第4話 巡る日々

 翌朝は、ちゃんと電車に乗れた。

 目を覚ますと身体が重くて、なんだかいつも以上に眠たかったけど、それでも起きて朝食をとり、いつも通りの電車に乗った。

 英単語帳を開き、吊革に捕まってふと下に目をやると、そこに座っていた女の子とばっちり目があってしまった。

 お互い、あわてて目を反らした。けれど、数秒後に「あの、」と小さな声がした。

「昨日、大丈夫でしたか……?」

 そこで気がついた。

 緑のリボンの制服。

 彼女は、昨日、電車の中から俺を見ていた子だった。

 驚いて何も言えずにいると、その子はぱっと顔を赤らめた。

「す、すみません。私、あなたのこと電車でよく見かけるんです。朝も夜も、同じ電車になることが多くて……。いっつも真剣に勉強してて、すごいなぁって思ってて。昨日、乗り遅れたのが見えたので、ちょっと心配で。……すみません。気持ち悪いですよね」

 慌てて早口に言葉を紡ぐ姿が、誰かによく似ていた。

 

 ああ、そうか。

『君を見ていてくれる人は案外近くにいたりしますよ。自分のことが情けないときもね』

 あの猫――、アトラスの言葉が、頭の中に響いた。

 ほんと、お節介な奴め。


 その子の顔は、昨日と同じように、俺のことを哀れんでいるみたいだった。

 なんだか、笑えてきた。

 それは、昨日のとは違う、温かくてくすぐったい、不思議な感情だった。

「そんな顔で見ないでよ。大丈夫だからさ」

 

 アトラス、なぁアトラス。

 お前の言ったこと、ちょっと信じて頑張ってみることにするよ。


「俺は、大野幸介。よかったら、名前、聞いてもいいかな」

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アトラス 七瀬葵 @kaoriray506

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