2

 穏やかな平日のゲームセンター————


 平日のゲームセンターに来るのはほとんど高齢者や学校が休みの子供たちくらいである。


 ————なんだけ、人が少ないわね。


 女店長はカウンターの席に座って、平和なゲームセンターを見つめていた。


 ————まあ、平日だけであってこういうものよね。甲斐君はしっかりと働いてくれるから安心なんだけど……。


「すみません。千円札でメダルくじをやらせてもらえませんか?」


 目の前に千円札が置いてあった。


「げっ‼」


 店長は嫌な声を上げた。


 目の前にいるのはまたしても里菜だった。


 ————て、店長。か、彼女は‼


 ————え、ええ。店のブラックリスト№8 山田里菜だ。


「すみません‼」


 里菜は店長に話しかける。


「あ、すみません。せ、千円ですね。二回どうぞ」


 店長は千円を受け取ると、箱の中に入っているくじを目の前に出した。一等はメダル二千枚。二等はメダル千三百枚。三等千枚である。


 里菜は右腕を箱の中に入れて、右手で二枚つかみ取る。


「…………」


「…………」


 二人は里菜が何を引くのか真剣な眼差しで見つめていた。


「あ、当たった……」


 と、里菜の口からそう言葉がこぼれる。


「「な、何ぃいいいいいいいいい!」」


 二人は店内で大声を出した。客は何事かと、二人のいるカウンターに目を見る。


「はい、合計で四千枚。すぐに用意してね。あ、そうそう、二千枚と二千枚に分けてね。お願いします」


 里菜の引いたくじは、箱内にたった三枚しか入っていない一等のくじだった。


「は、はい……。分かりました」


 店長はしぶしぶ四千枚を用意して里菜の手元に置いた。


「でも、お嬢ちゃん。一人で四千枚って大丈夫なの?」


「あ、大丈夫です。翔兄が向こうで待っているので……」


「え?」


 里菜が指さす方を見た。すると、そこには次男である翔太郎の姿があった。


 ————て、店長‼


 ————おぃいいいいい! 一人でも大変なのに今日は悪魔が二体現れたよ!


 店長と甲斐は、また、絶望感に押しつぶされそうになった。


「さてと、小遣い分しっかりと稼いでもらおう」


 里菜は小声でいい、翔太郎の所へ向かった。



 三時間後————


「あの子たち帰った?」


「さあ? 店長、俺はみていないっすけど……」


 二人が話していると、向こうの方でざわざわと人が集まっていた。


「がっ‼」


 二人が振り返ると、翔太郎と里菜が二人揃って、メダルを手持ちの二、三倍以上に増やしていた。


 ————今夜は一緒に反省会でもしましょう。


 ————ラジャー……。


 二人は無き目半分になり、落ち込んでいた。

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