純粋な人間もそうそういないだろうよ」
「良いカモだったな」
そして大笑いが起こる。
ここまで聞いて、相賀は完全に察する。
相賀は嵌められていたのだ。
それを理解した時には、相賀はローランから貰った装飾された赤い石を握っていた。
そして、それを強く握りしめる。
パキッと石の割れる音が響く。
そして、それを思いっきり遠くへ投げ捨てる。
普段から温厚な相賀であったが、この時ばかりは堪忍袋の緒が切れた。
しかし、このまま怒りに任せても何も解決しない。
どうにかして怒りの感情を鎮める。
「すぅぅぅ……、ふぅぅぅ……」
相賀は深呼吸して、どうにか気持ちを整える。
何度か深呼吸をすることで、怒りの気持ちを鎮めた。
「うん、俺は潔白だった。それだけで十分だ」
こう言い聞かせることで、相賀は精神を落ち着かせることに成功した。
相賀は何食わぬ顔で冒険者ギルドに入る。
その瞬間、中にいた冒険者が一斉にこちらを向く。
その中には、当然ローランたちもいた。
相賀はそれらの視線をすべて無視して、受付へと向かう。
「これ、お願いします」
「はい」
そのまま、受付による精査が行われる。
「はい、確かに依頼者のサインを確認しました。依頼達成です」
そういって、相賀は報酬を受け取る。
受け取った報酬を持って、そのまま依頼ボードに向かう。
次の依頼を受けるためだ。
今度受ける依頼は、またも討伐系統の物だ。
オークの群れが近くにいる村に行く必要がある。
相賀は、この依頼書を持って、受付に向かう。
「これ、お願いします」
「はい、わかりました」
こうして依頼を受けていく。
そのままギルドを後にしようとした。
その時、声をかけられる。
「マサヤ」
相賀はなんとなく嫌な予感を察したが、その声の主へ振り向く。
「なんだよ、ローラン」
「また依頼を受けるのか、少しは休憩したらどうだい?」
「俺は駆け出しだよ。休憩している暇はないさ」
「罪滅ぼしのつもりかい?」
「それともあれか?俺たちと顔を合わせるのが嫌なんだろ」
ガイバーの指摘に、周囲にいた人間が笑う。
相賀はその言葉にまったく笑わない。
「とにかくだ。良い冒険者になるには休息も必要だよ。先人からの知恵だ」
「……肝に銘じておくよ」
そういって、相賀はそのまま外に出た。
「用事は済みましたか?」
外で待っていたルナが寄ってくる。
「はい。終わりました」
「ん?その手に持っているものはなんですか?」
「次の依頼です」
「この間依頼を達成したばかりじゃないですか」
「良いんです。このほうが気分が楽ですから」
「……話なら聞きますよ」
「そうですね……。立ち話もなんですし、どこか入りますか」
「それなら大学の近くに良いお店があるので、そこ行きましょう」
そういって、相賀はルナに案内されて、とある店に入る。
そのままアルコール度数の低いジュースと、つまみの料理を数種ほど頼む。
ジュースが運ばれてくるタイミングで、相賀は口を開いた。
「前に、パーティで起こしたことを話したじゃないですか」
「強姦……ですか?」
「はい。実はさっきギルドに入る時に聞いてしまったんですが、どうやら僕は嵌められていたようで、僕の金品を奪うための口述に強姦したというデマカセを言ったみたいなんです」
「そう、だったんですか」
「結果として僕は無実なんですが、それでも僕についたイメージや、それを面白半分でいう人間が出てきてしまったことに、なんとも言えない気分になってしまうんです」
そういって、相賀はジュースをあおる。
空になったコップが、静かに机の上に置かれた。
「僕は、どうしたらいいんですかね」
相賀はか細い声でつぶやく。
「大丈夫です。マサヤさんはしっかりやってますよ」
こうして夜が更けていく。
この日は相賀に愚痴を聞くだけになってしまい、相賀はそのまま近くの宿に止まることにした。
「今日はありがとうございました。愚痴なんか聞いてもらって」
「良いんです。マサヤさんの潔白が分かっただけでも十分です」
「とにかく、今日はいろいろあったのでもう寝ますね」
「はい。おやすみなさい」
こうして二人は解散したのだった。
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