第4話「一歩を踏み出す勇気」
『なんだこれ、訳わかんねえ……』
呆然と俺の姿を眺める俺。
いや、自分でも何言ってるのかサッパリだけど、転生して自分に会うとかそんなのアリかよ!
「ありがとうおかあさんっ!」
『!?』
買い物を終えた桐子ちゃんたちが店から出てきた。
うああああああっ! 一体どうすりゃいいんだこの状況っ!!
そんな俺のコトはつゆ知らず、桐子ちゃんはいつにも増してヒマワリのようなニコニコ笑顔。
大事そうに両手で持った袋の中で、色とりどりのビー玉がキラキラと綺麗に光っている。
ビー玉……?
あれ……?
……?
『ぐっあ……!!』
酷い頭痛と共に意識が遠のく。
なんだ……これ……
~~
さて、もう一発ガチャに突っ込むと、食費が1日あたり32円しか残らない現実と直面している今日この頃。
今の時期は野菜も高いし、ひたすらモヤシスープで耐えるか……?
いや、そんな無茶をするとカロリー不足で死んでしまう。
一人暮らしを始めたばかりの頃、何も知らずに安売りのキュウリを大量に買い込んで朝昼晩をキュウリだけで過ごしたところ数日でぶっ倒れた経験から、カロリーの大切さを身を持って学んだのである。
「しゃーねえ、スレ立てるか。1日32円で食える高カロリーレシピを教えろください……っと」
電信柱にもたれ掛かったままスマホを操作して新スレを立てた俺は、何となく道路向かいにあるボロいオモチャ屋に目を向けた。
ガキの頃はあそこにスゴいお宝の山があるのだろうとワクワクしていたのだけど、いざ入ってみたら驚くほどショボくてガッカリだった。
あんなに品揃え悪くてよく潰れねーな……などと思っていると、店の中から楽しそうに笑う母子が出てきた。
名前は知らないけど、いつもこの時間に仲良さそうに歩いてる姿が印象的で、何となく覚えている。
「ありがとうおかあさんっ!!」
女の子が大事そうに両手で持った袋の中で、色とりどりのビー玉がキラキラと綺麗に光っていた。
あんなモンで喜ぶなんざ、
母親に手を引かれて歩く姿は何とも微笑ましい。
やっぱ親子ってのは良いもんだなー。
……俺には一生無縁だろうけど。
「あれ?」
女の子の背丈には袋が大きすぎたのか、袋をズルズルと引きずっているようだ。
あー、これはアレだ、ちびっ子がおつかいに行くテレビ番組で見たことある展開だわ。
このまま袋が破れて中身が出てきてお茶の間の視聴者がハラハラするヤツやね。
声をかけようか迷ったものの、俺みたいな怪しい男がいきなり声をかけたりしたら怖がるに違いない。
それに「あっ、あのっ、ふっ、ふくろっ!」みたいにキョドりそうだし、そんなコトで警察に通報されようものなら目も当てられない。
「あーーーっ!!」
案の定、女の子の引きずっていた袋は破れ、ビー玉がコロコロと道路に転がっていった。
女の子は慌ててその場に袋を置くと、転がるビー玉を追いかけて急に走り出し……えっ!?
子供は時に、大人が想像もつかないような動きをすることがある。
自動車教習所のシミュレータで、子供を模したオブジェクトがありえない軌道で突っ込んできて事故ったりとか。
だが、俺の目の前で今その「ありえない軌道」で女の子が車道に飛び込む姿が見えた。
いきなり手を振りほどかれた母親は反応出来ず、驚いた顔のまま立ちすくんでいる。
このままだと車道に飛び出した女の子は……!
「た、助けなきゃ……」
咄嗟(とっさ)に交差点に飛び込んだ俺は、女の子を突き飛ばし……
・
・
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普通、こういう時は二人とも助かって「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」みたいな展開が定石だよな。
もしくは最悪でも、女の子だけでも助かるのがセオリーってもんだろう。
なのに……どうして俺も女の子も倒れているんだ?
「なん……で……」
手を伸ばそうとしても身体が動かない。
目の前の女の子も……動かない。
ありえないほど広がる血溜まりが、俺たち二人が助からないことを意味している。
……ちくしょう。
……あそこで迷わなければ。
……あと5秒……いや、あと3秒でいい。
……せめてこの子だけでも。
……助けて、神様!!
~~~
『思い……出した』
ゆらりと目線を前に向けると、道路に転がるビー玉ひとつ。
俺は猛スピードで物陰から飛び出すと、
スマホ片手に呆然と立ち尽くす軟弱野郎に一瞬だけチラリと目を向けながらも、俺の狙いはただ一つ!!
―――誰もが呆然と立ち尽くす中。
―――街中を一匹の猫が駆け抜けた。
―――誰よりも速く。
―――何よりも速く。
―――迷うこと無く。
―――ただひとりの少女を救うために。
『いっけえええええぇっ!!!』
誰のとも分からぬ叫び声が辺りに響き、光の弾丸となった一匹の猫が女の子を突き飛ばした。
路肩に倒れて呆然とする女の子を見ながら、安堵の表情を浮かべた俺は……
俺は……
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