第18話 冒険者ギルド

 相賀は男性に連れられて、街に入る。

 街に入る時に、門番に何かパスポートのようなものを提示した。

 一瞬、相賀のことをギラリと見つめてくるが、問題はないようで、すんなりと入ることに成功する。

 そのまま、男性は相賀をある建物まで連れていった。


「ここが冒険者ギルドだ。今からここの裏口から入って、お前さんを冒険者にしてやるよ」

「ありがとうございます。えっと、お名前は……」

「バートンだ。この街で商人をやっている。お前さん、名前は分かっているのか?」

「名前は、相賀雅哉です」

「マサヤか。もしものことがあれば、俺の店に来い。これがその店だ」


 そういってバートンは、名刺のようなものを差し出す。

 名刺には何が書いてあるか分からなかったが、次の瞬間には読めるようになっていた。

 そこにはバートン商会と書いてあり、住所のようなものも書かれている。

 それを見た相賀は、ほんの数秒のうちにあることを考えた。


「すみません、字も忘れてるみたいで、自分の名前とか教えてもらえませんか?」

「そうか、文字も忘れているのか。しょうがない、教えてやろう」


 そういって、バートンは紙とペンを取り出す。

 そして、少しの時間の間、字を教わったのだった。

 正直読むのは問題ないが、書くのだけはなんともならない可能性がある。

 そのため、相賀は文字を教えてもらうことにしたのだ。

 どうにか、自分の名前だけはゲットした。


「後はいろんなものを読んだり書いたりする必要があるな」

「分かりました」

「よし、それじゃあ行くか」


 そういってバートンは相賀を連れて、裏口から冒険者ギルドに入っていく。

 そこには、裏方業務に従事している職員の姿があった。

 そして、その一人がバートンに気が付く。


「バートン様、今日は何用で?」

「いや何。今日は急用で来たんだ」

「急用ですか?」

「そうだ。こちらにいるマサヤを冒険者にしてやってほしいんだ」

「それなら表側に回っていただいたほうが早いですけど」

「それがな、記憶がなくなっているようでな」

「記憶が、ですか?」

「そうだ。だからこっちでやってもらいたいんだ」

「そのようなことでしたら、手続きをしましょう。どうぞこちらへ」


 そういって、相賀は職員に案内され、ソファに座る。


「それでは、これから手続きを始めさせていただきます」


 そういって職員は、水晶玉のようなものを取り出す。


「これは?」

「これはマサヤ様の潜在的な魔力を測るための装置になります。これに触れていただければ、簡単にマサヤ様の魔力量や属性などを測ることができます」

「なるほど」

「では、触れてください」


 相賀はそう勧められ、恐る恐る人差し指を伸ばす。

 そして人差し指が水晶玉に触れる。

 その瞬間、何も起きなかった。


「……あれ?」


 職員は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「どうして動いてないんだ?」


 職員は相賀に手をどかすように指示し、自分の手を乗せる。

 すると、水晶玉は少し大き目の水色の炎のような揺らめきを起こした。


「おかしいな、作動しているはずなんだけど……」


 その一連の流れを見ていた別の職員が口をはさむ。


「彼、無属性なのかもね」


 その声の主は、いかにもベテランの風格を出している年を取った男性であった。


「無属性?」

「たまにいるんだよ、魔法を使えないヤツ。多分、彼も魔法が使えないんだろうね」


 そういって、どこかへ行ってしまう。


「魔法が使えない……?」


 相賀はその言葉が引っかかる。

 その言葉が正しいなら、相賀は先天的に魔法が使えない体というわけだろう。


「ま、まぁ、魔法が使えなくても、それに類する道具は揃ってますし、問題はないと思いますよ」

「はぁ」

「とにかく、我々としましては、マサヤ様を拒むことは出来ませんので、このままギルドの方に登録しますね」

「はい」


 こうしてとんとん拍子で登録作業は進んでいく。

 無事に自分の名前も書き、こうして相賀は冒険者ギルドに登録することが出来たのだ。


「それでは、ギルドカードを発行しますので、少々お待ちください」


 そういって、職員は奥の方へと消えていく。

 その様子を見ていた、先ほどのベテラン職員が寄ってきた。


「あんた、本当に記憶がないのかい?」

「え、えぇ、まぁ」

「そうか。それだったら難儀だねぇ」

「どういうことですか?」

「記憶がない状態で冒険者になるなんて、過去によっぽどのことがない限りしない方法だよ。しかもバートン商会の会長みたいな太い人間が頼み込んでくるなんて、あんた、国王を暗殺した位のことでもしたんじゃないのか?」

「そんな、僕はそんなことをした覚えはありません」

「まぁいいさ。ワシは詮索はしない主義だからな。今回のことはちょっとした豆知識だと思ってくれてもいいさ。あんまり人前で記憶がないなんて言うんじゃないぞ」


 そういって、ベテラン職員はどこかへ行ってしまう。

 その直後、先ほど対応してた職員が戻ってくる。


「こちらがギルドカードです。冒険者ギルドで様々なサービスなどを受ける際に必要になりますので、管理には気を付けてください。再発行はいたしますが、時間がかかることをお忘れなく」

「分かりました」

「では本日は以上になります。マサヤ様のご活躍を願っています」


 そういって、相賀とバートンは一旦冒険者ギルドを後にする。


「さて、この後の予定はあるかね?」

「いえ、何も考えてないです」

「では、装備を整えに行こうではないか。丸腰ではなにも出来ないからな」

「しかし、僕にはお金も何もないんですけど……」

「何、俺の店ではそういったものも扱っている。ツケといてやるよ」


 そういって、二人は再び馬車に乗った。

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