第3話 宇宙での転生

 女神はおとなしく椅子に座り、相賀の話を聞く。


「それで、聞きたいことって何?」


 急にしおらしくなった女神を前に、相賀は調子を狂わせられる。


「えぇと、まず確認なんですけど、その乱数を使ってでしか異世界に転生することができないんですか?」

「そうね、私の場合はその通りよ」

「つまり、他の場合が存在すると?」

「いいえ、他の神様は生存可能な異世界の乱数コードを所持していたり、直接異世界に転生させるすべを持っているわ」

「なら、なんで他の神様はそのことを教えてくれないんですか?」

「いわゆる企業秘密って奴よ」

「……それじゃあ、これまでの経験から転生先を選択しないといけないんですか?」

「これまでの経験も何も、この仕事始めて一番目があなたなんですけど」

「……マァジで言ってます?」

「マジよ。だから経験も何も分からないのよ」


 相賀は深くため息をつく。


「それじゃあまるで俺が実験体みたいな言い方じゃないですか」

「実験体とは失礼ね。死んでもここに戻ってこれるんだから、それに感謝しないと」

「何回も死ぬのに感謝が必要なんですか」

「いいじゃない、クリティカル出して死んでも戻ってこれる加護が付いたんだし」

「はぁー……」


 二度目のため息。

 とにかくため息をつくほかなかった。


「とりあえず話を戻しますけど、その乱数を使って適切な世界に転生するほかないんですか?」

「今の所、総当たりで転生していくしかないわ」

「……ふぅー」


 相賀は一回天を仰ぐと、腹をくくった。


「分かりました。納得できる世界にいけるまで頑張りますよ」

「おっ、そう来なくっちゃー」

「その元凶はあなたなの分かってます?」


 とにかく、今後しばらくの方針が決まった。

 現状、居住可能な世界があるわけではないため、総当たりで異世界に転生し続けるしかない。

 早速二人は準備をする。


「とにかく、次のシード値を生成するわね」

「それ生成した瞬間に転生するとかってやつなんですか?」

「そうね。……こっちの準備はOKよ」

「こっちも準備出来ました」

「それじゃあ行くわよ?」


 そういって女神は乱数を生成させる。

 直後、相賀の視界は暗転する。

 そしてしばらくは視界は暗いままであった。

 しかし、違和感はある。

 まず呼吸ができない。

 呼吸しようとすると、肺の中にあるものがすべて飛び出てしまうような感じだ。

 そして次第に身体が動かなくなり、意識が途絶えた。

 次の瞬間には、女神の前に戻ってきていた。

 相賀は思わず肩で息をする。


「今回は少し長かったわね」

「長かったって、どれくらい?」

「そうね、20秒ってところかしら」


 これまでは、一瞬の内に戻ってくるのがほとんどであった。

 その中で、この20秒というのは長い部類ではある。


「今度の死因は何です?」

「真空中での窒息死ってところかしら。まだ宇宙が晴れ上がってない世界だったようね」

「それじゃあ次、お願いします」

「よーし、張り切っていきましょ」


 そういって女神は再び乱数を生成する。

 また相賀の視界が暗転する。

 今度も、視界は暗いままであった。

 また呼吸困難状態が始まる。


(あぁ、また宇宙空間なのかな?)


 そう思った相賀は息を止める。

 少しでも生存できるようにするためだ。

 そんな相賀の身体を、何かが引っ張るような感覚が襲う。

 それと同時に、身体の前後左右を何かが押し込んでいるような感覚もする。

 それは時間の経過と共に強く感じていき、そして痛みも伴う。

 そしてまた意識が途切れた。

 意識が戻った時には、女神の前に倒れていた。


「あら、気が付いた?」

「僕は……どうなったんですか?」

「あなた、ブラックホールのそばに転生したみたいね。そのおかげなのか知らないけど、ブラックホールに吸い込まれてスパゲッティ化現象を起こしたそうよ」

「……ふー」

「大丈夫?少し休憩する?」

「いえ、大丈夫です」


 そういって相賀は立ち上がる。


「なんか水素に転生した気分ですね」

「……どういう意味?」

「何でもないです。さぁ、次に行きましょう」

「……そう。それじゃ、行くわよ」


 その後、何回も何回も転生しては死ぬを繰り返す。

 そのすべてが宇宙空間における窒息死であった。

 何もない真っ白な空間で、膝をついて呼吸を荒くしている相賀がいた。


「大丈夫?とにかく、休憩を少ししないと」

「いえ、そんなこと言ってる場合じゃないですよ。早く乱数を完成させないと……」

「さっきまで乗り気じゃなかったのに、何があなたをそんなに突き動かすの?」


 そう、少なくとも相賀は複数回死ぬということをやっている。

 それは並大抵の痛みではない。

 女神の問いかけに、相賀は答える。


「俺は、ここに来るまで何か特徴を持っているわけではありませんでした。しかし、今まさに一人のために役に立っているなら、それは俺が存在している理由になるんです」

「……そう、あなたはそれでいいのね」


 女神は納得したように、その場を移動する。

 そして椅子に座りなおした。


「それじゃあ次、行ってみましょう」

「はい、お願いします」


 そこからも、相賀は宇宙空間に放り投げ出され続けていた。

 しかし、少し変化していることもある。

 星が見え始めているのだ。

 宇宙の晴れ上がりの時代まで進んできたということだろう。

 そして100回もの回数転生し続けた結果。


(また宇宙、もう飽きたな)


 宇宙空間での対処法はもう習得済みである。

 何回もの宇宙遊泳で得た経験を元に、導き出された最適解が、相賀の身体に身についていた。

 そしてそのまま流れること数回。

 ある変化が訪れる。

 今度の転生先では、ある星の近くに転生した。

 その星は岩石のような惑星であり、氷のようなものも確認できる。

 大きさも上々だ。

 この惑星なら、居住可能かもしれない。

 そして女神の前に戻される。


「ありましたよ、居住可能な惑星が!」


 確実な変化に、相賀は思わず女神に報告する。


「分かってる、分かってるわよ。こっちでも確認しているから」

「とにかく、次の乱数を生成してください。早くあの惑星に行かないと」

「待って、今調整するから」


 そういって女神はパソコンを操作し、乱数を再生成する。

 何度目かの転生をすると、そこは真っ暗闇の世界であった。

 乱数調整が暴走し、再び暗黒世界に転生することになったのだ。


「なんでだよぉ!」


 声として響かないが、相賀は絶叫するのだった。

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