もしもこの世界のすべての猫が転生組だったなら/塩谷米輔の場合

はむ

第1話「かくして彼は転生した」

「ここは……?」


 気づいたら真っ暗闇の中に居た。

 いや、真っ暗闇なのは自分の周りだけで、俺の目の前では金髪のおねーさんが眩しく輝いていた。


『ようこそっ、1415558578236251番さん』


「……そのやたら桁数が多い数字は何?」


『貴方の識別用IDです。頭のおかしい老害が10進法で魂を区別する仕様にしちゃったせいで、桁数がバカなコトになってますけど、気にしないでくださいね』


 うわーい、このおねーさんすっごく毒舌!


『そんなコトはどうでも良くてね。おにーさん、キミなかなか素質あるよ』


 なんか急に口調がラフになった。

 すごくイヤな予感がする。


「いや、それよりもココどこ……」


『あれ? この状況で大体わからない?』


『いや、全然。というか、俺どうなっちゃったの?』


『そこからちゃんと説明しないといけないみたいね。えーっと、シオタニヨネスケさん、でいいのかな?』


「あ、いえ。塩谷米輔シオヤメイスケと読みます」


 いつも思うけど、複数の読み方のある名前は説明が面倒臭くて困る。

 むしろ、おねーさんが間違えた読み方の方が色々と知名度的にも使い勝手が良さそうだし、正しい読み方を説明するだけで相手にガッカリされてしまうこともあるまい。

 まあ米輔ライスボールみたいなDQNネームじゃないだけマシだけどさ。


『ったく、フリガナも付いてないとかホントこのシステムクソだな……まあいいや。んで、メイスケさん。貴方は死にました』


 罵詈雑言のついでみたいな感じで、すごいサクッと言われてしまった。


『意外と驚かないのですね?』


「いや、あまり実感なくて……。死んだ時のコトも全然思い出せないし」


 俺がそう伝えると、おねーさんは目をつむりながらゆっくりと話し始めた。


『貴方は亡くなり、そしてココは生きていた頃とは違う世界、察しの良い貴方なら私が何者であるかは、もうお気づきですね?』


「……死神ですかね?」


『ぶち殺すぞ人間ヒューマン!!』


 俺の軽いジョークに対し、おねーさんから万力で締め上げるようなド級のアイアンクローが放たれる!!


「あだだだだだっ!! すっ、すみまっ! もうしわけございませんでした女神様ァッ!!!」


 俺の心からの謝罪、もとい服従の意思表示に満足したのか手の力を緩め、そのまま俺は地面にヘナヘナとへたり込む。


『素直で宜しい』


 コワイヨー!!


『さて、ヨネスケさん』


「メイスケです」


「『………』」


 なにこの空気。


『メイスケさん!』


 誤魔化したっ!?


『貴方は選ばれたのです』


「っ!?」


 死んであの世で女神様に思わせぶりなセリフを言われる王道展開!

 この後にはもちろん……


『転生して再スタートしてみませんか?』


「キタワアアアアーーーーーーッ!!!」


 思わずガッツポーズで立ち上がる俺を見て、女神様は優しく微笑む。


『うんうん、物分かりが良くて宜しい』


「それでそれで、俺はどうすれば良いの? 魔王を倒したりするのっ!?」 


『いいえ。貴方の世界に魔王は居ませんからそれは結構です』


 ありゃ? 異世界転生じゃないのか。


「じゃあ、スーパーヒーローになって地球を救うとか?」


『その枠は常に埋まってますし、貴方には不適ですね』


 確かにヒーローって柄じゃないけど、ストレートに不適と言われるとちょっと傷つくわー……。


『貴方の使命はただ一つ。御主人様となる女性を守り抜くことです』


「まさかボディーガードとか執事モノっ!?」


『えーっと……大体そんな感じです』


 返事が妙に雑なのが気になるけど、おにゃのこを守るために転生とかロマンがあって良いね。

 だが、転生モノといえばセオリーがもう1つあるだろう。


「その子を守るための、何かスゴい力や装備とかそういったものは授けてもらったりは……?」


『これといって無いですね』


 えええ……。


「俺、ケンカとか超苦手なんだけど、大丈夫なの?」


『特殊能力ではありませんが、転生前に比べると格段に身体能力が向上しますので、それを凄い力と言っても良いかもしれません』


 それなら良い……のかなぁ?

 一抹の不安は残るものの、ここで転生を断る理由も無いわけで。


「まあ、いっちょ頑張りますかねぇ」


『うんうん、偉い偉い♪』


 女神様に頭をナデナデされてしまった。


『では早速……ゲートオープン!』


「えっ?」


 俺の目の前に虹色のエフェクトがキラキラ輝く大きな輪っかが現れた。


「女神様、おもむきというか何というか、展開がスピーディ過ぎるような……。普通もうちょっとこの話題、引き延ばしません?」


『このくらいのペースで処理しないと仕事が滞っちゃうんで』


「処理とか仕事とか、少し配慮して言葉を選んでくれませんかねっ!?」


 俺のツッコミに、ウインクして片手を上げながら『めんごめんご~』とか言う女神様。

 なんだか釈然としない感じは否めないけど、ここで文句を言っていても話が進まない。

 俺は渋々ゲートの前で立ち止まると、女神様の方へ振り返った。


「それじゃ、行ってくるよ」


『はい、行ってらっしゃいませ。ご多幸を』


 女神様に見送られ、俺は不安な気持ちと共に、ゲートへ一歩踏み出した。

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