第4話 分かってはいたけれど

夕日が沈み始め周りの景色が紅く染まる

人もだんだんと少なくなり少し歩くのに余裕ができる


「忍君は今日しゃぎすぎじゃない?」


「そうかな、それよりも葵さんの方がはしゃいで無かった?」


「そんな事ないわよ」


とは言いつつも足取りはいつもより軽く

顔は少しでも平然を保とうと頑張っている


「そんなことより、あれ乗りましょうよ!」


指を刺された方に顔を向けると大きな観覧車がゆっくり回っている


「うわーベタだなぁ」


「いいじゃない別に、何それとも忍君は果たしと一緒に観覧車乗りたくないの?」


いたずらぽく笑いかけられる


やっぱかなわないなぁ


「はいはい乗りたいな、すごーく乗りたい」


「なら仕方ないわね、行きましょ」


「あ、ちょっと待ってよ」


後ろから追いかけ横に並ぶ、その距離は始めに比べてかなり縮まっていた






「ねえ、忍君」


「どうしたの葵さん」


二人観覧車に乗り込み景色を眺める

観覧車は今この時にも少しずつ高く上へ上へと動き続ける


外を見ながらぼそりと呟く


「もしさ、神様なんてのがいたら凄く理不尽よね」


少しどきりとし、少し間を置き返す


「なんで?」


「何でも」


「そっか」


互いにぼそり、ぼそりと会話する

なんだか何度もこんなことがあったかのような

デジャヴそうゆう類のものかもしれない


「ねえ、忍君」


美しく、見てるだけで魅入られてしまう

そんな美しい凛とした顔が目の前に

近く

目と目が見つめ合う


「そのままの君で居てね」


どこまでも優しく発せられた優しい言葉


「ああ」


しかし僕は生返事をする

僕は嘘はつけない人間だ


「じゃあ、約束して」


ほのか

「火乃香にはあんまり親しくしないで

あげて」


火乃香は僕が僕が高校卒業前に話しかけてきてくれた子だ


観覧車はてっぺんを過ぎもう終盤へとさしかかっている

だが返事を返すのには十分な時間がある


その時僕の中に確かにもう一人の自分がいた


「ありがとう」


僕の声ではあるが、僕の声ではない

一つのものを救うため、汚く、汚れ切った

暗い塊だった


その時僕が作った顔は、精一杯の大人びた笑顔だった



「ご乗車ありがとうございました、お忘れ…」


機械的な音声が僕たちの意識を今へと戻す


「さ、降りなきゃね」


「そうだね…」


もういつもの自分に戻っていた




電車が駅に着き改札を出る


「今日は楽しかったわ」


「僕もだよ、ありがとう、また学校で」


「ええ、また学校で」


忍君は軽く手を振りポッケに手を突っ込むと

人混みの中に消えていった


「ねえ女神さま」


軽く独り言のようにつぶやく


「どうしたの?葵ちゃん」


すると彼女は駅の物陰からひょっこりと姿を表した


「忍君はまだ未来の記憶は持って無いのよね?」


「そのはずだけど...」


「最後に観覧車に乗った時さ、軽く未来のことも混ぜて会話したのよ」


「まさか」


少し目が大きく開く


葵は少し頷き自分も少し整理するように言葉を吐き出す


「まるでわかってるような口ぶりだった、

そして最後は私も知らない彼だった」


周りの雑音の中、まるで自分たちだけ音が聞こえていないかのように感じられた


「絶対に私は火乃香の願いを叶えるわ」


願いを離さないようねの中でぎゅっと握り込む


「私もあなたたちのためなら全力で応援する よ」


「ありがとうね、女神さま」


ただ暖かい温もりを求めて女神さまに飛び込んだ


「よしよし」


受け止め頭を撫でる

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