第5話 進め取材班
生活促進法案は、試験的に北海道で始まった。
釧路、札幌、函館、小樽。道内に都市はいくつかある。しかし鉄道網は危機に瀕し、限界自治体は増加していた。
そこで浮上したのが、居住場所を集約し、生活インフラや教育資源の選択と集中をはかるプラン。これは反発も招いたが、それなりに成功した。
そして流れは少子高齢化に苦しむ本州の限界集落にも広がり、ついには命令へと変化した。
「正直どうですか?」
「承服できないと思ったから、柚井礼夏らは実力行使に出たんだろ」
かつて、緯度や経度で領土を決めたように。
白地図に書き込むだけで、移住が成り立つと思っている、そんな傲慢。
柚井礼夏は、ビデオメッセージでそう演説をぶっていた。
「僕は隠岐田さん自身に聞いたつもりなんっすけどね」
聞こえないふりをしてラジオの電源を入れる。地元局の周波数に合わせると、アップテンポな音楽が流れてきた。
「……ラジオはついてる」
「加東はこの状況、どうみる?」
淡路島へと入り、誰にも咎められずに無人の道をひた走る。
島は、法案制定以降、近隣の島民の移住を受け入れ、北は医療センターとして、南は水仙の名所の観光や研修施設として人が行き交っていた。
つい最近までは。
「マスコミはジャックされたわけじゃない、もしくは統制されてニュースは流してない」
「どっちだ」
「確定できないからこういう言い方しかできないんでしょ、科学者が可能性は0ではないって答えるのと一緒ですー」
思わずアクセルを強く踏む。
スピード違反のカメラにとらえられようが、構いやしない。
「というか、よく許可がおりましたよね」
「なにが言いたい」
「やり手とはいえ、隠岐田さんが、正面切っての交渉につくこと」
「上の判断だ、黙って従え」
「スパイと疑われても仕方がないし相手からしたら憎いだろうし、本当に」
「だから黙ってろって!」
がつんという音がしたのは、その時だった。
互いに目を合わせる。
ラジオを切ると、静寂だけが支配した。
「……何か踏んだか?」
「まさか。なにもありませんでしたよ」
車はそのまま走らせている。
周囲にはなにもない。
どうにも不気味だった。
「……一回止めます?」
「……そうだな」
減速し、道の真ん中で完全に停車させる。
バタンと扉をあけて閉め、異常がないかを確認しようと目をやったときだった。
「……隠岐田さん、無駄な抵抗はやめときましょう」
車の上には、目付きの悪い人間がまっすぐに加東へ銃を向けている。
さきほどの音の察しがついた。
ビルから待ち伏せて飛び降りてきたのだろう。
「銃刀法違反とはな」
「不法入国しておきながら余裕だな」
銃口が隠岐田の方へと向けられる。
ここで始末されるのか。
深呼吸したところに、けたたましいクラクション音が鳴り響く。
法定速度完全無視のワゴン車が突っ込み、ぶつかる寸前で急停車した。
加東が引き殺される寸前だった。
「……ちょっと香寺さん!独断専行はやめてくださいって……」
ウェーブがかった黒髪に、丸いかたちの細い眼鏡。降り立った運転手に文句を言おうとした加東はぽかんとしている。
「……焼野?」
「……加東さん?」
「知り合いか、おまえら」
「どうも、同業者です。焼野とは、通信社にいたとき、一緒に仕事したことあったかな」
「証拠は」
「あ、私面識ありますよ、この転職ジャーナリスト。本物です。名刺もありますね」
「あ、おまえいつのまに!」
名刺入れごとスッていたことへの 抗議むなしく、使い込まれた加東の名刺入れは男の元へと投げられた。
pressと書かれた腕章を揺らし、眼鏡がきらりと光る。
「なにしてんですか、こんなとこで 」
「取材」
違うだろ。
そんな突っ込みは、銃口を向けられているなかで行う勇気がなかった。
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