第10話 秘密のコード
その後、何度か転生を繰り返すものの、最大でも1週間程度しか生存は出来なかった。
「結局、まともに生存できる環境が整った場所は皆無ですか……」
「ねぇ、それ私に言ってる?」
「さぁ?どうでしょうね」
そんなことを言いつつ、二人はコーヒーを飲み交わしていた。
「しっかし、どうしたものかねぇ。ここに来て手詰まり感がすごいわね」
「本当ですよ。しかも毎回変な惑星に出るものだから、それに対応するのが大変なんですよ?」
「分かってるわよ、そんなこと。けどねぇ、こっちも大変なの分かってるでしょ?」
「口で言うのは簡単なんですよ」
「かわいくないわね……」
そんなことを言いつつも、女神はシード値の設定をいじくりまわしていた。
しかし、そのシード値の設定が難しいのか、難解な顔をしていた。
「うーん、ここまで出来ているのは分かっているんだけど、それ以降がよく分からないのよね……」
女神がこうなった以上、相賀にできることはない。
静かに待っていることしかできないのだ。
相賀はこの時間に、スマホをいじることにした。
とは言っても、この空間には全く電波は入ってこない。
この場でできることと言えば、アルバムの整理くらいしかできないのだった。
それすらも終わらせてしまった相賀は、暇をもてあます。
相賀は、なんとなく女神のしていることを後ろから見てみる。
机の上にはメモ帳が散乱し、そのどれにもシード値の解読に必要なメモが残されていた。
一方でパソコンには、これまでのシード値を一覧にまとめたテキストファイルが開かれており、そこにはこれまで転生した世界のシード値と通し番号が振られていた。
女神は、それらとにらめっこしながら、どうにかして最適なシード値を設定しようとしている。
ここで、相賀に一つの疑問が生じる。
「こういう解析ツールって存在しないのかな……?」
「え、何?」
「あ、いや、独り言です……」
女神の威圧的な態度に、相賀は思わず尻つぼみする。
「はぁー。一つだけ言っとくけどね、シード値の設定ってあなた目線で見てみると、なんの知識もなしにバーコードの表記を読み解くようなものだからね?」
「はい……すみません……」
相賀は完全に萎縮してしまった。
「まぁ、知識も何も知らない人間が口を出すのは人間の癖みたいなところあるし、別にいいわよ」
「はぁ」
「それよりも、ここの文字列どうなってるのよぉー。もー分かんない」
女神はすべてを放り投げて、机に突っ伏してしまう。
その様子を見ていた相賀は、女神にある提案をしてみる。
「そのコード解いてる様子を、僕に説明してみませんか?」
「は?どういうことよ?」
「聞いたことあるんです。プログラマーの中には、ゴム製のアヒルのおもちゃに話しかけることで、問題が頭の中で整理されて解決に導くことがあるらしいです」
「そんな人間の手法を使うなんて、神様としてどうよ?」
「でも、今ものすごく人間らしいことしてるじゃないですか」
「うぐっ」
「それに、いつだったか僕がランダムでシード値設定したときも惜しい所までいったじゃないですか」
「うぐぐっ」
女神は完全に追い込まれてしまう。
「実際どうなんですか?」
「う、うーん。どっちかっていうと、人間より、かな?」
「なら僕の言うことも分かりますよね?」
「……はい」
結局女神は、相賀の提案を受け入れることにした。
今回行うのは、ラバーダッキングという手法である。
相賀が説明した通り、人や物に説明することで解決の糸口を発見しようとする方法だ。
早速女神は相賀に説明を始める。
「まず、世界生成に使われるシード値は最大で64文字の英数字からなるの。今のところ、最初の8文字で世界の構成、次の8文字で惑星の存在する太陽系の情報、それから16文字で惑星の環境を示しているわ。残りは転生する惑星上の座標だったり宇宙誕生からの経過時間、あとはシード値全体の確認コードね」
相賀はこの説明から躓きそうになった。
しかし、女神はお構いなしに説明を続ける。
「世界の構成は現在固定されているわ。これは宇宙生成における物理法則のあれこれを決定しているわけで、これがあなたのいた世界と異なると、あなたの体が文字通り蒸発するわけね」
このように、女神は相賀に説明を行っていった。
「……それで、55文字目と57文字目は連動しているから、それを補正するように56文字目を決定していく必要があるわね」
「……」
「って、ちょっと。話聞いてるの?」
「……はっ」
「あなた寝てたでしょ」
「ちょっと話難しくて……」
「全く……。けど問題は洗いだされたみたいね。問題は、この63文字目にと64文字目にあることが分かったわ」
「結局、これの何が悪かったんですか?」
「そうね、64文字目はシード値全体の確認コードなんだけど、これがシード値全体にどのような補正をかけるのかが分からないのよ」
「それさえ分かれば、シード値は手に取るように分かるってことなんですか?」
「いえ、それでも分からない部分はあるわ。それが33文字目ね」
そんなことを話していると、遠くのほうから、足音が聞こえてくることに気が付く。
二人はそちらに向くと、そこに一人の女性が立っていた。
「性が出るわね」
「師匠……」
女神が師匠と読んだ女性は、微笑みながらこちらに来る。
「あなたが相賀君ね。噂には聞いているわ」
「噂?」
「神様の間で振られる『神の加護ダイス表』で001のクリティカルを出した奇跡のような子と噂されているのよ」
「そ、それは恐縮です……」
「それで……。あなた、今、苦戦しているようね」
「はい、師匠」
「どうして直接転生先に転生させなかったの?」
「い、いやぁ、転生させる方法が分からなかったと言いますか……」
「私はしっかり教えたはずですよね?」
「うぅ……。すみません、まともに覚えてません……」
「まったく、あなたにはあとでじっくり教えないといけませんね」
「はい……」
女神は目に見えて落ち込んだ。
「それはそうと、苦戦しているあなたに、一ついいことを教えることにしましょう」
「いいこととは?」
「シード値の仕組み、少し教えてあげてもいいでしょう」
「本当ですか!」
「ただし、時間が空いたら直接転生法をもう一度マスターすること。いいですね?」
「あ、はい」
そういって女神は師匠からシード値の構成を学ぶ。
「……そういうことで、33文字目以外はこのようになっています」
「すごく勉強になりました」
「その勉強を直接転生法にも注いでほしかったものです」
「うっ……」
「それでは相賀君、ごきげんよう」
そういって師匠は去って言った。
女神はしばしの間落ち込んでいたが、すぐに復帰する。
「よし、張り切って転生していきましょ!」
「調子いいですね……」
そういって次の転生に備える相賀であった。
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