第7話 始まるサバイバル
しばらく女神はパソコンとにらめっこしていた。
シード値はまるで難解な数式のように、無理難題な壁を形成している。
女神はそれを突破しようと、何とかしている状況であった。
その間に、相賀の入る余地はない。
相賀は女神が生み出したコーヒーをすすって、ただその時が来るのを待っているほかなかった。
相賀はふと自分の荷物を確認してみる。
自転車のかごに入れていた荷物はすべてない。
あるのはポケットに入っていたスマホと財布、ハンカチくらいである。
「こんなのだけで、どうやって異世界で生活するんだって話だよな」
相賀は思わず苦笑いする。
異世界でサバイバルをするにはあまり役に立たないものばかりだろう。
しかし、こうなってしまった以上、相賀は生きていくしかないことを覚悟するほかない。
そうこうしている間に、女神の方はどうやら新しいシード値の方が完成したようである。
「よし、これなら問題はないはず」
「本当に出来たんですか?」
「もっちろんよ。今度は完璧よ」
「……」
「何よ、その顔。信頼してない顔してるじゃない」
「よく分かりましたね」
「その顔、何度も見てるから分かるわよ」
そういって女神はパソコンを操作する。
「それじゃあ行くわよ」
そういって女神はエンターキーを押す。
視界が暗転したあと、若干の浮遊感、そして地面に降り立つ感覚がする。
相賀は目を開けると、そこには草原が広がっていた。
相賀は慎重に息を吸い込む。
「すぅー、はぁー」
ひとまず大気中に即死級の毒ガスは存在しないようだ。
あとは大気中に人体に影響のあるウイルスなどが存在しないことを祈るだけである。
そうであることを祈りつつ、相賀はその場から移動する。
まずはサバイバルの基本の一つ、水の確保をするためだ。
しかし、闇雲に移動しても水のある場所に到着することはない。
そのため、最初に標高の高いところに登ることにした。
まず標高に高いところに行くことで、周囲の状況を確認することが出来、安全な場所の確認や現在位置の取得など有利に働く。
相賀がいた場所は、比較的緩やかな丘のようになっていた。
そのまま相賀は、丘の頂上を目指すように進んでいく。
そして頂上についた相賀は、周囲の様子を眺める。
どうやら、草原はまだ遠くまで広がっているようだ。
しかし、近い所に森が広がっているようで、そこに拠点を構えるのもいいかもしれない。
とにかく今後の目標は、その森に行くことだろう。
早速相賀は移動を始める。
その森までは、目測で5kmといったところか。
相賀はそこまでただひたすらに移動を続ける。
しかし、歩き始めて10分ほどたっただろうか。
なんだか体のあちこちが悲鳴を上げ始めた。
自分で言うのもアレだが、まだ高校生の体だ。
それなのに、ここまで疲れているのはおかしな話である。
「……もしかして」
相賀の頭には、ある考えがよぎる。
相賀はポケットに入れていたスマホを手に持つ。
スマホはいつもよりずっしりと重く感じた。
「もしかすると、この惑星では地球より重力が強いのかもしれない」
そのように相賀は考えた。
人間の体は地球の重力下で正常な働きができるように進化している。
そのため、地球の重力よりも強い重力の惑星では、人間の体に異常をきたす恐れがある。
それが相賀の体で起きているのだ。
実際、相賀の体は、通常より負荷のかかっている状態に陥っている。
数値としてはわずかな差だろうが、その負荷の積み重ねは今後恐ろしい事態を引き起こすことになるだろう。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
相賀はとにかく森の方角へと歩みを進める。
1時間ほどで、森に到着した。
相賀は慎重に森の中に入っていく。
森の中は視界が悪く、どこから敵がやってくるのか分からない。
そんな危険を冒してまで森に入る必要があるのかと言うと、実際ないのかもしれない。
しかし、森の中は視界が悪い。
それは相賀からも、敵からも分かりづらいということが言える。
その状態ならば、より目の良い人間が有利に働いたりするのだ。
とにかく、今は森の中に拠点を作るのが先決である。
「どこに拠点を作ろうかな?」
相賀は森の中を散策しながら、拠点になりそうな場所を探す。
そういうことをしている間に、次第に日は傾いてきていた。
急がないと、日が暮れて辺りが真っ暗になってしまう。
その前に今後の拠点となる寝床を確保しないといけない。
森の中を進んでいくと、ある巨木が目に留まる。
その木は幹の部分に穴が空いていて、人一人が横になれる程の大きさだ。
これをうまく使えば、拠点にできるかもしれない。
早速相賀は拠点の製作に必要な素材の回収に向かう。
とは言っても、雨風をしのげる場所は確保したわけだから、今は食料になりそうなものを探すのが先である。
早速食べられそうなものを探す。
意外にも簡単に見つかり、大き目の木の実がいくつか見つかる。
しかしこれをすぐに口にするのは危険だ。
「まずはパッチテストをするんだよな」
採取した果物に毒やアレルギーがあるかを確認するためのテストだ。
まずは採取した果物の果汁を絞り、それを手首の裏に塗る。
これで十数分ほど放置するのだ。
この時、皮膚に塗った部分が赤くなったりかぶれたりすると、その果物には毒やアレルギーが存在している証拠になる。
今回は問題ないことが証明された。
その後、唇に果汁を塗り、これも問題ことを確認する。
そして少しかじり、舌の上で少し転がして吐き出す。
これもパッチテストの一種である。
最終的には少量を飲み込み、そのまま数時間経過するのを待つ。
その間、飲み水を確保するため、周辺を探索する。
幸いにして、近くに小川があるのを発見した。
これもパッチテストを実施する。
舌の上に乗せるところまでは問題ないようだ。
相賀は、水を飲むのは翌日になるまで待つことにした。
ここで水を飲んでしまっては、腹を下した時に原因が果物なのか、水なのか判別がつかない可能性があるからだ。
「今日はここまでにするか」
周辺が暗くなり、出歩くのも難しくなる。
最初のうちはスマホの灯りを頼りにするのもできるが、これに頼ることも次第にできなくなるだろう。
「明日からどうしようかな?」
サバイバル状態であるものの、どこか気楽な状態である相賀であった。
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