ワールドリメイク☆ダイスロール!
紫 和春
第1話 こんな転生は嫌だ
「はい、残念ながらあなたは死んでしまいました。えぇ」
無限に真っ白な空間が続く、屋外とも屋内とも言い難い場所。
そこに一つの机と女性が居り、床にまでぶちまけた大量の紙とにらめっこしながら軽い口調で言う。
その言葉を掛けられたのは、若干放心気味に座り込む男子高校生――
「……ちょっと、いつまでそうしているのよ?」
「へっ……?僕に言ってます?」
「他に誰がいるのよ?」
相賀は混乱していた。ここはどこなのか?どうしてこんなところにいるのか?疑問だけが頭の中を巡っている。
「何?自分のことも分からなくなったの?もぉ、面倒くさいわね…」
女性は紙束の山から一枚を引き出すと、目を細めて読み上げる。
「えーと……?相賀雅哉、17歳。地方の公立高校に通うただの男子高校生。帰宅途中の土手を自転車で走行中に前輪がパンク、自転車ごと前転して川に転落。その際頭部に重大な損傷をしたことにより死亡……だってさ。ダッサイ死に方するわねー」
「あー……。確かにそんな記憶があるような、ないような……」
一言ごとに嫌みのような含みを持たせて話す女性。その言葉は相賀に僅かな苛立ちを募らせる。
しかし彼女の説明のおかげか、ここに来る前の出来事が雲のようにぼんやりと思いだし始めていた。
昨日(?)の帰り道、友人と別れたあとに自転車で土手を走っていた。かなりのスピードを出していたため、事故が起きたときには何があったのかまったく理解が追い付いていない。そんなわけだから今の彼にしてみれば、本当に死んだ身であることに実感が湧いていないのである。
「何か思い出した?」
「まぁ、なんとなく」
「あっそ。じゃ、この話はこれで終わりね」
適当な受け答えにより、この話は実際に終わる。その中で、相賀は感じていた。彼女はとてつもなく雑な人であると。
「それで、あと何かあったかしらね……。確かここにマニュアルがあった気がするけど……」
机の上にある紙の山を探す女性。比較的上のほうにあった冊子を引き抜くと、ページをめくっていく。
「はい、『私は神様です。不幸にも命を落としてしまったあなたに、私から神の加護を与えましょう』……。ここで加護を与えるんだっけ?ま、マニュアルにそう書いてあるわけだし、良いわよね?」
これを聞いた相賀は驚いた。目の前にいる女性は神であったこと、彼女から加護を与えられること、そして神様なのに非常に面倒くさがりで雑であることが分かったからである。
「じゃ加護あげるから何がいいか言って」
「え、今?」
「そうよ。ほら早く」
まさか神からそんなことを聞かれるとは相賀は思いもしなかった。
しかし相賀は、いろんなことが頭の中を駆け回って、何も思いつかなかった。
「えーと、あの……」
「なに、はっきりしないわね」
次第に女神は苛立ちを抑えられなくなっていた。
そして一つ大きなため息を出す。
「しょうがないわね、これで決めましょ」
そういって女神はある物を取り出した。
それは3つのサイコロである。
「あの……。それ、サイコロですよね?」
「それがどうしたの?」
「いや、神様がサイコロを振るなんてどうなのかなって思いまして……」
「いいじゃないの別に。それとも何?神様がサイコロ振っちゃいけないわけ?」
「あ、いや、そういうわけではないんですけど……」
女神の高圧的な態度に、思わず相賀は尻つぼみする。
女神は再び大きなため息をつくと、サイコロを手に取った。
「それじゃあ張り切って行きますか」
そういって女神はサイコロを振る。
サイコロは机の上を転がっていく。
そして止まった。
その結果を見た女神は驚きの表情を見せる。
「ダイス目が001……!?ここでクリティカル出す!?」
相賀にはよく分からないが、どうやらすごいことらしい。
女神は気を取り直して、相賀の方を向く。
その手には、先ほどの冊子を持っている。
「んんっ、えー、相賀雅哉くん。これからあなたを異世界に転生させます。その際、私から加護を与えましょう。その加護の名は『原初転生』です。この加護は、異世界で死んでしまっても、すぐに私の所に戻ってくることができるものです。さぁ、異世界へ行ってらっしゃい」
そういって女神は下手な笑顔を作る。
しかし、そのまま何も起こらない。
女神は慌てて冊子に目を通す。
「この後どうするんだっけ……」
一通り目を通した女神は、再び相賀の方を見る。
「えーと、これもロールで作りましょ」
そういって女神は何か準備をする。
それはパソコンのような何かであった。
「それじゃあ、ダイスロール!」
カターンという心地のいい音が鳴り響き、しばらくしてもう一度鳴る。
すると、相賀の身体は光り輝き始めた。
「おっ、うまく行った。それじゃあ行ってらっしゃい」
そういって女神は手を振った。
「待っ――」
相賀は思わず手を伸ばす。
相賀としては、まだ聞きたいことがたくさんあった。
そのまま相賀の視界は暗転する。
次の瞬間には、元の場所に戻っていた。
「……は?」
椅子に座っている女神が変な声を上げる。
「ちょちょちょ、ちょっと待って?確かに転生させたはずだよね?」
女神の慌てふためきようを見ると、どうやら想定外の状態であったようだ。
相賀も、何が起きたのかさっぱり分かっていない。
「待って待って、転生させたよね?」
そういって、パソコンを操作して、状況の整理をする。
そして一つの結論に至った。
「あー、これはあれか。原子も存在しない無の世界に転生したのかぁ」
「え?無の世界?」
「まぁ、簡潔にいうならあなたの身体が量子レベルで分解した感じね」
「分解……」
「そして神の加護のおかげで、そこからここに戻ってきたってことに、完全に把握したわ」
相賀は少し理解に苦しんでいた。
それに対して、女神は何か理解したような感じである。
「こうなったら、あんたがちゃんと異世界に行くまで、私は頑張るわよ!」
相賀はなんだか分からないが、とにかくこの女神についていくことしかないだろう。
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