3
日曜日————
台所で
大学生でありながら家族のために家事や洗濯など、母親代わりを十年も続けてきた。
雪乃は里菜と同じ部屋で寝ており、
「すー、すー、すー、すー」
里菜はいつも通り、二段ベットの下の方で寝ていると、いい匂いが風に乗って流れ込んできた。
「ん、んん……」
視界が少しずつ開き、欠伸が出た。
ゆっくりと体を起こし、立ち上がると、部屋の扉を開いた。
「あら、里菜。早いわね。おはよう」
「うん、なんだかいい匂いがしたから……」
「里菜、挨拶は?」
「はぁーよう……」
里菜は欠伸をしながら雪乃に挨拶をする。
「そーじゃないでしょ。欠伸をするな……」
雪乃は右手をボキボキと鳴らす。
「お、おはよう……」
里菜は我に返って、ビビりながら挨拶を返す。
「雪姉、朝早いよね。日曜日、何かあった?」
「何言ってるの? 一週間買い物もできていなかったから買い物に行くのよ。大学生だと、休日しか暇が無いからね」
「ふーん」
雪姉が目玉焼きを作りながらそう答えた。
「だったら、私も手伝うよ。何をすればいい?」
「戸棚から
雪乃が未だに眠そうにしている里菜にそう言った。
里菜はすぐに洗面所に行き、トイレを済ませた後、石鹸で手を洗い、顔を何度も洗った。
鏡を見ると、自分の情けない顔が目の前に映っていた。
そして、台所に戻ると雪乃が手で口を塞ぎながら笑っていた。
「り、里菜。ついでに髪を直してから来なさいよ……。まあ、いいんだけど……」
寝癖があまりにもひどすぎて笑ってしまう。
里菜はそんな事を気にせずに戸棚から海苔を出し、ついでにチョコレートを取り出す。
「待て待て、お菓子は取り出さなくていいの。それはみんなで分け合って食べるんだから……」
「だって、これ、賞味期限が後二日になっているから食べてもいいでしょ」
「ダメよ。それは後にみんなで分けるから戸棚に直して‼」
雪乃は海苔だけ受け取り、チョコレートを直すように指示をする。
里菜はしぶしぶ戸棚に直して、コンロの前に立った。フライパンの中で目玉焼きが出来つつある。丁度いい半熟なところで火を止めて、テーブルに並べてある皿の上にフライ返しで一つづつ置いていく。
「あ……」
里菜が最後のさらに目玉焼きを載せようとしたところ、黄身が割れ、中身が出てきた。
「これ翔兄のでいいよね。雪姉」
「おい……。なんで俺だけ黄身が割れているやつなんだよ」
そこへ
「だって、翔兄だったら気にしないでしょ?」
「いや、目の前で見せられて黙っている奴の方がおかしいと思うんだが……」
「お前ら、朝っぱらから喧嘩か? 雪乃、朝飯は後どれくらいで出来る?」
「後五分くらいで出来るよ。お兄ちゃん、コーヒーは自分で作ってよね」
「はいはい、分かっているよ。そう言えば、今日のお天気番組は可愛い美人が出る日じゃなかったか?」
「マジか、兄ちゃん‼ 早くテレビ! シェイプアップラン!」
「ハリアップの間違いだろ……」
陽介は狭い家の中を細かいステップで走る翔太郎に呆れた。
二時間後————
「もう八時半か……。お兄ちゃん、買い物に連れて行って!」
「面倒くせぇ……」
「連れて行って! 家の事をいつもしているのは誰だっけ?」
リビングで横になっている陽介に雪乃は怒る。
「分かりました。雪乃様、仰せのままにそのパシリをさせていただきます」
すぐに行動に移す陽介を見て、下の二人は、
「この家の大黒柱は姉ちゃんだな……」
「うん。雪姉に勝てる相手なんてこの家にはいないよ……」
久々にこの家の主が長男ではなく、長女だということに改めて思い知らされた二人であった。
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