第7話

夕陽が、部屋をオレンジ色に染めて。時間の進みが、遅くなってきてーー。忘れていた寂しさが、また戻ってきた。


「お姉ちゃん……どうしたの?」


私は、また男の子を抱き締めていた。


「あ…れ……」

「また泣いてるの? 泣き虫だなぁ」


なんで私、泣いているんだろう。

私は、何を恐れているんだろう。


静かな夜。私は、緑色のサンダルを履いて、外に出た。


眠れなかった。


アパート前の駐車場。放置された古いタイヤに座って、空を見た。


「良い夜だねぇ。眠れないの?」

タバコ臭い母親が、隣に立っていた。

「うん」

母親から猫ちゃんが描いてあるカップを受けとる。甘いココア。


しばらく、母親と一緒にココアを飲みながら空を見ていた。


「寒くなってきたね。部屋に戻ろうか」

「まだ…ここにいる」

「そっか。風邪引くなよ」

「うん」

「あの…さ…」

「なに?」

「……ありがとう。お前が、あの子の友達になってくれたから。最近、あの子。良く笑うようになってきたから……。だからさ、ありがとう」


不思議な気分。温かい。


ドクンッ!


「!?」


ドクンッ! ドクンッ!


その時ーー。私は、宇宙の端からものすごいスピードで地球を目指す『大きな石』に気づいた。


私は、アパートと夜空を交互に見て。あの親子のことを考えてーー。


寒くもないのに手の中のカップが、カタカタ震えていた。



【 地球消滅まで、あと一週間 】



一週間後、地球を支配してきた王がまた消える。こうやってテレビを見ながら、親子とご飯が食べれるのもあとわずか。


「お姉ちゃん、焼いたチクワ嫌いだっけ? さっきから、ご飯食べてないけど」

「嫌いじゃない」

「好き嫌いしてるとオッパイも大きくならないよ? お前は、貧乳だからね~」


笑いながら、親子は仲良く話していた。現実なのに、触れれば消えて私の前から全部なくなってしまう。そんな夢のような幸せ。私は、親子の小さな世界から目を離せなかった。


「嫌いじゃないよ……」


神様。もし願いが叶うなら。この親子を助けてください。


「どうしたの?」

「これは、私の夢だよね。ほんと、良い夢……」


チュッ!


可愛いオデコにキスをした。


「やっ、やめてよ。恥ずかしい」

「あっ! この子、照れてる~。好きだもんね」

「す、す、好きじゃないよ!! 変なこと言わないでよ、ママ」


メイドちゃん。私ね……。ほんの少し。ほんの少しだけど、人間が好きになったよ。


………………………………。

………………………。

…………………。


親子が寝た後、私は親子にサヨナラして、町を出た。


「さようなら」


最後は、泣かなかった。

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