第8話 正義激突-2

 それでも、黙っているだけのことを、隠岐田は避けなければならなかった。

「ライカ、美化するのはやめて現実をみろ!俺たちの生まれたところに、なにがあった?美術館は?図書館は?部活、人付き合い、娯楽、勉強法、あらゆるものに対しての選択肢は?歩いて行けるところにコンビニはあったか?電車、バスは一時間に一本がせいぜいだったよな?同じ国に生まれても、生まれた場所でこんなにも違う、環境でこんなにも左右される。環境で何かをあきらめることがないように、だから俺は、限界集落に生まれる人間をこれ以上作りたくなかった。連鎖を、断ち切りたかった!」

「だからって!」

 一秒と間をおかず、鋭い声が返ってくる。

「生活の基盤を、無理やり壊すなんてこと、正しいとは思わない」

「間違ってるとは言わないんだな」

 一瞬怯んだのは、隠岐田の見間違いではない。

「責任の所在も曖昧で、結論は先送り。なあなあに議論して、気づいたときにはもう遅い。悪者になりたくないから、責任を負いたくないから。それなら俺は、すべての恨みを被ってもいいから、動けるうちに、取り返しのつかなくなる前に、打てる手は全て打つ!」

「たとえ痛みが伴うとしてもか!」

「なにかを変えるなら痛みは避けられない!程度が軽いか重いか、今か後かだ!」

 互いにわかっていた。

 この議論は平行線。

 論理を怒鳴りあって、睨み付けて、なにが変わるわけでもない。

 変えられない、戻れっこない、起こしてしまったことは、もう。

「なんで……」

 なんで。

 分かってくれないんだろう、なんて。

 わかってくれなくてもいい。そんな強がりを、目の前の相手には、したくなかったし、できれば、隣にいてほしかったのだ。

「もういい」

 怒鳴りあって、ぶつけ合って、それでも変わらないなら。

「恨みたいなら、気の済むまで、呪っておけばいい」

「それで済むとでも?」

「殺されても、俺は俺の信じたことをやる」

「……それはこっちだって一緒だ。どんなことをしても……」

 風でカーテンが大きくはためいた。

「緊急通報、緊急通報!領空内に侵入機体あり!警備ドローンが撃墜されました」

「スクランブルスクランブル!別途住民へは放送を!」

 柚井礼夏の通信機から、音声が漏れている。

 そこに割り込み通信が入った。

「リーダー!重火器積んだヘリが、まっすぐそっちに向かってます!迎撃不可能、すぐに退避を……」

「悪いな」

 危機を知らせた香寺に、柚井礼夏はゆっくりと遮った。

「目の前にそれらしき機体がある」

 銃口が、真っ直ぐに彼女の方へ向けられていた。


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