第16話 狩り

 ルインの後をついていく相賀。

 ルインはマンモスに見つからないように、姿勢を低くしながらどんどん移動する。

 相賀はそれについていくので精一杯だ。

 そのまましばらくマンモスと並走していく。

 マンモスは時折、道中にある木の葉を食べていた。

 ルインはその隙を伺って、全力でダッシュする。


(はっや……)


 相賀が全速力で駆けても、追いつかないほどルインは速い。

 特段相賀が運動不足というわけでもなかったのだが、それでも差は少しずつ広がっていく感じである。

 ルインは全力で駆けた後、倒れるようにしゃがみ込む。

 そして周囲の警戒をしている感じだ。

 相賀も遅れてルインに追いつく。


「お前、足遅いな。本当にどうやって生きてたんだ?」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「まぁ、いい。マンモスとは距離が離れた。ここからは駆け足で仲間の元に行くぞ」

「え、まだ走るの?」


 相賀の疑問もむなしく、ルインは駆けていく。

 相賀は仕方なく、へとへとになりながらもルインの後を追いかけていく。

 しばらく走っていった所で、ルインは立ち止まる。

 そこは丘の上で、遠くまで見渡すことができた。

 その丘を越えた少し向こうに、先ほど別れた村の人々がいた。

 ルインは身振り手振りで、マンモスの居場所に関して連絡を取っているようだ。

 相手も、それに合わせて返事をしているようだ。

 そして会話が終わったのか、ルインは相賀の方を向く。


「今からマンモスのいる方に移動するぞ。それから何人かがこっちに来ると思うから、俺たちに合わせて動いてくれ」

「分かった」


 この時、相賀は正直な所、まだ走るのかと考えていた。

 さらに走ること10分。

 ほかの村人とも合流し、マンモスを取り囲むように移動する。

 身をかがめ、静かにマンモスに忍び寄る。

 一方のマンモスは、のんびりと荒野を移動し続けているのみであった。

 視界の端の方で何かが動く。

 どうやら、向こう側にいる村人が槍を使って合図しているようだ。

 すると、こちらと向こう、両方向にいる村人が装備している投石器をブンブンと振り回している。

 そして雄たけびと共に投擲した。

 投擲された石は見事にマンモスに命中し、出血を負わせる。

 その直後、槍を持った村人が突撃し、今度は槍と投擲する。

 うまく投げられた槍は、まっすぐマンモスへと飛び、そのまま突き刺さる。

 何本かは刺さらずにはじかれてしまうが、それでも数本刺さっただけでマンモスは鳴き声をあげる。

 目標以外のマンモスは真っ先にその場から逃げ去る。

 目標にしているマンモスも一緒に逃げようとするが、それを村人によって妨害された。

 村人たちは目標のマンモスに近づくと、その足を槍で突き刺す。

 その痛みなのか、マンモスはより一層大きな鳴き声をあげた。

 離れたところからは、石による投擲、近場からは槍による攻撃。

 その圧倒的な火力を前に、マンモスは次第に弱っていく。

 そしてマンモスは動くことをやめ、その場で止まってしまう。

 その機を逃すまいと、村人たちはさらに士気を高めてマンモスに突撃する。

 主に槍を手にして、串刺しという言葉が似合う程に突き刺す。

 だんだんとマンモスは出血多量で、その動きが鈍くなっていく。

 そしてマンモスは、足元を崩して倒れこむ。

 その瞬間、村人たちは雄たけびをあげる。

 狩りに成功したからだ。

 とある村人がマンモスにとどめを刺して、マンモスは完全に息を止めた。


「俺たちの勝利だー!」


 誰かがマンモスの上に登り、雄たけびを上げる。

 それに呼応するように、あちこちから雄たけびが上がった。

 相賀は終盤のちょっとした時に槍を突くのをやっただけであって、あまり雄たけびを上げる気にはなれなかった。

 その後、日が暮れる頃までマンモスの解体作業が行われていた。

 村からも女性たちがやってきて、運搬作業に追われる。

 相賀もここで力になろうと、手伝いをした。

 こうしてマンモスの大方の解体が終わったところで、今度は夜を徹した作業に入る。

 このマンモスの肉を燻製にしたり、干したりすることで保存食にするのだ。

 これも相賀は作業の内容を聞きながら、必死になって手伝いをする。

 夜が明けそうな時間まで作業が続いた。

 作業が終わった後は、皆完全に疲れ切っており、寝てしまう。

 相賀も夜通し作業を続けていたせいか、疲れて寝てしまった。

 次に起きたのは、すでに日も傾いている午後の時間である。

 家屋から出ると、村人たちは昨日狩ったマンモスの肉の一部を使って、豪華な食事を作っていた。

 豪華な食事と言っても、肉を直火にさらした簡素な焼肉のようなものであったが、それでも以前食べた内容に比べれば豪華と言わざるを得ないだろう。

 相賀は焼肉を受け取ると、そのままガブりつく。

 あまり味はしなかったうえ、脂の部分が多かった印象ではあったものの、どことなくまともな食事をしたように思えた。

 そんな食事を堪能しているときである。

 どこからともなく悲鳴に似た声が聞こえてきた。

 そちらの方を向くと、人々が逃げているのが目に入る。


「テキラが来たぞー!」


 すると、そちらの方から大型の虎のような生物が姿を現した。

 村人たちがテキラと呼んだそれは、ゆっくりと歩み、村の中を物色するように移動する。

 村の男たちは槍を持って、テキラと敵対する。

 相賀はその場から動けず、テキラと目があってしまう。

 そして、テキラは相賀目掛けて突進してくる。

 相賀の目には、景色がゆっくりと動いているように見えた。

 そして、テキラが相賀に対して口を開いている所で、相賀の意識は途絶えた。

 次に相賀が気が付いた時には、女神の目の前であった。


「大丈夫?」


 そういった女神は机の上を片づけて、一人で焼肉を楽しんでいた。


「……何してるんですか?」

「一人焼肉。師匠も誘ったんだけど、タイミング悪かったみたい」

「そういうの聞いてるんじゃないんですけど」

「いいじゃない、何楽しんだって」

「まぁ、別にいいんですけど。……僕の最後ってどうなりました?」

「そうねぇ、あの大型四足哺乳類に頭を噛みちぎられて死亡らしいわ」

「それと、あの村は?」

「詳しくは書いてないんだけど、簡単に言えば壊滅したみたいね。残念だけど」

「そう、ですか」

「……一緒に焼肉する?」

「なんでそうなるんですか?……しますけど」


 彼らの次の転生は焼肉が終わってからになりそうだ。

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