第10話 必殺の一撃、グローズビーム!!
「俺様とドラグリアンは逃げも隠れもしねえぜ!!」
外部音声を全開にしてガリアは叫ぶ。傍迷惑な騒音VMはどこのどいつだ。
「はぁ!? あなたバカなのですか!? わたくし一人で十分ですのに!!」
見覚えのあるエングレービングを全身に施した細身のVMが金切り声を上げる。こいつは今日の当番――マリエッタと言ったか――のVMだ。
「だったらさっさと片付けてろよ!!」
「うるさいですわね! ムキー!!」
役立たずには用がない。木っ端微塵に叩きのめすのはこいつじゃなくてあいつだ。
「わざわざご指名されたからな! 出てきてやったぞクソボケナスが!!」
マリエッタと対峙していたもう一体のVMに視線を向ける。待てよ、こいつは――
「待っていたぞ、ドラグリアン!!」
「お前は、ダークレイヴン!?」
午前中に突然現れてクラーケンを倒していった所属不明のVMだ。結果的に助けられたので敵ではないと思っていたのだが、完全に敵だった。
「俺を知っているのか? ……待てよ、その声……そうか、そういうことだったのか」
こちらの正体に気づいたらしい。ダークレイヴンの装者は、愉快な因果に高笑いする。なにが面白いんだ。
「これは一杯食わされた! イカだけにな! ガハハハハ!!」
「なにいってんのかわかんねえよ!!」
「わたくしを放っておかないでくださる!?」
冷静に見れば二対一の状況なのだが、誰も冷静で居られなかったので戦場は三つ巴の様相を呈していた。誰一人として味方が居ない状況で、ガリアは果敢に吠える。
「さっきは世話になったがな、だからといって容赦はしねえ! 脳天ブチ抜いてぶっ殺してやる!!」
マリエッタはキレた。
「ちょっと!? 貴重な尋問対象ですのよ!? 勝手に殺さないでくださる!?」
生け捕りなんて生ぬるいこと考えてるから手こずってるんだ。スラムの戦いを見せてやる。
「俺は捕まるぐらいなら死ぬぜ! 命令だからな!!」
あいつだってそう言ってるんだ。生け捕りなんてくだらねえぜ!!
「それ見たことか! 絶対殺すぞ必ず殺すぞ!!」
マリエッタはキレた。またしてもキレた。なんの機能か知らないが、装甲の隙間から赤い光と炎を漏らして天を仰ぐ。
「わたくしを煽っていらっしゃるのですか!? こうなったらもう容赦しませんことよ! 二人まとめてかかってきなさいな!!」
うるせえなあこいつも事故っぽく黙らせてやろうかなあ。
「見なさい! スカルモールドも
装甲の隙間から漏れ出す炎がマントのようにたなびく。次の瞬間、細身の機体が宙を舞った。
「吠えろスカルモールド!! アッターック!!」
ダークレイヴンの目前に着地、からの重く、それでいて鋭いワンツーパンチ。鋼の拳がダークレイヴンの装甲に打ち付けられる。鋼鉄の大合唱だ。うるさい!
「お前はどうでもいいんだよ!」
相対するダークレイヴンは乱暴に槍を振り回した。長く長く伸びた槍が地面ごとスカルモールドを引き剥がす。
「だよなあ俺が欲しいんだよなあ!」
奇襲をかける。空中で急旋回しノスフェラートミスト。黒い霧が大地を包み込む。
背後に着地――に見せかけて大胆にも正面へ! 唸れ鉄拳!
「うおらあー!」
大味な掛声と共にダークレイヴンは長く伸ばした槍を振り回す。ガリアは咄嗟に跳躍して回避。眼前に翼を広げた敵機が迫る。読まれた。
「こなくそ!」
「捕まえたぁ!」
正面に構えられた槍が伸びる。避けられない。ドラグリアンの肩を漆黒の槍が貫く。急激に力をかけられ、真っ逆さまに地面へと叩きつけられた
風圧で霧が晴れる。正面に立ったダークレイヴンは、ドラグリアンを見下ろして言った。
「俺のミッションはお前の捕獲だ。投降しろ。殺しはしない」
左肩を貫いた槍は機体を地面に縫い付けていて、身動きがとれない。衝撃でバランサーも異常をきたしている。修復回路を走らせているが、すぐには直らないだろう。絶体絶命のピンチ――ではない。
「わたくしを忘れないでくださいまし!?」
仁王立ちしていたダークレイヴンの胴体はガラ空きだった。不意に赤い赤い炎の尾が視界を埋める。スカルモールドの穿つような鋭い蹴りが、ダークレイヴンの胴体に炸裂した。
「サンキューマリエッタ!」
「あなたを助けたんですからね! この借りは必ず返しなさいな!」
よろめきながら立ち上がるダークレイヴン。胸部装甲が剥がれ落ち、装者の姿がちらりと覗く。
カラスのような鉄仮面には大きなヒビが入っていて、赤い髪がはみ出していた。装者は顔を押さえながら呻く。
「あったまきた……こうなったらミッションもクソもあるか。二人まとめてぶち殺してやる」
黒い翼をたなびかせ、ダークレイヴン空を舞う。上空で長い槍をまっすぐに構えて急降下!
「まずはお前だ! くたばりやがれ!!」
だが、今ならあれが使えるだろう。
「あれを使うぞドラグリアン!!」
ドラグリアンの胸部装甲が剥がれ落ち、新たに現れた装甲が展開する。魔方陣がレンズを形成し、光の粒子が湧き上がる。
「グローズ……ビーム!!」
視界を焼き尽くさんばかりの眩い光条。防眩フィルターが展開してなお眩しいそれは、一直線に降下するダークレイヴンを迎え撃つ。
「う……おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
反動で機体が後ずさるのを、スカルモールドが支えてくれた。
「もう! しっかりしてくださいまし!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
もっとだ! もっと輝けええええええええ!!
激しい火花が散る。ダークレイヴンの装甲が赤熱化し、崩壊を始めた。ぐつぐつと泡立つ鋼材の隙間から、溶け出した魔物の筋や魔核が流れ落ちる。もう装者は蒸発しているだろう。エネルギーの本流に晒され続けた巨人は、シルエットを徐々に崩していき――
爆発。
グローズビームは止まらない。爆発の衝撃を受け止め、更に強い衝撃がドラグリアンに襲いかかる。
遂にはスカルモールドでさえも支えきれなくなり、二機は勢いのままに吹き飛んだ。
漂う焼け焦げた鉄の臭い。ダークレイヴンだったものの残骸が飛び散る。もう、動くことはない。ティータイムを邪魔するものは居なくなったのだ。なんて晴れやかな気分なんだろう。最高だぜドラグリアン。
「なんてでたらめな出力ですの……恐ろしい吸血甲冑ですわね」
「最高のマシンだよな」
いまいち噛み合わない会話を交わしながら、一仕事終えた二人は帰路につくのだった。
※
ガリアは今、無断出撃の件でメライアからお説教されている。
「我々は指示で動いている。自己判断の領分を履き違えないように」
彼女が先回りして謝罪行脚に出ていたので処罰は下らなかったわけだが、それはそれ、ということらしい。
え、それじゃ駄目なの?
「勝ったんだし結果オーライだろ」
不意に股間に衝撃が走る。メライアがガリアの股間を蹴りあげたのだ。
「死ななかったし結果オーライだな」
この女可愛い顔して怖いな……。
しばらく彼女には逆らわないことにした。
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