第3話


私を乗せた星が燃え尽きた。消えた星にお礼を言って、私は初めて憧れの地球に足をつけた。


「はぁ~~~、気持ちが良い。この土の感じぃ………」


背伸びをして、新鮮な空気を全身に送り込む。空には、キラキラと星が輝いていた。

私は、そんな星たちにピースをすると軽快に歩き出す。


「どこに行こうかなぁ」


少し先に明かりが見える。小さな町の明かり。


…………………。

…………。


私の足が、駅の前で止まった。


「すごいッ!」


人間が、ウジャウジャわいてきた。男も女もみんな忙しそうに動いている。


う~ん。なんだか…………


「多すぎ」


地球は好き。


でも人間は、嫌い。


礼儀を知らないから。道にゴミを捨てる輩。そんな汚い道に座ってバカ笑いしている売女。一番、我慢が出来なかったのは、私にぶつかっても謝りもしないこと。


だからね。ほんの少ーーしだけ



「お仕置き」


一瞬、私の体を黒い感情が支配する。メイドが言っていた副作用とはこの事かもしれない。


私は、車に潰されたバッタの死骸を手のひらに乗せる。ふぅーと息を吹きかけると新しい命が宿り、バッタは元気良く動き出した。その黒いバッタを世に解き放つ。


今まで地球に存在しなかった、新しいバイ菌をばらまく一匹のバッタ。


一ヶ月もすれば、この辺も静かになるはず。



「なんか眠くなってきちゃった……」



誰もいない壊れたビルに入り、汚い部屋で体を丸めて眠った。割れた窓から、満月が見えた。


「おやすみなさい……」



次の日。


ルンルン。ルンルン。

スキップ、スキップ、ルンルンル~


公園に行ってみた。男の子が一人、砂場で遊んでいた。


「ねぇねぇ~。何をしているの?」

「砂でプリンを作ってる」

「……プリ…? プリンって何?」

「えっ!? お姉ちゃん、プリンを知らないの? プリンはね、甘くて柔らかくて、とっても美味しい食べ物だよ」

「……ふ~ん」



ルンルン。ルンルン。

スキップ、スキップ、ルンルンル~


真夜中。

誰もいなくなった公園。

私は、ベンチに座る。わくわくしながら、『彼ら』が来るのを待つ。

足音がして、顔を上げると白い袋を持った人間(奴隷)たちが、ゾロゾロと公園に入ってきた。大きな袋を私に渡すと静かに帰っていく。


袋の中には、先ほどの人間が私の代わりに買ってきた大量のプリンが入っている。百個以上は、ある。


試しに一口食べてみた。


「あっ!……美味ちぃ」


口の中でトロッ。一口、もう一口……。止まらない美味しさ。こんなに美味しい食べ物があったなんて。


メイドにも食べさせてあげたいな。


「メイドちゃん。………どこにいるの? 私は、ここだよ。今、地球にいるんだよ」


口に入れたスプーンをカチカチ鳴らしながら、メイドを探した。


「…………はぁ」

地球にはいないみたい。


メイドに頭を撫でてもらいたかった。

抱き締めてほしかった。


……甘くて。


甘くて、ちょっぴり悲しい夜。

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