第13話 新たな転生
相賀は次の転生に備え、英気を養うためにコーヒーを口にしていた。
その横で、女神は次の転生する世界を構築するために、シード値の設定をしていた。
「そういえば、思い出したことがあるんですけど」
「ん、なに?」
「さっきの世界で、サルたちの声が日本語に聞こえてきたんですけど、あれって何なんですか?」
「あぁ、あれ?あれねぇ、異世界に転生する人間に標準装備させてる加護よ」
「標準装備?」
「そう。言語相互理解能力っていうヤツ。それが作用したんじゃないの?」
「んな適当な……」
「でもサルの鳴き声に意味があるんだとしたら、その能力が作用してもおかしくはないでしょ?」
「まぁ理論的には間違ってないとは思うんですけど」
そんな話をしつつ、次の転生に備える。
「よし、今度も別の世界に転生させるわ」
「分かりました」
「それと、一つ変更点があるんだけど」
「何ですか?」
「少し前に、シード値の世界の構成を司っている文字列の話をしたと思うんだけど、そこの数値少しいじったわ」
「それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫なはずだわ。一応何度か確かめて、問題はないと思うから」
「本当ですかねぇ」
「何よ、疑ってるの?」
「そりゃあ今までのことを考えたら、ねぇ?」
「ぶっ飛ばすわよ」
「暴力はんたーい」
「まぁ、いいわ。次の転生行きましょ」
そういって女神はエンターキーを押す。
相賀の視界が暗転すると、なぜか女神が目の前にいた。
「……あれ?」
「……あら?」
二人は目を合わせ、何が起きたのかを把握しようとする。
そして女神はログを見て、何が起きたかを察した。
「あぁー……。なるほど?」
「何がなるほどなんですか」
「いえ、なんでもないわ」
「へぇ、それが神様のすることなんですか」
「うぐっ」
「そうやって都合の悪いことは隠すんですね、へぇ、そうですか」
「うぐぐっ」
「そうやって女神は信仰を集めるんですね、そうですか」
「もー、分かったわよ!言えばいいんでしょ!」
そういって女神は正直に白状した。
「さっき転生した世界の物理法則が相賀のいた世界の物理法則と違っていて、その物理法則に触れたあなたの体がほんの一瞬で崩壊したようね」
「……それって世界の構成をいじったせいですよね?」
「……はい」
女神は悔しそうにうなずく。
「やっぱりやらかしてるじゃないですか!」
「いや、確かに大丈夫だったはずなんだけどなぁ」
「ちょっと、目をそらさないでください」
「もー!いいじゃない、済んだことなんだし!」
女神は相賀から離れて、パソコンを手にする。
「もう一回シード値の構築し直すから、あっちいってて」
そういって女神は手を振り払うようなしぐさをする。
そして女神はもう一度シード値を設定するために、メモ帳と格闘しながら設定を行う。
ここで相賀は一つ疑問を投げかける。
「そういえば、さっき世界の構成を変えたって言いましたけど、何をどのように変えたんですか?」
「そうね、簡単に言ったらありきたりな異世界にするつもりだったのよ」
「ありきたり、ですか?」
「そ、あなたのいた世界じゃ、異世界ものが流行っていたでしょ?」
「確かにそうですが、だからって安易すぎませんか?」
「いいじゃない、あなたもそういうの好きでしょ?」
「嫌いではないですが……」
「ならいいじゃない。決定ね」
そういって女神はシード値の設定作業に戻る。
今度は慎重に設定すること数時間、無事に形になったようだ。
「これで問題はないはずよ」
「本当ですかぁ?」
「ほ、本当よ。大丈夫だから」
そういって、シード値を入力する。
「それじゃあ、準備はいい?」
「大丈夫です」
「それじゃあ行くわよ」
女神はパソコンのエンターキーを押す。
相賀の視界が暗転し、転生する。
若干の浮遊感のあと、地面に降り立つ感覚がする。
どうやら今度は問題ないようだ。
相賀は目を凝らして、周囲を見渡す。
どうやら荒野のようだ。
周辺一帯は地面がむき出しで、草があるようには見えない。
しかし遠くの方には、緑色をした地面が見える。
もしかすると、そっちのほうには草があるのかもしれない。
そして気温の方は少し肌寒い感じである。
この程度の気温なら問題はない。
相賀は早速、移動を開始する。
今回は荒野であり、周辺に食料になりそうなものは存在しない。
そのため、せめて林のある所に移動しようと考えたのだ。
「しかし、こんな見渡しのいい荒野だと、何かいてもすぐに分かりそうだな」
そんなことをつぶやく。
これは裏を返せば、自分も相手に対して見えているということになる。
現在の相賀は、かなり無防備な状態にある。
しかし、相賀はそんなことは微塵も思わず、気楽に荒野を移動する。
そんな中、相賀の前方にある岩から、何か物音のようなものが聞こえた。
「ん?」
相賀は身構える。
もしかすると、相賀のことを捕食できるような肉食動物がいるかもしれない。
その直後、何かが岩から飛び出してくる。
相賀はそれを見て驚愕する。
それは、動物の皮に身を包んだ青年であったからだ。
その手には、簡単な木の枝で作られた槍を持っていた。
その槍をこちらに向けていたのだ。
相賀は思わず身を捩る。
槍は相賀のいた場所で停止する。
相賀はそのまま尻もちをついてしまう。
その青年は、槍を相賀の方に向ける。
相賀は、緊張感のある空気を感じた。
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