第22話 禁断の夜

 それから数時間後、峠にはオオアカグマの親はもちろん、子供までもが死体として横たわっていた。

 オオアカグマは害獣として認定されているため、子供といえども処分しなければならない。

 そのため、オオアカグマの親を使って、子供をおびき出し、処分することになったのだ。


「いくら害獣とはいえ、子供を手にかけるのはちょっと気が引けるな……」


 そんなことを相賀はつぶやく。


「どうしてだい?害獣は人間に害をなすから害獣なんだ。それを処分するのも、俺たち冒険者の仕事のうちだ」

「それは分かってるけど」


 そんな相賀は、子供の首を掻っ切られるところを眺めているほか出来なかった。

 しばらくして、連絡していた門番が現場に到着した。

 門番は横たわっているオオアカグマの親子を見て、状況を確認する。


「確かにオオアカグマの親子だな。これが依頼の内容であることは明らかだろう。死体はこっちで処分する。これを持っていくがいい」


 そういって、門番は何かを書き記した紙を渡してくる。

 相賀が横目で見てみると、依頼内容のものであることを証明するためのものらしいことが分かった。


「ありがとうございます」

「さぁ、早く戻ったほうがいい。そろそろ日が暮れてくることだろう」

「そうさせてもらいます」


 そういってローラン一行は町へと戻った。

 町に入った一行は、早速商業ギルドへと向かう。

 そこで待っていた依頼主に証明書を渡す。


「……うん、確かに確認したよ。よくやったね」


 そういって、依頼が完了したことを示す欄に判子を押す。

 これを冒険者ギルドに持っていけば依頼完了である。


「これ、少ないけど討伐達成のチップね」


 そういって、銀貨4枚を渡してくる。

 一人頭銀貨1枚だ。

 銀貨1枚もあれば一日暇を潰せる程の高さだ。


「ありがたく受け取っておくぜ」

「こんなに貰ってもいいんですか?」

「いいよ。これからの交易を考えたらまだ安いほうさ」

「ありがとうございます」


 そういって、一人一枚ずつ銀貨を貰う。

 こうしてこの日は宿に戻った。

 そのまま冒険者ギルドがある街に戻るかと相賀は聞くが、その前にやることがあるとローランは言う。


「今日の依頼達成の祝賀パーティだ」


 そういって、近くの酒場に連れていかれる。

 そこで、いろいろな料理を頼み、そして飲み物も運ばれてくる。


「今日はお疲れ様。依頼も達成できたことだし、パーッとやっちゃおう」

「カンパーイ」


 そうして相賀は飲み物を飲もうとした。

 その時、相賀はあることに気が付く。


「これ、お酒じゃない?」

「そうだが、何か問題でもあるか?」


 そう、ガイバーが言う。


「そんな、僕まだ16だよ?」

「16なんて成人だろ?何言ってるんだ?」


 残念ながら、この世界と元いた世界では常識が異なるようだ。

 成人したら飲酒ができるのはこの世界でも共通のようである。

 しかし、未成年なのに飲酒するということに強い抵抗感を感じた。

 だが、ここで飲まないのも何か疑われる。

 相賀は思いっきり飲むことにした。

 グイッと酒を思いっきり流し込む。

 その時、グラッと頭が揺れるような感覚が襲う。

 これが酒の威力なのかと、相賀は思う。


「よし、良い飲みっぷりだ。どんどん飲んでいけ」


 そういって、ガイバーは酒を飲むように勧めてくる。

 相賀はそれを断ることも出来ずに、飲むことを止められない。

 元の世界で言うならば、アルハラに当たるだろうが、この世界では関係ないだろう。

 こうして飲み続けること1時間。

 相賀はだいぶ出来上がっていた。

 体の軸はブレており、呂律は回らなくなってきている。


「大丈夫か、相賀?」

「らいじょうぶじゃないお」

「とりあえず水飲んどけ、な?」


 そういって、相賀に水が渡される。

 相賀はそれを言われるがままに飲んだ。

 その瞬間、猛烈な眠気が襲ってくる。

 そして、相賀は深い眠りへとついた。

 しばらくして、相賀は体に何か打ち付けられるような感覚を覚える。

 相賀は目を覚ましてみると、なぜか上半身は裸になっていたのだ。

 そして周囲を見渡してみると、そこには鬼の形相をしたガイバーが立っていた。


「な、何?」

「何じゃねぇよてめぇ!なんてことしてくれたんだ!」

「何?なんの話かさっぱり分からないよ」

「ガイバー落ち着け。相賀の話を聞いてやらないと分からないだろ」


 そういってローランが制止するように言う。

 しかしそのローランも、相賀に対して強烈な憎しみのようなものを向ける。


「な、何なんだよ……」

「相賀、君は昨日何をした?」

「何って、みんなとオオアカグマを討伐して、酒場で飲んで、そして……」

「そして?」

「分からない。そこから記憶がない……」

「おい!もう確定でいいだろ!こんな茶番やってられっか!」

「茶番かどうかは置いといて、話を進めよう。マサヤ、君は昨日とんでもないことをやらかした」


 ローランはギラリと相賀のことを見る。


「なんだよ、そんな怖い顔して……」

「単刀直入に言おう、マサヤ。君は昨日、キャロルのことを強姦、そして金品を盗んだ疑いがかかっている」

「……はぁ!?」


 相賀はとんでもない疑いをかけられた。


「ここにはいないが、キャロル自身がそう言っているんだ。他に証拠でもあるのかい?」

「証拠も何も、僕は昨日酒場で眠って……!」

「そして強姦した。こっちには証言もある。言い逃れは出来ないよ」

「ぐ……」


 相賀としては、彼らの言葉にまったく身に覚えがない。

 そしてこういった場合、例え相賀が無実だったとしても、完全に不利である。

 相賀がこの後どうするか逡巡していると、ローランが提案してきた。


「それじゃあこうしよう。このことは内密にしよう。だから、今持っている金品はすべて置いて行ってくれないか?それと、マサヤ。パーティを抜けてくれ」

「そんな……」


 相賀にとっては最終通謀のようなものであった。しかし、それに従うほか道はない。


「……分かった。その提案を受け入れよう」

「そうか、受け入れてくれるか。それならお金だけでいい。ここに置いて出て行ってくれ」


 そう言われて、相賀は金の入った袋を置いていく。

 そのまま、相賀は宿を出た。

 相賀は無一文となってしまった。

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