第28話 依頼は完了した

 日が暮れる前に、相賀は今回の依頼が無事達成されたことを示すために、依頼主に洞窟を案内する。


「……ご覧のように、洞窟内部にいたゴブリンはすべて処分しました。死体は外に出し、焼却処分を実施しました。これで、ゴブリンという脅威はなくなったと考えていいでしょう」

「うむ、確かにゴブリンの処分はできているようだ。これなら問題はないだろう」


 村に戻った後、依頼達成のサインをもらう。


「ほらよ、これで問題はないだろ?」

「ありがとうございます」

「今回は助かった。次回がなければいいんだが、またその時はよろしく頼む」

「もちろんです」


 そういって、相賀は依頼書と、少しばかりのチップを受け取る。

 こうして、相賀は街に戻ろうとした。


「それで、なんでルナさんも一緒なんですか?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?私も冒険者ギルドに所属しているんですよ」

「聞いてません。それに今回の依頼、一緒になって討伐したので、依頼料折衷にしないといけませんよね?」

「あぁ、私いらないですよ。今回は調査の目的で来ていましたし、私は偶然一緒になってしまっただけですから」

「いやでも、少しくらいもらってもいいんじゃないですか?」

「いいえ、今回の調査ではいいものが手に入ったので」

「いいもの?」

「はい。それがこれです」


 そういってルナは、ある鉱石を取り出す。

 それは黄土色のようにも見える、ある鉱石だった。


「……なんですか、これ?」

「これの素晴らしさが分からないんですか!?」


 ルナは驚いたようにいう。


「これは金色に輝く魔石です。これがどのように素晴らしいかというとすべての属性に対して適応できる唯一の魔石であり、それはすなわち世の中に存在するありとあらゆる魔道具がこれ一つで構築することが可能になるんです。しかしこれが生成される条件や背景が一切見当たらないんです。でもこれは逆説的に言うと、この魔石の誕生を知ることができれば世の中のすべての魔道具を動作させることができる夢のような機関が誕生することができるというわけなんです」


 ルナは息つく暇もなく、ベラベラとしゃべり倒す。

 そして、その距離は無意識に近くなっていく。

 相賀は半歩身を引きながら、その話を聞いた。


「……つまりそれを解明すれば、世の中がもっと便利になるってことですか?」

「簡単に言ってしまえばそういうことになります」


 だが、相賀にとっては与り知らないといった内容である。

 とにかく、ここはルナの言っていることに賛同しておけば問題はないだろう。


「とにかく、僕はこれから冒険者ギルドに戻ります。ルナさんはどうするんですか?」

「そうですね……。今回は収穫もあったことですし、大学に戻ることにします。ちなみに、どこの冒険者ギルドを拠点にしているんですか?」

「ここから2日ほど歩いたところにある街ですね」

「2日ですか?それなら大学がある街と同じですよ」

「そうなんですか?」

「はい。それなら一緒に行きましょうか」


 そういって、相賀とルナは一緒になって街に向かう。

 その道中、いろんな話をする。


「私が研究者でありながら冒険者を目指すのは、かつて父がそうであったのが理由です」

「今父親はどうしてるんですか?」

「……父は行方知れずです。ある日、研究目的で依頼を受けに行き、旅に出てそれっきりです」

「あ……。すみません、変なこと聞いて」

「いえ、いいんです。もう済んだことなんで」


 そんなことを話していると、相賀の話題になる。


「マサヤさんは何か覚えていることはないんですか?」

「うーん、あんまり覚えてないんですよね。なんか真っ白い部屋にいて、そのまま何かされたような感じはあったんですけど……」

「それって神様がなんとかしてくれたとかってヤツですかね」


 相賀としては別の世界から来たとは口を避けても言えないのであった。

 それからはこの世界に来た時のことを、若干嘘を交えながら話す。


「それで、パーティでオオアカグマを狩ったんですよ」

「そうなんですか。それで、なんで今は一人なんですか?」

「あー、それは……」

「なんか訳アリな感じですか?」

「まぁ、確かに訳アリではあるんですけど……」

「言ってみてくださいよー」

「……言っても引かないって言い切れます?」

「もちろんです」

「罵倒とかしません?」

「しませんってば」

「……分かりました。話しますよ」


 そういって、相賀はつい先日あったことを話す。


「……そういう具合で、今は一人なんです」

「そうだったんですか……」

「正直引きましたよね?」

「うーん。でも、マサヤさんは身に覚えがないんですよね?」

「はい。でも記憶にないだけで、実際にやってしまったかもしれませんけど……」

「いえ、マサヤさんはやってませんよ。私が保証します」

「どうしてそう言い切れるんですか?」

「私の大学の同期に、心理学を研究している女の子がいるんです。その子によれば、睡眠時や酩酊時の精神状態は日頃の自身の考えに強く依存していると言われているんです」

「それが、僕となんの関係が?」

「マサヤさんは私と一緒にいても、何かするようなことは見られませんでした。それどころか、見ず知らずの私と一緒に、あの洞窟に入りましたし。根が悪い人だったらそうはいかないでしょう?つまりそういうことです」

「……そうですか」


 ルナがどのように考えていても、今の相賀に味方ができるのは、精神的にも助かることだ。

 こうして二人は冒険者ギルドがある街へと向かっていくのであった。

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