第12話 サルの群れ
相賀はその後も、転々とするサルの群れを追いかけながら、食料を食いつないでいた。
時には、小さなどんぐりのような木の実も拾い集めて食べながら、必死に生きていた。
しかし、次第に外の様子は厳しくなっていき、雪も多くなってくる。
「そろそろ拠点を構えたほうがいいな」
現在、相賀はサルの群れを追いかけながら移動する旅人のような感じである。
そのため、現在の外の気温がこれ以上下がってしまうと、まともに行動することもままならなくなる。
しかし、今追いかけているサルの群れを見失うと、それ以上の食料の確保は断念せざるを得なくなる。
しかし幸いにも、サルの群れが通っていた場所はかろうじて覚えている。
もしものことがあれば、その場所に戻って食料の確保をするのも一つの手だろう。
「よし、拠点を構えるか」
そういって相賀は、サルの群れの追跡をやめる。
そのまま、森林の中をさまよって、拠点になりそうな場所を探す。
しかし、森林のある場所では、いい感じの拠点になりそうな場所はない。
「このままだと、寒い冬が来てしまうな」
実際寒い環境には変わりないが、これ以上寒くなってしまうと相賀の身に危険が及ぶ。
せめて火があれば、身の回りの環境としては変わっているのだろうが、残念ながら火を起こすスキルなど相賀にはない。
とにかく風や雪を凌げる場所さえ見つかれば、今のところ問題はないだろう。
相賀は、それに合った場所を探して、いつの間にか山の中を移動する。
山の斜面を登りつつ、いい感じの場所を探す。
そのまま数時間が経過する。
「全然見つからないな」
そんなことをしているうちに、日は暮れていく。
動き回っていたからか、体に熱を持っているため、今晩は凍えずに済みそうである。
しかし、あまり動き回ると今度は自分の居場所を見失い、最悪の事態になりかねないのだ。
幸いにして、水分補給は周辺の雪が担当してくれる。
相賀は完全に日が暮れる前に、雪を掘り返す。
そして地面が見えるところまで掘り返すと、そこに身を預ける。
これで、周辺からの風は防ぐことができる。
問題は雪自身の温度が相賀に降りかかるということぐらいだろう。
寝転がっている地面は雪をどかしているため、直接雪の影響は受けない。
しかし、周辺の寒さはなんともならない。
相賀は身を丸くし、体温を保とうと懸命に体を震わせる。
しかし夜の山と、雪の降る環境では、いくらなんでも限界がある。
「あぁ、寒い……?」
唇は紫色に変化し、指先の感覚はだんだんと鈍ってきた。
こうして、相賀は体の震えも忘れ、意識を手放す。
しばらくして、相賀は暖かさを覚えて目を覚ました。
周辺を見てみると、サルの群れが相賀を取り囲んでいる。
そしてサルの群れは、相賀を中心に猿団子が形成されていた。
相賀はサルの暖かさを存分に浴びる。
「暖かい……」
「オキタ」
「イキテル」
サルたちの声が聞こえてくる。
どうやら相賀は生き延びたようだ。
「なんで……、君たちがいるんだ?」
「キサマ、オナジニオイ」
「ホゴ」
「ナカマ?」
「オマエ、イキル」
サルたちの言葉を拾って解釈すると、相賀とは同じような感覚を抱いたため、サルの群れで保護するというものだ。
それを理解した相賀は、彼らに身を預けることにした。
それからしばらくはサルの群れと共に行動することになる。
サルの群れと一緒に寝食を共にしたため、相賀とサルの群れとの間にはちょっとした絆のようなものが築かれていた。
「ココ、ホル」
「ここ掘ればいいんだな?」
サルたちに出来ないことを相賀が担当し、その報酬として食べ物や寝る場所を提供してもらう。
このようなある種の不思議な関係を取っているのだった。
そんな生活をすること1ヶ月程度。
寒さは厳しさを増していき、相賀の着ている制服ではなんともならない状態になってきた。
「寒さも慣れてくれば問題はないけど、この服装じゃ大変だよなぁ」
そんなことを猿団子の中で考える。
確かに、ここら辺で寒さに対する防護を強化していく必要があるだろう。
しかし、まともに防寒できる道具など存在しない。
ここまで、鹿のような大型四足生物の類いを見ていないため、それらの生物に期待するのは些か筋違いともいうべき状況だろう。
今後、どのような対応をしていくべきだろうかと考えている所で、猿団子に異変が起きる。
突如として猿団子が解散し、サルたちは相賀から離れていく。
「あれ、どうした?」
急に寒さが相賀の体を通り抜ける。
「うぅ、寒」
相賀は、移動したサルたちの跡を追いかけようとする。
しかし、それは次の瞬間に止められた。
それは相賀の後ろから何かに殴られたからだ。
「がっ!」
相賀は殴られた勢いでそのまま地面に倒れこむ。
相賀の後頭部から暖かい何かが滴り落ちる。
滴り落ちた液体を確認すると、そこには真っ赤に染まった液体が垂れていた。
相賀は背後を振り返る。
そこには赤い液体の付いた石を持ったサルの姿があった。
相賀は理解する。
あの赤い液体は自分自身の血であり、そして目の前のサルに石を使って殴られたのだと。
「な、んで」
相賀は痛みを忘れて、そのサルに聞く。
「オマエ、キョウイ。イマ、コロス」
相賀の何が脅威なのか。動機は何なのか。
それがさっぱりせずに、そのサルは持っている石を振り上げる。
そのまま、相賀の前頭部に命中した。
「……はっ!」
相賀が次に気が付いた時には、女神の前であった。
「大丈夫?」
女神はそう問いかける。
「大、丈夫ですけど」
「まさか一緒に生活してたおサルさんに殺されるなんて、ツイてないわねぇ」
そういって、女神は机に座る。
「でもまぁ、貴重な体験はできたんじゃない?」
「そう、かもしれませんね」
そういって、相賀は頭を触る。
殴られた傷は存在しないが、生々しい痛みだけがそこに残っていた。
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