第2話
「ど、ドンマイだよ! 次からはまた頑張ろうねっ」
どんよりとした空気に耐えられなくなったのか、ころなは努めて明るい声で話かける。
彼女自身も落ち込みたい気持ちだったが、ここは名目だけとはいえシューティングスターズのリーダーとして、空元気であってもメンバーを元気づけなければと思っていた。
「あのさぁ――恭子。もう魔法少女、辞めるから」
「……え?」
必死に作ったころなの笑顔も、ポツリと漏らされた恭子の呟きを聞いて強張ってしまう。
「ど、どうしたの恭子ちゃん? いきなり、魔法少女を辞めるなんて……嘘、だよね?」
「嘘じゃないって。恭子、マジだから」
恭子ははっきりと、ころなの抱く甘い期待を打ち壊す。
「ごめん、ころな。ウチも抜けさせてもらうから」
「そんな、直子ちゃんまで……二人とも、急にどうして……」
恭子に同調するように、直子も脱退の意志を告げる。
今まで苦楽を共にしてきた仲間から、突きつけられた突然の別離の言葉に、ころなはただただ茫然とするしかなかった。
「前々から恭子と一緒に考えてたんだよね。ウチらこのまま魔法少女続けていいのかって」
「成績はユニット結成から最底辺のDクラス。しかも、その中でも落ちこぼれやら、お荷物やら、お笑い担当って……社長には毎回、さっきみたいに嫌みとか言われるし。ぶっちゃけ、これでまだ頑張ろうって思える?」
「それは……」
ころなもその気持ちは痛いほどに分かるので、咄嗟に言い返せず言い淀んでしまう。
「で、でも、まだこれからだよっ! いっぱい特訓して、努力すれば、いつかきっと――」
ころなは何とかして引き留めようと根拠のない希望的観測を口にするが、
「いつか、って……そんな保証、どこにあるわけ?」
恭子はそれを遮るように、ばっさりと辛辣な言葉で切り捨てた。
「そういう面倒くさいのが嫌だ、って言ってんの。別に恭子は、ころなみたいに魔法少女をマジでやってるワケじゃないから。いい加減、気付いてよ」
「え、それってどういう……」
「魔法少女になったのは、MKJ48に入りたかったからだし」
「MJK48って、確か魔法少女限定で結成された、アイドルユニット……だよね?」
「あそこって最低でもBクラスの魔法少女じゃないと、選抜試験すら受けられないから。初期適性がDクラスの恭子じゃ、どっかでBクラスまでの実績を積まなきゃだったしぃ」
魔法少女は適性の有無を判断する適性検診によって、初期適性のランクを決められる。
一般的に平均がC、優れている者がB、劣っているものがD、とそれぞれのクラスに振り分けられる。極めて高い適性を持つ者はAクラスに振り分けられるが、これは非常に珍しい事例でもある。
「恭子にとって魔法少女なんて、芸能界に進出するための踏み台なの。Bクラスくらいすぐに昇格できると思ってたけど、Cクラスにすら上がれないなんてとんだ誤算よね」
「確かに魔法少女出身の人は、タレントになることも多いけど……でも恭子ちゃんだって、今まで頑張ってきたじゃない!」
確かに魔法少女として実績を残した者は、輝かしく芸能界に進出することもある。
しかし、本当にそれだけだったのだろうか?
ころなは辛苦を共にしてきた仲間として、問いかけずにいられなかった。
「――今までは全部、アンタに合わせてあげてたの。ころなが必死だから仕方なく、ね」
「そんな……」
ころなは無慈悲な返答を聞いて、顔から血の気を引かせていく。
「ウチもさ……正直に言えば、もう付いてけないんだよね」
沈黙してしまうころなを見て、それまで黙っていた直子がポツリと呟きを漏らす。
「そりゃ、さ。初めて魔法少女の適性があるって分かった時は嬉しかったよ。この仕事は自分にしかできない、って誇らしい気持ちにもなった。自分は選ばれた人間で、代わりなんかいない――そんな風に思ってた」
ポリポリと頭を掻いて、ばつが悪そうに直子は言葉を続ける。
「でもさ……現実には代わりなんて、たくさんいるじゃん。ウチらは所詮、その他大勢なんだよ。頑張っても誰も誉めてくれないし、それどころか笑い物じゃんか」
「直子ちゃん……」
華やかなイメージがある魔法少女だが、それはあくまで一握りの存在だけだ。
ころなたちの所属するDクラスともなれば、その功績が認められることは少ない。
「わたしは――」
しばらく沈黙するころなだったが、やがてゴクリと固唾を飲んで怖ず怖ずと口を開いた。
「わたし……諦めたくない。報われなくたって構わない! 笑われたっていい! だって、せっかく憧れてた魔法少女になれたんだから、みんなのためにこの力を使いたいのっ!!」
ころなは胸に手を押し当てて、必死に二人へ訴えかける。
普段は気弱な彼女だったが、この時ばかりはなけなしの勇気を振り絞る。
「ころながさ、魔法少女に一生懸命なのは知ってるけど――」
ころなを見て恭子は、ため息混じりに口を開く。
「誰もがみんなころなみたいに、一生懸命になれるわけじゃないの。だからそうやって、自分の考えを押しつけるのやめてくれない?」
酷く冷え切った声で、淡々と恭子は言葉を続ける。
「ぶっちゃけさ――ウザいんだよね、アンタのそういうとこ。いい加減気づいてよ」
突きつけられた言葉はころなの心を抉り、彼女はもう反論することができなかった。
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