第11話 氷河期

 次の転生のために、女神はシード値の設定を行う。


「えぇと、さっき言われたことを投影図法で表すと……」


 女神は師匠から教わったことをメモに残しており、それに沿って丁寧に設定を施す。

 数十分の格闘の末、無事に設定を終えることができた。


「これで完成!ある程度予測ができるはずよ」

「へぇ、では僕が次に行く世界はどのような世界なんですか?」

「そうねぇ……。この感じだと、人類が登場する少し前って感じね」

「人間が登場する前」

「それに氷河期に片足突っ込んでる感じかしら」

「氷河期」

「……ま、人類だって氷河期の時代生きてたんだし、何とかなるでしょ」

「なんともならないでしょうよ、それ……」

「まぁいいわ。いってきなさーい!」


 そういって女神はエンターキーを押す。

 相賀の視界は暗転し、若干の浮遊感のあと地面に降り立つ。

 相賀の眼が慣れる前に、相賀の体に一陣の風が吹く。

 その風は冷たく、まるで冬の中にいるようだった。


「寒っ!何ここ?」


 相賀は周辺を見てみると、遠くの山が全体的に雪をかぶっている。

 周辺にも雪があり、寒冷地の様相を呈していた。


「上着とかないんだけど……」


 相賀の息はそこまで白くないため、気温のとしては10度程度だろう。

 しかしそれでも肌寒いことには変わりはない。

 相賀はこれまでのサバイバル知識から、寒冷に関する情報を引き出そうとする。

 しかし、まともに知っている知識がない相賀は、この状況を打破できる方法を知らない。


「くそ、とにかく寒さから逃げないと」


 そういって、相賀は寒さから逃れるため、相賀は近くの森林へと向かう。

 森林に入れば、何か寒さを凌げる落ち葉のような物があるのではないかと考えたからだ。

 しかし、周辺は雪に覆われている所が多く、特にこれといった防寒対策を施すことができない。

 相賀は仕方なく、森林の中を移動し続けることにした。

 針葉樹林の多い森では、まともな防寒装備を整えることは不可能に近い。

 しかし、相賀としては行動しないことには何も始まらないため、今は動き続ける他ないのだ。

 そんな森の中を進んでいくと、ある物に気が付く。


「足跡があるぞ」


 そう、相賀以外の足跡である。

 考えてみれば、これまでの転生ではまともに生物と会わなかった。

 しかしここに来て、まともな生物に出会う可能性があるということだ。

 相賀はその足跡をまじまじと見てみる。

 雪のせいで少々見づらい部分はあるものの、大まかに5本指があることが見て取れる。

 他の足跡も見てみると、同じように5本指であり、集団で移動していることが分かるだろう。

 この特徴的な5本指は、サルの特徴に似ている。

 特に、ニホンザルのような横幅の広い足跡だ。

 相賀はその足跡のあとを追ってみる。

 足跡は森林の奥の方へと向かっていた。

 相賀はそれに吸い込まれていくように、森林の奥へ入っていく。

 しばらく入っていくと、鬱蒼とした森に変化していた。

 まともに身を動かすこともできないような、木々に囲まれた場所に出る。

 相賀はふと上の方を見た。

 すると、そこにはサルのような見た目をした生物が木同士を移動しているのが見えた。


「ダレダ」

「アヤシイヤツ」

「ココカラサレ」


 そんな言葉が、サルの鳴き声とともに聞こえてくる。

 相賀はびっくりして、サルたちに話しかけた。


「君たちは一体何者なんだ?」

「アヤシイヤツ、デテイケ」

「サレ」


 残念ながら、対話にならない。

 相賀は仕方なく、その場を離れていく。

 彼らを刺激してしまえば、何をされるかわからないからだ。

 しかし、相賀にしてみれば、どこにも行くあてはない。

 そのため、相賀はさっきのサルの群れを遠目に観察することにした。

 もしかしたら、彼らの行く先に、食べ物が存在しているかもしれないからだ。

 相賀は周辺の木々に隠れながら、彼らの様子を観察する。

 しばらくして、群れは移動を始めた。

 相賀は足元を取られながら、サルの群れを追う。

 サルの群れはしばらく移動した所で止まる。

 そこには、わずかな木の実がなっているようだ。

 しかし、どれも木の高い部分になっており、相賀の手は届きそうにない。

 相賀は別の方法を考える。

 それは、サルの群れが食べ残して地面に落とした部分を拾って食べるというものだ。


「本当だったら、こんな方法は取りたくなかったけど、この際目をつむるほかないよな」


 相賀はそう自分に言い聞かせる。

 そのようなことを考えている間にも、サルの群れは皆木の実を食べているようだ。

 そして、地面に食べ残した木の実を落とす。

 相賀はすぐにでも飛びつきたい所だが、サルの群れが移動するまではじっくり待つことにした。

 そして数時間後、食事を終えたサルの群れがどこかに移動するのを確認すると、相賀はサルの群れが落とした木の実を取りに行く。

 木の実は小さく、落としたものは非常に見つけづらかったが、なんとか数個を確保した。

 とりあえず、これを食べておけば、数日はしのげるだろう。

 相賀は再び、サルの群れを追いかけるのだった。

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