第23話 不名誉

 相賀は意味もなく町を徘徊していた。

 それは、単純に行く場所がないのと、ローランに言われた一言が衝撃的だったからだ。


「僕が、強姦……」


 もし、これが本当のことなら、相賀は罪に問われることになる。

 この世界の刑法がどのようになっているのかは相賀は分からない。

 そのため、司法で裁かれるようなことがあり得るのかも検討が付かないのだ。

 だが、相賀はなんとなく、取り返しのつかないようなことを仕出かした気分になってしまう。


「でも、ローランたちはお金を渡すことで黙ってくれるみたいだし……」


 そういうことをローランは直接言ってはいないものの、相賀の金はいわゆる示談金のようなものだろうと考えた。

 そして、最後のパーティ脱退。

 ローランたちのパーティに加入して、たった数日で抜けることになる。

 相賀にとって、これ以上の痛手はない。


「これからどうしよう……」


 完全に行く当てを失った相賀。

 持っているものは、元の世界からあったものと、現在装備しているもの、そしてローランから貰った身体強化のアクセサリーのみである。

 その時、相賀の腹の虫がなる。

 無一文になってしまった相賀。

 それはすなわち、これから生活していく上で、何も出来ないことを意味していた。

 その時だった。


「お困りのようだねぇ」


 どこからともなく、聞いたことのあるような声が響く。

 相賀は、その声の主を探すべく、周囲を見渡す。


「そんなに探しても見つからないよ」

「あなたは一体誰なんです?」


 相賀は周辺を見渡しながら、その姿を探す。


「だから言ったのに。身近にいるヤツが裏切るよって」

「あなた……この間の占い師?」

「そうだよ。あんた、今困っているね?」

「そんなの分かり切ってるじゃないですか」

「そうだろうねぇ。そんなあんたに、プレゼントだよ」


 そういって、相賀の後ろを何かが通り過ぎた。

 その瞬間、相賀は右手に何か違和感を感じる。

 右手を開いてみると、そこには銀貨10枚があった。


「面白いものを見せてもらったお礼だよ、この世界の外から来た者よ」


 そういって、高らかな笑い声が響き、そのまま消え去った。

 相賀はその奇怪な現象に、若干背中が凍り付く。

 しばらくその場で立ちすくんでいたが、周囲の人間からの異様な目が降り注いでいた。

 相賀はその場からそそくさと離れる。

 手元に握られた10枚の銀貨を見ながら、あの占い師が何者なのか考える。

 しかし、何度考えても分からないというのが答えだった。

 そのうち相賀は、あの占い師について考えるのを止める。こんなことを考えても今の状況が好転するわけでもないからだ。

 とにかくこの銀貨があれば、何とか冒険者ギルドがある街までは戻れる。

 相賀は街に戻る準備を進めるために、街の中を走り回った。

 こうして日が傾く頃には、すべての準備が整う。

 相賀はそのまま町を出た。

 このまま徒歩で向かうためだ。


「行きの時に見た時は、そのまま一本道で来ていた。だから、道なりに進めば、そのうち街に着くはずだ」


 相賀はそう考えたのだ。

 とにかく早歩きで街に向かう。

 日は傾き、西日が強く照りつけてくる。

 それでもなお、相賀は歩むのを止めなかった。

 日か地平線の向こうに沈んだ時に、ようやく相賀は歩むのを止める。

 この先は松明か月明りがないと真っ暗で危険だからだ。

 幸いにして、月は出てきている。明かりは確保しなくても問題はないようだ。

 こうして休憩ついでに目が慣れた時に、相賀は再び歩き出す。

 そして、翌日の朝ごろに冒険者ギルドのある街に戻ってきたのだ。

 そのまま直接、冒険者ギルドへと向かう。

 若干道に迷ったものの、無事に冒険者ギルドへと到着した。

 冒険者ギルドに入ると、中にいた他の冒険者の視線が相賀に降り注ぐ。

 相賀は不思議に思いながらも、そのまま奥の方へと入っていく。

 すると、一人の冒険者が相賀の元に寄ってきた。


「よう。気分はどうだ?」

「……なんの話です?」


 相賀はさっぱり分からなかった。

 その反応を見たその冒険者は大笑いする。


「そうかそうか。そりゃそういう反応もするよな」


 それを遠巻きに見ていた冒険者グループも一緒になって笑っていた。


「それ以上は失礼だぞ」

「そうだそうだ」


 明らかに相賀のことを馬鹿にしているような感じである。


「いいだろー。挨拶は大事なんだからさ」


 そんなことをそのグループと話している。

 そしてその冒険者は、去り際にこんなことを吐いた。


「じゃ、頑張って生きろよ、強姦魔君」


 その言葉で相賀はすべてを察した。

 誰かが相賀のことを話したのだ。

 それが誰だか分からないが、相賀の間違った悪名が冒険者ギルド中に響き渡ったことは間違いないことだろう。


「なんてこった……」


 相賀は思わず言葉をこぼしてしまう。

 これから相賀は、自分に着いた不名誉な名前と共に生きていくしかないのだった。

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