タバコと恋の残り香

何もない空間が好きだ、誰もいない場所が好きだ。


 それが間違いだと分かっているし、きっとまた彼女に怒られると分かっているけど。

吐き出す場所がなくて、僕はタバコを加える。


愛なんてものを知らなければ、僕は孤独の辛さを知らずに済んだのだ……


 バカみたいな話で実際、頭の悪い僕は。消えてしまいたいと想う。

最初から何もなかったように、誰もいなかったように僕はこの世界から消えてしまいたいと想う。


 テレビの音がうるさくてテレビを消した。

灰皿の上に置いてあったタバコはすっかり燃え尽きてしまっていた。皿の上に残る灰を見て僕はなぜか笑った。


 もういないのだ、テレビの音を消したって、弱音を呟いたって叱ってくれる彼女はもういない……。

何もしたくないはずなのに、僕はバイトに向かった。ポケットにはセブンスターとライターを入れて。


 その部屋に居たくなかった。なぜか目頭が暑くなって。

信号待ちの自転車で僕は泣いていた。

田舎町の路地裏で人の少ないこの街で、僕の大好きな、何もない誰も居ないこの場所で。


 僕は初めて寂しいと思った……。

沈黙の中でけど確かに聞こえる彼女の声が、僕の頭の中に響いている。

死んじゃダメだ、ちゃんと生きろと。僕をまた叱っている。


全くうるさい声だ、とても綺麗で……とても……。

分かったよちゃんと生きるよ、ごめんなわがままばかり言って。


 信号が青に変わった。


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