第3話 夜討ち朝駆け昼捕物
加東のスマホは荒い画像を写し出している。
被写体の人物は、隠岐田の知る面影を少しだけ残していた。
「柚井礼夏。地方自治体独立支援機構、学生団体連盟長。独立騒ぎを起こしたのは、肥大化した学生団体です」
耳を疑った。
「一学生が、そんなことをできるわけがない」
「かつての学生運動の激しさを、ご存じありませんか?」
大学で講義ができなくなったほどの学生運動は、1900年代中盤に発生していた。内容は頭に入っている。さらには決定的な写真をまざまざと見せられて、発したかった言葉は粉々に砕け散った。
SNSが発達しているのだ。
「たった一人でもカリスマがいれば、そして指導力があれば、優秀な人材と忠誠心を持った集団がいれば、できますよ」
「これが本物だって証拠は」
「偽物って証拠もないでしょうよ。大体こんなしょうもない嘘つくほど、お互い暇じゃない」
ブラックの缶コーヒーを一気に飲み干し、加東は笑みをはりつけた。
「……お前が知りたいのは」
「中央省庁の出方ですね。どうするんですか?」
聞かれて素直に答えられるほど、隠岐田はお人好しではない。
「さあな」
「内乱罪で持っていきます?それとも主権の侵害で、相手方を精査せず武力行使で即終結狙い?ダークホースで独立承認」
「想像にお任せするよ」
「なら想像を言語化しときましょう。大雑把に、さっきの三パターンが対応策候補になっている。中央省庁ではとっくに対策チームができているが、結論は出ていない。なぜならこれだけ大がかりなものでありながら、県庁やその他の機関に出向している人間からなんの連絡も入っていないから。加えてこちらにスパイがいる可能性も捨てきれない。よって連携がうまくいかず、身動きがとれない。記者会見も再三の延期を重ねている」
「……見てきたように言うんだな」
「まさかの正解だったとは嬉しいのか悲しいのかわかんないですけどね。……で、疑心暗鬼になってぐだぐだしていたら、事態は悪化するってわかってますよね」
「おまえに言われなくてもな」
内乱罪が適用されると、事を起こした者は 死刑又は無期懲役となる。武力行使をするのであれば、やはり命は吹き飛ぶだろう。このままずるずる時を重ねても、全うなレールには戻れない。
「なら、とるべき方法は1つですよね」
「…………」
「柚井礼夏と顔見知りのあなたが、現場へ向かい、交渉する。それしかないでしょう」
「この首謀者とは別に」
「今はなき某自治体で家族同然のように育ったのでは?たった二人の小学校、複式学級で顔付き合わせた人間を、知らないなんて言わせませんよ」
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