第4話 初めての惑星
その後、立て続けに転生を行い続けるのだが、一向に環境の整った世界に転生することができない。
「どうして……。どうしてなんだ……」
相賀はうなだれるように膝から崩れ落ちる。
相賀のことをなだめようとする女神だったが、この場合どのような言葉をかければいいのか分からず、ただ静かに立っているほかなかった。
「ふぅぅ……。よし」
相賀はひとしきり落ち込むと、何事もなかったかのように立ち上がった。
「え、もう立ち直ったの?」
「はい。いつまでも落ち込んではいられないので」
その身の変わりように、女神は驚いた。
しかし、それも相賀の特徴の一つであると女神は考える。
「けど、まだ乱数調整がうまくいってないから、どうにもできない状況よ」
「そうですよね……。どうしましょう?」
「そうねぇ……」
二人は一緒になって悩む。
それは今行っている乱数生成がうまくいっていないのが原因だ。
「要するに、うまく生存不可能な環境を生成する乱数から、生存可能な環境に転換できればいいんですよね?」
「えぇ、単純に言ってしまえばそうなるわ」
「……そのパソコン、僕が操作するのはアリですか?」
「……へ?」
相賀の予想外の返答に、変な声を上げてしまう。
「それ、誰がいじっても問題ないですよね?つまり僕が操作しても問題はないはずです」
「確かに理論上はそうかもしれないけど、だからって何か変わるわけじゃないでしょ」
「元の世界には、引き寄せの法則とかいうオカルトめいた法則もありますし」
「うーん……」
「それにほら、乱数調整という意味で僕がやるって手もありますし」
「……そうね、そういうことにしておくわ」
女神は何かあきらめたように言う。
「それじゃあこれの操作方法、分かるかしら?」
「日本語だったら多分わかるんじゃないかと」
そういって、相賀は女神のパソコンを操作する。
そして、乱数生成に必要な手順をたどった。
「……これで乱数が生成されるはずよ」
「分かりました。これで行ってみます」
相賀は緊張しながら、エンターキーを押した。
直後、視界が暗転し、相賀は再び異世界に転生させられる。
すると直上に、青々とした大きな惑星が一つポカンと浮かんでいた。
それを見た相賀は、思わず興奮で声を出してしまう。
結果として、いつもより早く窒息死という結末になり、相賀は女神の元に戻ってくることになった。
相賀は一回深呼吸をし、女神に報告する。
「ほら、どうでした?うまくいったじゃないですか」
「確かにそうかもしれないけど……」
「あとはこれを基に乱数を決定すれば、いずれいい感じの場所に出られるかもしれないですよ」
「分かったから、少し落ち着きなって」
そういって、女神は落ち着くように促す。
もちろん、女神もモニタリングとして転生の様子を一緒に見ている。
先ほどの転生の様子を見ていた女神は、これはチャンスであると考えた。
「とにかく、あの惑星にいけるように乱数を調整すれば問題ないわね」
「はい、そうしましょう」
女神はパソコンを操作して、乱数の調整をする。
こうすることで、うまく惑星の上に降り立てるように操作するのだ。
「よし、微調整をしたわ。もしかしたら、これで惑星の上に移動できるかもしれないわ」
「分かりました。早速移動させちゃってください」
なんとなくであるが、女神の目には相賀のテンションが上がっているように見えた。
とにかくそれは置いといて、女神は乱数生成のボタンを押す。
相賀の視界は暗転し、転生する。
しかし転生した場所は、暗闇であった。
そして同時に、強烈な熱が襲ってくる。
その熱に、相賀は悲鳴を上げる。
しかし、それは声にならず、相賀の身体は次第に黒こげのようになる。
そしてそのまま女神の元に戻ってきた。
「あ、相賀?」
今回の一部始終を見ていた女神は、問いかけるようにゆっくりと相賀に近づく。
「こ……」
「こ?」
「怖かったぁ……」
相賀は涙目で女神に訴えかける。
今までは身体に分かるような、はっきりとした死ではなかった。
それに、宇宙空間における窒息死を何度も経験していたため、死に対する恐怖が欠如していたのも原因である。
そのため、今回の熱を伴う焼死というのは、相賀に死に対する恐怖を思い出させるには十分であった。
そのため、相賀は久方ぶりに恐怖というものを思い出したのである。
「怖かったですよぉ、神様ぁ」
「あーもー分かったから、私にすがらないで!」
恐怖のあまり、相賀は女神にすがろうとする。
女神はこれまでの相賀と違っていることに驚きつつも、すがる相賀を振りほどこうとしていた。
「とにかく落ち着きなさいって。ほら、アメちゃん舐めなさい?」
「うん……」
女神がどこからともなく取り出したアメを、相賀は受け取って舐め始める。
アメを舐め切ったところで、相賀の調子は元に戻った。
「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたよ」
「どうにかなってたけどね」
「それで、僕がいた場所ってどうなってたんですか?」
「そうねぇ……」
女神はパソコンを操作する。
「どうやら惑星の内部に転生したみたいね。惑星座標がちょっと狂ってたみたいよ」
「そうだったんですか。それじゃあ、それを克服すれば、問題はないってことですか?」
「そういうことね」
「だったらすぐにやりましょう!」
「テンション高いわね……」
そう言いつつも、女神はパソコンを操作して、座標情報を調整しようと模索する。
そして数分後、調整が完了する。
「それじゃあ、行くわよ」
「はい」
「えいっ」
再び女神は実行ボタンを押す。
相賀の視界が暗転し、今度は身体に重力を感じるようになる。
視界が安定すると、そこは暗闇と青色の境目だった。
相賀は惑星上空10000mから落下していたのだ。
しかも呼吸しようにも、うまく呼吸できない状態になる。
相賀はもがきながらも、落下していく。
そして意識を手放す。
相賀が次に気が付いた時には、女神の前であった。
「大丈夫?」
「何が、あったんです?」
「……ログでは転落死って出てるわ」
「どういうことなんですか?」
「おそらく、あの高さから落下して、地面に衝突したのが原因だと思う」
「でも、そんなの記憶にないですよ」
「あなたはまず、酸欠による意識障害で、意識を失っていたと考えられるわ。そのまま、地面に衝突して死んだと思うわ」
「じゃあ、また惑星の座標をいじって、生存可能な高さにすれば……」
「それでも無理よ」
相賀の言葉をさえぎって、女神が言葉を続ける。
「多分、あの惑星には酸素がないと思われるわ」
「そんな、こと」
「いいえ、調べたらあの惑星の大気中には酸素の割合が極端に少なかった。もし降り立ったとしても生存は不可能よ」
「そんな……」
相賀は絶望する。
それは、再び広大な宇宙を旅しなければならないということであるのと同義だったからだ。
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