第14話 入村

 相賀と謎の青年は相対するようになったまま、その場で固まる。

 相賀はこのあとの行動をどうするか、思考していた。


(この状態逃げ出すのはまずい……)


 姿勢からしても、座り込んでいる相賀の方が不利だ。


(このままジッとしているのが得策か……?)


 しかし、これも得策とは言い難い。

 相手の恰好を見る限り、狩猟を中心とする新人のようにも見える。

 気性が荒い場合、この場で殺される可能性も否定できない。

 とにかく、ここは穏便に対話で行くしかない。

 実際に対話できるのか分からないけど、他に方法がないだろう。


「あ、あのー……」

「!……お前、俺たちの言葉が分かるのか?」

「そうですね」

「お前、なんでこんな所にいた?」

「それはちょっと……」

「……ふん、まぁいい。俺たちの邪魔をしなければいい」


 そういって青年は槍を降ろし、その場を去る。


「あ、ちょっと待って」

「なんだ、何か用か?」

「いや、僕行く場所がなくて……」

「……怪しいな、何か企んでないか?」

「いやいや、何も企んでないよ」

「そうか……。別についてくるのは構わないが、村のみんながなんていうか分からないぞ」


 そういって、青年はその場を後にする。

 相賀は言葉の意味を理解する前に、青年のことを追いかけるのだった。

 二人は何もない荒野を、ただひたすらに歩く。


「あ、あの」

「なんだ?」

「名前、教えてもらってもいいかな?」

「……ルインだ」

「ルイン、今どこに向かっているの?」

「村だ。見回りを終えて帰るところだからな」

「その村って、結構野蛮だったりする?」

「?言ってる意味は分からんが、例外を除いて良い奴が多いぞ」

「例外?」

「村の番人、ドーデだ。あいつは気難しい性格をしてる」

「それって……」

「あいつはお前みたいな変なヤツは村に入れないようにしている」

「そうなのか……」

「なんだ?村に入りたいのか?」

「いや!そういうわけじゃないんだけど……」

「どこかに行く予定なのか?」

「どこにも行く予定はないんだよね……」

「結局どうしたいんだ?」

「えーと……。村に入れてください」

「そういうことなら早く言え。だが、そうだな……」


 ルインは少し考える素振りを見せる。


「とりあえず、お前は無害そうだから問題はないかもしれないが、ドーデがなんていうかだな」

「そんなに怖い人なの?」

「怖い、というより凶悪に近いな。まぁ、そのおかげでうちの村は他の村から攻撃されたりはしないんだがな」


 そういってルインはさっさと歩いていく。

 相賀はそれを必死に追いかけながら、あることを考えていた。

 それは、番人のドーデのことだ。

 ルインの話を聞く限りでは、かなり問題のある人物のようだ。

 そのため、彼をどうにかして説得しなければならない可能性がある。

 しかし、どう説得したらいいものか、まったく分からないのだ。

 これは実際に会ってみるほかないだろう。

 そうこうしているうちに、ルインの村が見えてきた。


「あれが俺の村だ」


 村と言っても、動物の皮のようなものでできた三角錐の建物が複数個点在している。

 ちょうどモンゴルの遊牧民が使うゲルのようなものだ。

 その居住家屋を中心に、人々がいろいろな作業をしているのが見てとれる。


「行くぞ」

「あ、待って」


 ルインが歩き出し、相賀はそれを追いかける。

 村に到着すると、そこには様々な人が自分の仕事をこなしていた。


「ルイン、お帰り。おや、見慣れない人だね?」

「途中で拾ってきた。行く当てがないらしいから、そのまま連れてきたんだ」

「こんにちは……」


 相手の女性は一瞬相賀のことをにらんだが、すぐに優しい顔に戻る。


「そうかい、それならゆっくりしていけばいいよ」


 そういって女性はどこかに行く。

 相賀は胸をなでおろすと、後ろから強い気配を感じる。

 相賀が振り返ると、そこには巨体があった。


「お前、誰だ?」


 身長2mはあろうかという巨体から、どすの効いた声が降りかかってくる。

 相賀は本能的に防衛的な行動を取ろうとした。

 しかし、それは恐怖の前に屈し、まるで体が硬直したような感じになる。


「ドーデ、こいつは俺が拾ってきたんだ。この村に害はなさないと判断した」

「いや、こいつはこの村に害をなす存在に違いない。今すぐ追い出すべきだ」


 ルインは、出会ったばかりの相賀を必死にかばう。

 それに対して、ドーデは相賀のことを敵対しているように見て取れる。

 その様子を見て、相賀はオロオロとするほかなかった。

 そんな押し問答をしていると、村の人間が次々と集まってくる。


「そんなに彼のことが信じられないのなら、占いで決めようではないか」

「構わない。その代わり、こいつが敵対する人間だったらすぐに叩き殺すからな」


 相賀の知らない所で話がまとまっていく。

 相賀は連れていかれるまま、とある家屋に入るように指示される。

 その中に入ると、まるで呪術師のような人物がそこにいた。


「そろそろ来るころだと思っていたよ」

「エルさん、彼がこの村に敵対する人間かどうか占ってくれ」

「分かったよ」


 エルと呼ばれた呪術師は、手に持っていたまっすぐな骨を持って、俺の方に向ける。

 そのまま力を込め、何かをつぶやく。

 その時、相賀の体の力が抜けるような感覚を覚える。

 相賀はどうすることも出来ずに、その場に膝をついた。

 その様子を見ていたエルは、つぶやくのを止める。


「彼は問題ないぞ。私が保証しよう」


 許された。

 その事実が相賀を安心させる。

 こうして、相賀は無事に村に入ることを許されたのだ。

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