第2話 転生し続ける
「とにかく、まずはちゃんとした異世界にいけるようにしなきゃね」
「ちょちょ、ちょっと待ってください」
「何よ」
「あの、いろいろと混乱しているので、少し整理させてもらえませんか?」
「はぁー、しょうがないわねー」
女神は相賀に向き合う。
「えーと、僕は死んでしまったんですよね?」
「えぇ、そうよ」
「それで、僕を異世界に転生させるために、神の加護が必要であると」
「そうね」
「そしたら、死んでも神様であるあなたのもとに戻ってくる加護だった」
「その通りよ」
「そのまま、最初の転生先に向かったら早速死んでしまったということで合ってますか?」
「よく理解してるじゃない」
女神は高圧的な態度で、相賀に相槌を打つ。
その態度に、相賀は若干不安な気持ちを抱くが、背に腹は代えられないと考え、続ける。
「それで、僕が異世界に行く理由とはなんなんですか?」
「え?」
女神はポカンとした表情を見せる。
「いや、だって理由もなしにただの高校生を異世界に転生させるわけないじゃないですか」
「あー、そこから説明しないといけないのね。面倒だわ」
女神は机の上にある書類の山をいじりながら、会話を続ける。
「この世界はね、あなたが思っている以上に、複雑に出来ているのよ。私たち天界の住人は、人間を生きさせることが最大の幸福であり、神として生きていくための定めとしているわ」
「じゃあ、僕を生きさせるのも、神様としての定めってことですか?」
「建前上はね。けど、そこにはより上位の神の利権とかが絡んでいて、面倒くさい要因になってたりしているのよね」
そういって、女神は書類の山からあるものを取り出す。
「条件はいろいろあるんだけど、人間の平均寿命に対して短命に終わってしまった人間を別の世界に転生させて、そこで新しい生活をさせたりしているの。人間が生きることこそ、神としての定めだから」
女神は「人間の転生に関する神の仕事」という、パンフレットのような物を見せる。
その話を聞いて、相賀は大まかにしか分からなかった。
「つまり、神様同士の利権争いで、僕のような人間を救ってあげるのが神様の本懐ということですか?」
「ん、まぁ、そんなところね」
女神はため息をつくように返事をする。
そして、最初の転生の時に出したパソコンのような物をこちらに見せる。
「それで、これが特定の異世界を呼び出すためのアルゴリズム表ね。ここに文字列を入力すると、疑似乱数が発生してその乱数に基づいた世界が呼び出されるわ。そうすることで、呼び出した世界にあなたが転生するわけ」
そういって、女神はパソコンを元の位置に戻す。
「けど、さっきみたいに乱数が不適切だった場合には、そもそも世界そのものが存在しなかったりするわ」
「偶然そうなったわけですね」
「いいえ、世界そのものが存在しないなんて普通のことよ。むしろ人間が生存可能な世界の方が珍しいわ。この乱数で言えば、生存可能な環境に転生できる確率は2500兆分の1ってところかしらね」
「えぇ……?」
相賀は思わず困惑してしまった。
生存可能な環境に転生できる確率がそれほどまでに低いことに。
しかし、逆にこれは高い数値とも言えるだろう。
宇宙は無限の平行世界によって構成されているからだ。
そのため乱数の目が良ければ、自分の理想の世界が待っているとも限らない。
「とにかく、今は理想の世界に転生できるように、この乱数を調整するほかないわ」
「ちょっと待ってくださいよ」
「今度は何よ」
「なんで乱数で行先の異世界を決定しようとしてるんですか?」
「しょうがないでしょ、こうする他ないんだから」
「ほかの人にもそうやっているんですか?」
「さっきから質問ばかりねぇ。しょうがないでしょ、私この仕事そこまで深くやってるわけじゃないんだから」
「神様だったら、願った通りの異世界に転生させるとかできるでしょ」
「あーもーうっさい!いいから黙って私に従いなさい!」
なんとも横暴な女神に、相賀はうんざりする。
(本当にこの人は神様なのか?)
こんな疑問が生じるのも無理はないだろう。
これまでの言動から、この女性が本当に神様なのか、見当もつかないことだろう。
しかし、この人は本当に女神なのである。
「とにかく次、ちゃっちゃとやっちゃうよ」
そういって、女神はパソコンを操作する。
「とりあえずシード値をいじれば問題ないよね」
そういってカタカタと何かを入力する。
「それじゃあ次いってらっしゃーい」
「ちょ、心の準備がっ」
再び世界が暗転する。
と思ったら視界が真っ白になり、再び元の女神の前に戻ってきた。
「えー、うっそー。また死んじゃったの?」
女神はパソコンを操作して、原因を探る。
「うわ、今度は宇宙誕生の瞬間に立ち会っちゃってんじゃん。そりゃ無理だよ」
女神が引き当てた乱数は、ビッグバンの瞬間であった。
宇宙のごく初期にあった高温高密度の状態では、人間はおろか、通常の物質すら存在することがない場所である。
そんな場所に転生させられた相賀は、その肉体は瞬間的に文字通り蒸発したのだ。
「これはもう仕方ないわね……。それじゃあここをいじれば問題はないかしら」
そうして女神は再びパソコンを操作する。
「もう一回、いってらっしゃーい」
「待ってっ」
三度視界が暗転する。
世界は真っ暗のままだったが、直後女神の前に戻された。
「またぁ?今度はどうなったのかしら」
そういって女神はその原因を調べる。
「今度は宇宙が核融合状態の時に転生したかぁ。また身体が蒸発してるじゃん」
そういって女神はまた乱数の数値をいじる。
「この調子で行けば、いずれかは居住可能な環境の整った惑星にいけるわね」
「待ってくださいって!」
相賀は思わず大声を上げる。
「な、何よ」
相賀の声に、女神はびっくりした。
「さっきから待ってって言ってるのに待ってくれないで自分の勝手で転生させ続けるの何なんですか!」
「いや、だってこれ仕事だし……」
「仕事だからって勝手になんでもやるのが正義なんですか!」
「あ、あのー……」
「なんで僕の意見は聞かないんですか!それがあなたのやり方なんですか!」
ひとしきり吠えたところで、相賀は落ち着きを取り戻す。
「ふぅー。とにかく、俺の話も聞いてください」
「あっはい」
女神はおとなしく相賀の話を聞くのだった。
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