第15話 偵察行動

 相賀はルインに連れられて、村の中を散策する。


「ここがおさの家だ。長の家族以外は入れないから注意しろ」

「なるほど」

「こっちがみんなの家だ。あそこにある家が俺の家だ。今日は俺の家に泊まっていけ」

「分かった」

「それから、あっちにある小屋はみんなの武器庫だ。危険だから近づかないほうがいい」

「了解」


 そんな感じで村の案内をされる。

 村の感じを見る限りでは、特に村を囲うようなものはなく、荒野にポツンと建物が10棟程度建っているような感じだ。

 こんな状態では無防備ではないかとも思ったが、周辺に害を与える存在がないのなら、これもありなのではと相賀は思う。

 そのまま日が暮れて、相賀はルインの家に入る。


「ただいま」

「おかえり。おや、誰だいその人は?」

「途中で拾ってきたんだ。名前は……」

「相賀です」

「アィガ?」

「あ、い、が」

「アィガ」

「もうそれで良いです……」


 そんなやり取りをしているうちに完全に日が暮れてくる。


「もう日が暮れるよ。さっさと寝ちゃいなさい」

「え、もう寝るんですか?」

「そうよ、それ以外に何をするの?」

「あ、いや、それもそうですね……」


 相賀は、現代と古代の文明の違いに、ギャップというものを感じていた。

 この時代には、ベッドというものは存在しておらず、雑魚寝のような感じで寝る。

 相賀も仕方なく、その辺に横になる。

 日が暮れた直後に寝るというのも今まで経験がないものだから、なんとなく寝れずにいた。

 とにかく目をつむってみるものの、特に寝れるような感じではない。

 気が付けば、相賀以外の全員は寝息を立てて寝てしまっているようだ。

 とにかく、相賀は目をつむって、寝ることに集中する。

 古典的な方法だが、羊を数えることにした。


(羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……)


 そのうち、次第に意識は遠のいていく。

 相賀は夢を見た。

 それは女神のいるような真っ白な空間だ。

 そこに女神が現れる。

 そして何かを言ったように、口を動かす。

 しかし、その声は相賀には聞こえない。


『え、なんていったんですか?』


 相賀は聞き返すものの、女神はお構いなしに何かを言い続ける。

 そして、その姿がゆっくりと薄れていく。


『神様?待って!』


 そういった所で相賀は目を覚ます。

 入口からは日の光が差し込んでいた。


「やっと起きたか」


 その声の方向を見ると、そこにはルインがいた。


「なんだかやけにうなされていたようだったが、大丈夫か?」

「あぁ、うん。大丈夫」


 相賀は起き上がる。

 その時に、冷や汗をたっぷり掻いているのに気が付く。

 何がそんなに冷や汗を掻くようなことだったのだろうか。

 その疑問を解く前に、ルインが相賀のことを呼び出す。


「アィガ、そろそろ狩りの日だ。ついてくるか?」

「狩り?」

「あぁ、そろそろマンモスがこのあたりを通過するはずなんだ。それに合わせて村の男たち総出で狩るって話だ」

「けど、俺はそんな狩りなんて経験ないぞ」

「狩りをやったことないのか?今までどうしてたんだ?」

「あー……。野草とか果物を取って生活してたんだ」

「……まぁ、いい。とりあえず、アィガは俺と一緒に来ればいい。そんなに危険な作業はさせないさ」


 そういってルインは家屋から出る。

 相賀はそれを追いかけるように家を出た。

 村の様子は活気に満ちており、マンモス狩りの重要性を感じさせる。

 ルインの後を追いかけると、昨日案内した小屋の方に行く。

 その小屋では、村人が各々の武器を持っていた。

 それは、簡素な木の棒で出来た槍であったり、木の皮を結って出来た投石器であったり、様々である。

 それらがマンモスに効くとは思わないが、とにかくそれらを持って行くようだ。

 ルインも自分の武器を取りに行く。

 そんなルインは2本分の槍を持ってきた。


「ほら、護衛用だ。振り回すことぐらいはできるだろう」

「あ、うん」


 相賀は、槍を受け取る。

 しかし、実際に槍を受け取ったところで、どのようにしたらいいのか分からない。


(とりあえず振り回せばいいのかな?)


 そんなことを考えつつ、相賀はルインの後をついていく。

 次第に村の男たちが合流し、どこかへと向かっている。

 その中にいる異端の相賀は、身の狭くなるような思いをしていた。

 すると、途中でルアンが集団から抜ける。

 相賀はわけも分からず、ルインの後をついていく。

 しばらく歩いた後、ルアンは身をかがめた。


「アィガ、しゃがめ」


 簡潔な命令に、相賀は素直に従う。

 ルインはしゃがんだまま、ゆっくりと移動していく。

 その先には、巨大な何かがゆっくりと動いていた。


「あれは……」

「今日の獲物だ」


 ルインが冷静になって言う。

 ルインはマンモスと言ったが、相賀が想像したそれとは異なる。

 巨大な四つ足歩行には間違いないのだが、ブヨブヨしていそうな粘着質の皮膚。どこか虚ろな目をして呆けているような顔。なんの役割を持っているのか分からないような、背中に生えた帆のようなもの。

 相賀が想像していたマンモスとはかけ離れたその姿に、相賀の精神はすり減った。


「うえ、気持ち悪……」

「なんだ?アィガはマンモス見たことないのか?」

「いや、その……。うん、そうだね」


 相賀は説明するのが面倒になり、ルインの提案を受け入れる。


「とにかく、今回の目標を確認したからみんなに知らせてこよう」


 そういってルインは移動する。

 相賀はそれを追いかけることしか出来なかった。

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