第99話 DEEP RED & VIRGIN KNIGHT
大見得切ったはいいものの、状況はあまり芳しくなかった。
彼我の戦力差は完全に互角。これでは駄目だ。マジータちゃんがいつまでサタンドールを抑えていられるかわからない。連中が開放されてしまえばもはや勝ち目はないだろう。
キングドラウィーンの巨大な拳を受け止めて、ガリアは呻き声を上げる。もはや躊躇している余裕はない。
「グローズビーム!!」
「フォトンバリア!!」
極太の光線が、突如現れた障壁に掻き消された。コアの出力が同等なら武装の威力も同等。何度拳を交えてもこれでは埒が明かない。
勝機はないのか。
弱気になったその瞬間、第四格納庫の扉が開いた。唯一破壊を免れていたそこにあったものと言えば――
「メライアか!?」
見慣れたレギンレイヴからシルエットを変えた白銀の機体。騎士然としたその姿は、しかし立ち居振る舞いを見ただけで彼女が乗っているのだとわかる。
「待たせたな、ガリア」
「メライア!」
探し求めていた人が、今、目の前にいる。ガリアの名前を呼んでいる。これほど嬉しいことはない。
しかし、感傷に浸っているような暇はなかった。
「新顔か? まとめて片付けてやる!!」
重なり合ったガリアⅤとⅥの声。さっきからずっとこの調子だ。まるで人格まで統合してしまったかのようにシンクロしていた。
メライアは強気だった。
「ガリア。君と一緒なら、私とレギオンブレイヴはどこまでも強くなれる」
「なんだ、随分と情熱的じゃないか」
「茶化すなよ。行くぞ!」
レギオンブレイヴが地を駆ける。前腕のエングレービングに赤い筋が走った。メライアが叫ぶ。
「サモン、聖剣オーネスト!」
その右腕に、一振りの
右に回り込んで一閃。装甲がまるでバターのように切り裂かれた。
「なんて切れ味だ」
驚愕するガリアに、メライアは得意気に言う。
「腕の差だ」
熟練騎士の剣さばきは鋼鉄をも容易く切り裂くということか。続く一閃。ガリアは彼女に動きを合わせる。
「私は右から、君は左から!」
「任せておけ!」
「なんの!」
太い腕が進路を阻む。しかしガリアは機体を跳躍。最大出力で飛び上がったドラクリアンは、重力を味方につけて膝蹴りを食らわせた。よろめく巨体にレギオンブレイヴが迫る。小ジャンプを交えた袈裟斬りが炸裂。
胸部装甲を破壊され、コックピットが露出する。驚きに目を見張る二人の姿が視界に入った。揃いも揃って同じ顔。鬱陶しいことこの上ない。
「地獄の釜への片道切符だ!」
裂け目に両の手を捩じ込み、無理矢理隙間を押し広げる。抵抗する両腕を、メライアがすかさず斬り落とした。
「この距離ならバリアは張れないな!!」
装甲をこじ開けて一撃。
「グローズビィーッム!」
妖しく輝く極太の光線が、紛い物の存在を断末魔もろともに焼き尽くす。胴体を貫かれ制御を失った機体は、糸の切れたマリオネットのようにだらりと垂れ下がった。
次だ。二人が一斉に振り返ると、しかし新たな影が落ちる。
それは空を舞う飛龍のよう。群青の機体は中空で錐揉み、その姿を人型へと変えた。新手のワイバーンクラスだ。
「何者だ。名を名乗れ」
メライアの
「いいなあ今の!」
叫んだのはガリアⅧだ。言葉と共に、ドレッドノートに翼が生える。
「コピー能力か!」
ギルエラが叫ぶ。飛び回るドレッドノートは誰に求められない。駆け回る群青色と飛び回る気狂いによって戦場は混沌を極めていた。
目にも留まらぬ一撃離脱戦法。四方八方を飛び交う凶刃に、機体のダメージが蓄積していく。反撃の糸口を掴めない。
「無様だなガリアゼロ!」
「ざけんな畜生この野郎!」
ディプダーデンの攻撃をいなし、ガリアは吼えた。せめて空が飛べれば――
「ガリア。あいつを引き離せ」
言うなりメライアは聖剣を地面に突き立て、新たに喚び出した弓に矢を番えた。ディプダーデンをギルエラに任せ、ガリアはドレッドノートを挑発する。
「ブンブン飛ぶしか脳がねえのか! それじゃあ俺は倒せねえぞ!」
「なんだと!?」
ガリアⅧは挑発に乗った。駆け出すドラクリアンを追い続け、戦地から遠ざかってく。立ち止まったドラクリアン。それに狙いを定めるべく、ドレッドノートが空中で制止した。その一瞬の出来事だ。飛翔体が背後から襲いかかる。
「ジ・エンドだ」
メライアの呟きと共に、超高速で飛来した金色の矢がドレッドノートを貫いた。
「バカな、この俺が……!?」
「バカで助かったよ!」
ガリアが両腕を構える。手負いにはこれで十分だ。
「バレットスマッシャーナックル!!」
「覚えてやがれよクソ野郎が!!」
すぐに忘れるさ。
両の拳が天を貫く。大爆発の轟音と共に、先程まで人型だったものが辺り一面へと転がり落ちた。残りニ機。
「……潮時か」
敗北の予兆を掴んだのか、群青は再び変形すると遠いどこかへと飛び去ってしまった。何者なのかはわからずじまい。いつか邪魔になる気がする。
「クソが、どいつもこいつも……!」
ガリアワンが唸りを上げた。だらんと四肢を垂らしたディプダーデンは、まるで機能を停止したかのように立ち止まる。唐突な出来事に一同は身構えた。
「後悔させてやる。デン――」
しかし彼の言葉は同居人に遮られる。目まぐるしく入れ替わる人格は見ていて混乱するばかりだ。
「こいつ、気を抜くとすぐに勝手なことを!」
「ここは退くべきです」
「うるせえぞ、退いてどうするってんだ!」
「それは後から考えます。ディープ!」
ディプダーデンに再び火が灯る。気付いた頃には遅かった。湧き出す闇の中に、その機体は姿を消す。また仕留めそこねてしまった。
嵐が過ぎ去ったかのような静けさの中で、ようやくガリアは落ち着きを取り戻す。状況を再確認。ガリアはメライアを探していて、今、彼女はすぐ近くにいる。この機を逃してしまったら、もう二度と次が来ないような気がした。震える唇を噛み締めたガリアは、意を決して言葉を紡ぐ。
「なあ、メライア。話がある」
「後にしよう。今はこれを片付けないと」
言うなり彼女は水晶の視線を王城へと向ける。バッサリと切り捨てられてしまったガリアは、しかしめげずに彼女の視線を追った。そこには瓦礫の山がある。
「散々にやられてしまいましたわね。次が来るまでに片付けておきませんと」
「だな。それと向こうも……」
言いながら、ギルエラは動かなくなったサタンドールの胴体を貫く。全機破壊したところで、マジータちゃんが目を覚ました。
「うげ……キツかった……二度とやんない……」
「起き抜けの所悪いが、こっちの片付けもある」
「ええ……冗談きついよメライアちゃん……」
こうしてようやく片付けが始まる。一気に空気が緩んでしまった。もはや真面目な話ができるような状況ではない。
ようやく片付けが終わった頃には、すっかり日が暮れていた。これでも早く終わったほうだと思う。仮組みの格納庫の中で機体を降りたガリアは、体中の関節をボキボキと鳴らした。
恐らくそのタイミングを狙っていたのだろう。ガリアが肩の力を抜いた途端に、それは耳元で囁いた。
「今晩、私の部屋に来てくれ」
透き通るようなその声の主は、要件を伝えるなりそそくさと去ってしまう。どうやら先手を打たれてしまったようだ。
身構えることもできなかったガリアは、ただ悶々を夜を待つしかないのだった。
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