第6話 自らの行いと対峙せよ
強風を受けて、身体がかしいだ。
意識を持っていかれないようにして、踏ん張りをきかせる。
「大丈夫ですかー?あと二キロくらい、頑張ってくださいね」
先導する焼野は、すいすいと先を歩いていった。
金網の足元からは、海原が透けて見える。
本州と淡路島を結ぶ、明石海峡大橋。管理者用通路は、車が通る橋の下の部分にある。
「いやあ、なかなかできない経験ですよね」
「管理者用通路を歩くツアーも、倍率は高かったからな」
隠岐田達はボディチェックを受けたあと、焼野の車で運ばれた。そして車を捨て、橋を徒歩で渡っている。
「……だが、橋はまだ渡れる。今だってロケハンに使われるくらいなんだぞ」
「てめえバカか」
最後尾からうなり声がする。
殿を勤めるのは銃を手にしている香寺だ。
「まともに使われてない橋に車がぽつんと走ってたら、狙い打ちされるだろうが」
「ジェノバラインも高速バスも、運休して久しいですからねー。海路も陸路もダメならこうしてこっそり徒歩ってわけだ」
改めて、とんでもない場所に来てしまったと思いしる。
彼らはとっくに、起こりうる身の危険を予測している。
「おら、てめえの歩きがおせえんだよ」
「う、うるさいな」
「高所恐怖症なら手を引いてもいいですけど?」
とんでもない発言が振り返った焼野の口から飛び出す。
「慎んでお断りします」
いくらなんでもそんな情けない理由で女性に触れたくない。
やや弛緩した空気のなか、間延びした声が飛んだ。
「っていうかさ、焼野は独立支援機構側なわけ?」
「あー、それ言わないとだめですか?」
「いや、言いたくないならいいけど、県内のマスコミが沈黙してるのが気になって」
「ああ、まあ、確かに、日本への報道はしてませんね」
背筋に汗が流れる。
「一番後ろの香寺さん?はがっつり機構の人間っぽいですけど、銃の扱いや車への着地を見ると、一般人じゃないですよね?見たところ、それなりの訓練を受けた動きだ」
加東のつぶやきに、後ろからの殺気が強くなる。
「これは本当に疑問なんですけど」
加東が足を止めた。
全員がその場に縫い止められる。
「一体どこまでそうなんですか?」
ふっと笑った。
焼野も、香寺も。
「答えなんて、もう出てるんでしょう?加東さん」
それっきり、焼野は振り返らなかった。
生活促進法案により、自治体の解散が相次ぎ、問題になったのは公務員の処遇だった。
当該地方の警備に充てるとしても人は余る。
苦肉の策として、専門職員を中心に、近隣の自治体へと転入させる特別措置を行った。
例えば、ある程度の実務経験を持った教員や警察官は、簡単な試験と面接で他府県へ任地を変更可能とする、といった具合に。
兵庫県は、南北に広い。北は雪国、南は温暖。さまざまな風土がある。観光地も抱え、相対的に見て余裕があったことから、限界集落からの転入者、特別措置者とその家族の受け入れ数が突出して高かった。
公務員さえも関わっているとしたら。
問題は思ったよりも、大きい。
「とりあえず、おまえは、絶対に逃げようと思うな。命の保証ができなくなる」
香寺の言葉は、しゃれにならなかった。
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