第一章 天道ころな、魔法少女です!
第1話
『――以上が現場からのニュースでした』
『いやー、しかし……シューティングスターズは、今回もやってくれましたね』
『流石はDクラスのお笑い担当ですね。怪人は捕縛できませんでしたが、今日も我々に上質の笑いを提供してくれました』
『はっはっはっ! 魔法少女としてはアレですが、芸人としてならもう一流ですね』
事務所に置かれたテレビから、アナウンサーとコメンテーターの笑い声が聞こえてくる。
先日のニュースに対して、面白おかしくコメントが流されていた。
しかし、テレビが置かれた室内の空気は、そんな賑やかさとはかけ離れていた。
同席している人間はみな静まりかえり、お通夜のような冷め切った雰囲気が漂っている。
「さて――」
そんな殺伐とした空気の中、一人の女性が沈黙を破るように重々しく口を開いた。
「これはいったい……どういうことかしら?」
その人物は不機嫌さが見え隠れする声のまま、ギロリと鋭い目つきで眼前を睨みつける。
「あ、ははは……えーっと、これはですねー……」
その眼光に射抜かれたように、ビクンと身体を振るわせる一人の少女。
耳の後ろで二つに結われた鮮やかな赤毛が、動きに合わせるようにピョコンと揺れた。
魔法少女・サンシャイン――天道(てんどう)ころなは、冷や汗を浮かべ苦笑混じりに言葉を濁す。
十五歳でありながら百五十センチに届かない小柄な体躯は、緊張で小刻みに震えていた。
「見たまんまですよ、社長。こいつらが足引っ張るから」
魔法少女・コメット――山崎直子(やまさきなおこ)は、ため息混じりに肩をすくめる。
ショートボブに切り揃えられた髪とつり目が活発な印象を与えるが、その表情はムスッと口をへの字に歪めていた。
「ちょっと、それってどういう意味ぃ? 別に悪いの恭子じゃなくない?」
同じく魔法少女・ミーティア――早見恭子(はやみきょうこ)は、気だるそうに髪をいじりながら反論する。
百七十センチに届きそうなすらりとした体躯は、バランスのいいモデル体型とも言える。
更に明るいトーンに染めた派手目の茶髪は、優雅になだらかなウェーブがかっていて、彼女が他の二人と同世代にしてはあか抜けている印象を強くしていた。
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
険悪なムードで顔を合わせている二人を見て、ころなは苦笑いを浮かべながら間に入る。
「最終的にウチらを撃ったのは、ころなじゃんか」
「そーよ。撃つ前に普通、気付くでしょ?」
「うう……ごめんなさい……」
二人は議論の矛先をころなへと変え、非難するような視線をじっと送る。
ころなは正論なので言い返せず、涙を目に浮かべながらしょんぼりと肩を落とした。
「あんたたちねぇ……そんなのだから、いつまで経っても落ちこぼれって言われるのよ」
そんな三人の様子を見て、タイトなスーツに身を包むキツめの美人といった容姿の人物――ホアカリグループ代表取締役、早乙女石榴(さおとめざくろ)は悩ましげに再び嘆息を漏らした。
赤いフレームの眼鏡越しには、鋭く細められた目がころなたちを見据えている。
「怪人たちの出現から早五十年……今や魔法少女は、彼らに対抗する唯一の希望と言っても過言じゃないわ。こうしている間にも新たな魔法少女が誕生し、同時に結果を出せなかった者が消えていく。乱立する魔法少女たちの中でも抜きんでるためには、いつまでもこんな醜態をさらしてちゃダメよ」
怪人――それは異能と呼ばれる超常の力を悪用し、大小様々な悪事を働く存在である。
彼らが如何にして誕生するのか、詳しいメカニズムはまだ解明されていない。
後天的に脳細胞を変容させ偶発的に能力を発症する彼らは、人類の突然変異種ともまことしやかに囁かれている。
先日、ころなたちが相手取っていた男もまた。怪人と呼ばれる存在だった。
「いい? あなたたちはホアカリマートの看板を背負ってるの。あんな無様な姿を毎回さらされちゃ、広告塔として失格よ」
早乙女は表情を険しくして、語調を強めながら言葉を続けた。
「あたしは別に道楽でスポンサーをやってるわけじゃないの。魔法機器のメンテナンスやあなたたちの給料、それから魔法少女管理機構に収めている税金だってかなりの額になるのよ? 対価に見合った働きをしてもらわなくちゃ、ウチの社員にも申し訳が立たないわ」
ホアカリマートとは、ホアカリグループの経営するスーパーのことだ。
この街に本拠地を置く企業であり、主に食品や住関連の販売を行っている。
シューティングスターズは、このホアカリグループからスポンサーとして支援を受けている立場にあった。
「魔法少女として活動するのには、莫大な資金が必要になるわ。だから魔法少女は、金銭面で支援してくれるスポンサーと契約する。その見返りとして、魔法少女は活躍してニュース番組や新聞でスポンサーの名前を売る……業界の常識よね?」
「うう、ごめんなさい……」
早乙女の言う通り、魔法少女はスポンサーの名前を背負う広告塔だ。
優秀な働きをすれば大々的に取り上げられるし、逆に活躍しなければ話題に挙がることもない。魔法少女の名声は企業のイメージとイコールで結ばれていて、今のシューティングスターズは悪目立ちしている面が否めない。
「我が社としては、このままお笑い路線じゃ困るのよ。もっと派手に活躍してもらわないと、せっかくユニット組ませてる意味がないじゃない。普通の魔法少女より三倍のお金をかけてるんだから、いい加減にそれなりの結果を残しなさい……いいわね?」
最後に念を押すように言うと、早乙女は事務所から出て行った。
部屋に残された彼女たちは、重苦しい雰囲気のまま沈黙するのだった。
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