第20話 依頼を受ける

 早速パーティ加入の手続きをし、相賀はローランたちのパーティに入ることになった。


「それじゃあ、早速この依頼を受けに行こう」


 そういったのは、さっき相賀が受けようとしていた依頼である。

 改めて依頼内容を確認してみると、オオアカグマという害獣が出没しているようで、それを討伐してくるというものだ。


「オオアカグマか。ランク自体は低いけど、この時期は発情期になってるはずだ。凶暴性が高いから要注意で行こう」

「分かってるぜ。いつも通り、このディザストハンマーで一撃だ」

「私はいつも通り、後ろからみんなの援護をしてればいいんだよね」

「マサヤはどうするんだ?」

「どうなんだろ、まだ実戦に出たことないから分からないや」

「そうだな……。見たところ、マサヤは身体強化系の装備をしているから、俺と一緒に前に出た方がよさそうだ」

「確かにそうかもしれないな」

「よし、それで行こう。後は実戦で経験を積んでいくほかないよ」

「分かった」


 こうして、ローランのパーティはオオアカグマを討伐するために、隣町へと繰り出すのだった。

 移動には、ローランたちが持っている馬車を使う。

 そのまま、隣町へと向かった。

 隣町は、冒険者ギルドのある街よりも小さめであったが、それでもかなり発達した町であることには変わりない。

 その町にある商会ギルドの依頼である。


「よく来てくれたね。僕が依頼主だよ」

「初めまして、パーティリーダーのローランです」

「早速で悪いんだけど、すぐに討伐に向かってくれないかな?向こうさんは自分の居場所だって思って居座ってるんだろうけど、こっちは迷惑してるからさ」

「わかりました。場所はどこです?」

「ここから西の門を出て、少し行った峠の途中だよ。そこに横道に行ける獣道があるんだけど、その先でオオアカグマが出没しているとのことだよ。特に今の時期なんかオオアカグマの発情期だから、特に気を付けないといけない時なんだよね」

「なるほど、分かりました。ひとまず偵察に向かい、そのあと討伐の作戦を練ります」

「よろしく頼むよ」


 そういって、ローランたちは目的地へと向かう。

 町の西門では門番が立っており、これ以上行くのを阻止しているようだった。


「こら、君たち。こっから先は通行禁止だよ」

「俺たちは冒険者です。依頼によって、今からオオアカグマの討伐に向かうんです」


 そういってローランは依頼の紙を渡す。

 門番はそれを受け取り、内容を確認する。


「……確かに冒険者ギルドの判子だ。商会ギルドの印も押してある。引き留めて申し訳なかった。十分に気を付けてくれ」


 そういって門番はそこを通してくれるようだった。


「ありがとうございます」


 ローランは挨拶をして、門をくぐる。

 相賀もそれに続いて進む。

 そのまま道なりを進んでいく。

 すると、どうやら山々になっているようだ。その間を縫うように道が通っている。

 そのまま山に入っていく。

 特にうっそうとしているようではなく、ところどころから木漏れ日が降り注いでいた。

 その道中、横道に入るように獣道が出来ている所を見つける。


「これが問題の場所かしら?」

「かもな」

「ここからは要注意して進もう」


 ローランを先頭に、順番に獣道に入っていく。

 幅は人一人通れるか分からないくらいの場所であった。

 そんな狭い道を、草木をかき分けながら進んでいく。

 進むこと数分、ローランが止まるように指示する。

 そしてローランが静かに指を差す。

 そこには、巨大な黒い影があった。

 相賀はそれに注目して見ると、赤い体毛に覆われた熊のように見える。

 相賀は、それが今回の目標であるオオアカグマであることを理解した。

 ローランはひとしきりオオアカグマに関して観察すると、そのまま撤退するように指示を出す。

 一行は、そのまま峠の通りまで下がることにした。

 通りまで出た一行は、その場で作戦会議を開く。


「見たところ、あれはメスだな。子供を連れていた」

「子供はいいとして、親をどうするかだな」

「見た感じ結構大きめだったよ」

「人間よりも大きそうだったな」

「あんな草木で覆われているようなところでは戦闘は難しいだろう」

「ここまでおびき出す?」

「そうだな……。少し周辺の土地を確認しておきたい」


 そういって、その日は周辺を見て周る。

 そのまま日が暮れた。

 ひとまず町に引き返し、宿を取る。

 そのまま本格的な作戦会議となった。


「あの出没ポイントの周りを見て思ったのは、戦えそうな場所がないってことだな」

「それなら俺のディザストハンマーで一撃だぜ」

「ガイバーったらいつもそれじゃん」

「それじゃあこっちが不利だ。とにかく広い所におびき出せば、キャロルの魔法も使える」

「僕は何をしたらいい?」

「そうだな。マサヤはおびき出しをしてもらうか」

「でも結構危険じゃない?」

「大丈夫だ。そのために、これを渡しておくよ」


 そういって渡して来たものは、装飾された赤い石であった。


「これを身に着けていると、一時的に身体能力を底上げしてくれるやつさ。オオアカグマをひきつけている時はこれを使うといいよ」

「分かった。ありがとう」


 相賀はそれを道具入れに入れる。


「さて、こんな所か。明日はうまくやろう」


 こうしてこの後は自由時間になった。

 相賀はすることもないため、町を散策することにした。


「そういえば、魔石を買わなくちゃな。道具屋に行けばあるかな?」


 そんな感じで相賀は町を歩く。

 すると、どこからともなく声が聞こえてくる。


「お前さん、この世の者ではないだろ?」


 相賀は思わず振り返る。

 するとそこにはなんとも怪しげな小さい建物が建っていた。

 その中から声が聞こえてきたのだ。

 相賀は恐る恐る中に入ってみる。

 すると、中は狭く、ところ狭しと得体のしれない何かが大量に詰まっていた。

 そんな小さな建物の中央には、全身黒づくめの人間が座っている。


「さぁ、そんなところにいないでここにお座り」

「はぁ」


 相賀は素直に座る。


「お前さん、探し物があるな?」

「えぇ、まぁ」

「それはおそらくこの町にある」

「はぁ」


 これはバーナム効果を狙ったものかと、相賀は考える。


「お前さん、魔石を探しているなら、ここを出て左に行くといい」

「なんで魔石を探していると考えたんですか?」

「それは、この水晶玉が教えてくれるのさ」


 内容は当たっているものの、相賀はまだ疑っている。


「それにお前さん、少し騙されているようだ」

「騙されている?誰に?」

「今最も身近にいるものさ。そのうち裏切るよ」

「……そうですか」

「騙されないためには、差し出されたものを飲まないことだ」

「もういいですか?僕、そろそろ行かないと」

「おっと、その前にお代をいただかないとな」

「……いくらです?」

「銀貨10枚さ」

「はぁ……。はい10枚」

「おや、高いとは思わなかったのかね?」

「……あっ!」

「まいどありぃ」


 相賀は、してやられたと思った。

 この世界での銀貨はかなり高額であるからだ。


「ほれ、もう帰った帰った」


 そういって黒づくめの人間は去るように促す。

 相賀はくやしくなりながら、その場をあとにした。

 そして建物を出ようとした時に声をかけられる。


「また後でな」


 相賀はそれを無視して建物を出た。

 そしておもむろに振り返ると、そこには建物はなく、更地があるのみだった。

 相賀は思わず思考停止してしまうが、とにかく今は目的を果たそうと考える。

 そのまま道具屋に向けて歩き出した。

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