第8話 まともなサバイバル

 意外にも疲れていたのか、横になって目をつむったあと、相賀はすぐに眠りについてしまう。

 そして夜も更けていき、翌日になって相賀は目を覚ます。

 しかし、横穴から外を見ても、いまだ真っ暗のままであった。


「早起きでもしたのかな?」


 相賀はそう思い、ふとスマホの時間を確認してみる。

 するとスマホの時計は午前9時くらいになっていた。

 それを見て、相賀はびっくりする。

 普通だったら、この時間は太陽が出ていてもおかしくはない。

 しかしそうはならずに、周辺はただただ暗闇が広がっているだけだった。

 なぜこんな状態になっているのか、相賀は考える。


「スマホでも壊れたかな?」


 確かにこう考えるのが一番手っ取り早いかもしれない。

 しかし、前日までスマホは確実に使えていた。

 そんなすぐに壊れることもないだろう。

 その他に原因があるかもしれないと相賀は考える。


「スマホの時計と、この惑星の時間がずれているとか?」


 この考えもいい線を言っているかもしれない。

 仮に、この惑星の0時がスマホの3時とかになっていた場合、数時間分のずれ生じる。

 もし3時間ほどスマホの時計が進んでいた場合、現在の時刻は朝の6時前後になるだろう。

 そうなれば、周辺が暗いのも納得が行く。

 しかし、空はまだ白んではいないくらいだ。

 他に原因があるかもしれない。

 ほかの原因を探るため、相賀は考えを張り巡らせる。

 そして一つの結論に至った。


「もしかして、この惑星は自転が24時間じゃない……?」


 この考えは現時点で最も有力である。

 惑星の自転は必ずしも24時間ではない。

 それは同じ太陽系内の惑星に目を向けても一緒である。

 もしかすると、この惑星は自転の長さが24時間より長い可能性が出てきたのだ。


「24時間より長いとなると、そういう風に生活習慣を直さないといけないかもなぁ」


 人間の体内時計は24時間と数分と言われている。

 そして人間は太陽の光を浴びるなどして、この24時間の調整を行っているのだ。

 もし、この惑星の自転が30時間くらいあると考えると、体内時計よりかなり長いことがうかがえる。

 もしそうなると、生活する上ではかなり苦労しそうだ。


「とにかく、今はおとなしくしていよう。日が出るまでは何もできないし」


 そんな感じで、相賀は日が出るのを幹の中で過ごすのだった。

 その後、約1時間半ほどで太陽は出てくる。

 太陽が出てきた時間を、相賀はメモに残す。

 翌日太陽が出てきたときに、この惑星の一日の長さを測るためだ。

 メモを残した相賀は、幹の中から出てくる。

 この日の予定は例の果物をいくつか回収してくることであった。

 パッチテストの結果、現在まで腹痛などの症状が出ていない。

 そのため、今後数日はこの果物を主食にするつもりである。


「確かこの辺に果物があったような……。あ、あった」


 相賀は持てるだけ果物を回収する。

 その後、相賀は昨日見つけた小川へと向かう。

 今回はパッチテストの続きをするためだ。

 前回の続きとして、水を少量飲む。

 あとはこの状態で数時間待つのみだ。

 そもそも普通の川であっても、川の水を直接飲むのは危険な行為である。

 川の中に、バクテリアの類がいたら、その時点でアウトであるからだ。

 そのため、パッチテストの結果が分かるまでは、喉の渇きは果物を食べて解消することにする。


「果物だけだと、あんまり喉の渇きを潤すことできないよなぁ」


 この果物は、見た目に反して果汁が大量に出てくる。

 しかし、それだけでは案外喉の渇きを潤すことはできない。

 現在、相賀の体は通常より水分を摂っていないため、軽い脱水症状に見舞われている。

 そのため、早急に大量の水の摂取が必要であるのだ。

 しかし、小川でのパッチテストにクリアしないと、水の大量摂取はできない。

 それに、パッチテストにクリアしたからといって、この水が安全だという保障はどこにもないのだ。

 もしかすると、大量に摂取することで危険が及ぶタイプになるかもしれない。

 だが、そういった危険を侵すことで、安全というものは確保されるものなのである。


「とにかく、今は時間が経過するのを待つしかないよな……」


 相賀は、拠点である木の幹の中に入って、時間が経過するのを待つしか出来なかった。

 このまま、日が傾くまで待つ。

 西日がきつくなってきた頃になり、ようやく水に対するパッチテストの結果が出る。

 現在の状況では、問題はないようだ。

 相賀は小川に向かう。


「水……」


 相賀の気分は、まるで砂漠で遭難した旅人のようであった。

 小川に到着すると、相賀は水を手で掬い、それを口に運ぶ。

 久々にまともな水分補給をした相賀は、その水が心までしみわたるような気分であった。

 相賀は小川に顔を突っ込む。

 とにかく水が飲みたかった相賀はそのまま水分を摂取する。


「ぷはっ……。はぁ、はぁ、はぁ」


 久方ぶりの水に、相賀は満足した。

 そんな感じでどうにか2日目を生き延びた相賀は、木の幹の中で過ごす。

 相賀がこの惑星に転生して3日目。

 この日も太陽が出る前に目が覚めた相賀。

 そのまま太陽が出るまで、時間をつぶす。

 そして太陽が出たときの時間を記録した。


「げ、昨日より時間が伸びてる。……だいたい32時間か」


 地球での一日より8時間も長い。

 これでは相賀の体に何かしらの異変が起きてもおかしくはないだろう。

 この日は、何か食べられる野草がないか探し回りながらパッチテストを繰り返す。

 暗くなりかけたころに、相賀は拠点に戻ってくる。

 こうして眠りにつこうかとしていた時だった。

 目をつむった相賀の足に激しい痛みが生じる。


「痛った!何!?」


 相賀はスマホのライトをつけて様子を確認する。

 するとそこには蛇のような生き物がいた。

 蛇のような生き物は相賀の足首にがっつりと噛みついていた。

 すると、相賀の足首から激しい痙攣が起こり始める。

 それと同時に、足首の痛みが鈍くなり、視界がグラリと揺れた。


「あっ……。やばい……」


 そう口にする間もなく、相賀の意識は遠くへと飛ばされる。

 相賀が次に気が付いた時には、女神のいる場所であった。


「あら、目が覚めた?」

「ここは……」

「戻ってきたのよ、あなたが死んでね」

「死因は、毒蛇ですか?」

「そうね。しっかし惜しかったわねぇ、私もモニタリングしてたんだけどいい線行ってたじゃない」

「はぁー……」

「何よ、その溜息」

「いや、いい感じだったのになぁって思いまして」

「そりゃそうよ。初めてサバイバルした割には善戦してたようだし」


 そういって女神はコーヒーを渡してくる。

 確かに惜しかった部分はあるだろう。

 しかし、相賀はどこか充実した部分があったのは間違いないだろう。


「それじゃあ、休憩し終わったら次の転生、行ってみましょうか」

「はい」


 相賀はまだまだこれからだと思った。

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