第2話 文句の一つ

海の上を滑るように進む船の揺れに慣れた頃、俺は1ヶ月前の事を思い出していた。

「謎だらけの明らかに異常な島で冒険か・・・」

いつ帰ることが出来るのか分からないが、初日から気が滅入る。

今にもホームシックで帰宅したくなっている僕に一つの陰が近づく。

「いよいよだな!」

強烈に打ち付ける潮風をものともせず、短い茶髪をなびかせ仁王立ちしているこの男はなぜこんなに楽しそうなんだ?

照り付ける太陽に目を細め、テンションの高すぎるルンルン気分のお調子者は何を考えているのか?何も考えてはいないのではないか?と思ってしまう。

これからのことで、頭が痛くなっている僕は少し怒り気味に冬雨に言った。

「ねぇ、今の状況分かってるの?」

「えっ」

「調査隊に参加したっていっても、僕たちより先に島に入った人は誰一人も居ない。つまり、あの島には安全に過ごせる保証は全くない」

「おっ・・おう」

「その上!あの島はありえない事が多すぎる。資料を見る限り島内含め付近に活火山は無く、数ヶ月前まで完全に何もなかったただの海になんの前触れも無く!

異常なことばかりの島で、元々安全なんてほぼ無いのに更に危険性が増す一方!」

「・・・」

あっ、一気に不満を爆発させてしまった・・・。

冬雨は驚いた表情のままフリーズしている。

そういえば中々に長い付き合いだけどあんまり冬雨の前で怒った事ってそんなに無かったっけ。

「ほ、ほら。もしかしたら今まで発見されてない何かが見つかるだろ?そうしたら俺達の実績は物凄いぞ。まあ、どっちにしても俺達はセキさんに行けって言われてたんだから行きませんなんて言えねぇんだからさ」

冬雨は僕の隣にどかっと座り込んでそう言った。

確かに。冬雨の言う通り、所長の命令を拒否できる度胸は僕には無いかな。

うちの所長は短気で面倒な性格恐いおじさんなのに、結構有名でいろんな方面で顔が利くので変に断ったら、この先研究していける保証は無い。

しかも、あの島みたいに危険な場所に送るのに、僕達のように実績の無いけどそこそこ使えそうな人を選んだ方が都合が良い。って考えなんだろうな。

その後、いつものように二人で話し込んだりトランプで時間を潰していると、いよいよ島に着いた。

「良かった」

あんなに行きたくなかった島に着いた僕は思わず安堵の息をこぼした。

「・・・ッッ!」

出発したときはあんなに元気だったのに、今では真っ青な顔で床に転がっている。

「・・・・・・・ッ!」

さっきからこれを何度も続けて耐えているようだけど、そろそろ限界なようだ。


無事上陸したが、僕たち含め調査隊の4割がわりとグロッキーだった。

これを無事と行って良いのかいささか疑問ではある。

まだ無事な6割は、拠点の仮設テントの設営と簡易的な周辺調査、荷物の運搬を行うが、僕は仮設テント設営に、冬雨は周辺調査に抜擢ばってきされた。

冬雨自身はよろこんでいたけど今にも倒れそうな船酔いゾンビなのに。

「あ”あ”あ”・・う゛う゛・・・・う゛っ!!」

心配だなぁ。なんか変な事とかしないと良いけど。

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実験体の赤 浅田 時雨 @74932015

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